<目指したもの>
頼りないペンライトで真っ暗な闇を照らしつつ、俺とアリアはシャッターを背に座っていた。
「いつになったら気づくんだか」
「さあな」
・・・・・
十分前
「全然ないな。アリア、そっちにはあるか」
「いいや、ない」
俺とアリアは倉庫の一番奥の区画で旧式の装甲歩兵に関する資料を探していた。新式と旧式の説明をするためにレイチェル中尉に探してくるように頼まれたのだが、旧式の装甲歩兵に関する資料が全く見つからないのだ。
実は、新式の装甲歩兵はまだ俺たち六人しか教育が行われていない。実際に戦地となる地域で機体のテストと同意に俺たちの教育が行なわれているということなのだが、すでに多く製造された旧式はその必要がなく、関係資料が倉庫のどこかに埋もれてしまっているのだ。
「もう少し奥を探すか・・・」
そう思いながらアリアの探しているさらに奥へとむかう。
ブー
「なんだ、なんだ」
「シャッターが!」
突如としてブザーの音が倉庫中に響くと倉庫内の区画を分けるシャッターが下がり始める。そしてシャッターが完全に閉まると倉庫内の照明も一気に消えた。真っ暗になる倉庫、そこに一筋の光。
「大丈夫か」
「何とか」
アリアのペンライトに照らされながら閉まってしまったシャッターを見つめていた。
・・・・・
しかし、シャッターが閉まってから何の変化もない。そろそろこちらからも行動を起こそうと立ち上がった。
「どうした」
「何か、外につながる電話とかないかと思ってな」
そういいつつ探してみるが、シャッターの両端にもそれらしきものはない。しかし、それでも何とか積み上げられている荷物をかき分けて探していると壁にスイッチらしきものを発見した。
カチッ
スイッチを押し込むと一気に明るくなる。荷物に阻まれていてよくわからなかったが、どうやら倉庫の中に小さな小屋のようなものがあったらしい。
「なんだここは」
「わからん」
俺とアリアは部屋にあった椅子に腰かける。部屋の一面には棚一杯に冊子が詰められている。アリアは棚から冊子を出すとテーブルの上に置く、一方の俺は部屋の端にある冊子に手を伸ばしていた。
「ん?これが頼まれていた資料か・・・そっちはなんだ」
「この倉庫の仕様書だな」
どうやらこの倉庫はかなり頑丈に造られており、外壁が分厚いだけでなく倉庫の正面扉を閉じることによってすべての区画をシャッターで隔離するようになっているようだ。つまり、壁やシャッターを叩いても誰にも聞こえないのだ。幸い、待つにはいい場所なので俺とアリアは椅子に座りながらその時を待つことにした。
「なあ、なんでお前はここに来たんだ」
アリアは口を開くといきなりそんなことを聞いてきた。
「ん?校長に推薦されてな。まあ、身長だな」
それから俺とアリアの身の上話が始まった。
・・・・・
「私も似たようなものかもしれないな」
俺の話が終わるとアリアはそんなことを言った。
アリアは戦車学校から来ているが、いままでいろいろなことがあったらしい。アリアが陸軍に入ったのは両親がともに陸軍の軍人だったからだそうだ。しかし、父親は前の戦争で戦死、父親と同じ戦車兵を目指して学校に入ったのだという。
「でも、装甲歩兵が出てきてから戦車も減る一方でな・・・」
航空機も戦車も装甲歩兵の登場によって削減されてきた兵器たちである。本来そんな兵器に乗るはずだった人間が装甲歩兵に乗ることになるとは何とも皮肉なものだ。
・・・・・
それからは二人ともただ黙り込んで沈黙が続く。結局俺たち二人が助け出されたのは、レイチェル中尉がいくら何でも遅すぎる俺たち二人の様子を見に来てからだった。