<訓練>
翌日から俺たち六人への教育が始まった。午前中は新兵教育が行われ、午後からは実際に装甲歩兵を動かしながらの訓練が行われる。しかし、装甲歩兵の訓練といってもやることは普通の歩兵と変わらない。軍の中だけでなく世間一般でも装甲歩兵は「機体」といわれたり「一体、一台」といわれれたりしているが、装甲歩兵はあくまでも歩兵装備の一つというのが公式の取り扱いなのだ。
そのためすでにこの一週間でやったことといえば普通の歩兵と変わりなく、行軍に射撃、ミサイルの取り扱いといった訓練のほか塹壕をほるといったことだ。射撃はモニターで照準をつけることができるし、ミサイルに至っては自動で目標まで飛んでいくので非常に楽だ。唯一難しいことを上げるとすれば、それは足場の悪いところでいかに体制を維持するかということだろう。普通のロボットであれば倒れないように設定することも技術的に可能だが、戦場である以上素早く伏せたりすることも必要なので装甲歩兵ではそういったことができないのだという。そのため受け身も取れないまま倒れてしまうこともあり、倒れないためには操縦者次第というところがあるのだ。
しかし、俺は装甲歩兵よりもはるかに速い飛行機乗りを目指していたのだ。即座に反応して機体を立て直すといった反射神経は人一倍早い。何とか転ぶこともなく訓練こなしているが、問題はここからだった。
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「おいアレックス!もっと頭下げろ!」
俺たち六人は、いま匍匐前進で這いずり回っている。教官であるレイチェル中尉の声が無線を通じて聞こえてくる。どうも地面を這いずり回るのは俺の柄ではない。肢体のどこかを支点にして進むのだが、地面に食い込ませて進もうとするとどうしても体が上に持ち上がってしまう。こういった細かい作業を要求される操作はあまり得意ではないのだ。
「アレックス。遅れてるぞー!もっと早く動け」
「了解!」
その後、匍匐前進のあとは土嚢積みや塹壕掘りなど丸一日俺にとってつらい時間が続くことになった。
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訓練ではここの地形や環境になれることの必要性を口うるさく教えられる。なぜなら三年も続いているこの戦争はここ「アタセン」の国内のみで行われているのだ。前の戦争で「ウイング」と「ジーナ王国」が講和を結んだ後、「アタセン」は「ジーナ王国」と同盟を結んだ。しかし、元を言えばこれが悪かったのだ。
「アタセン」は同盟を後ろ盾として数々の不法行為や国際的非常識を「ウイング」に対して行なった。また戦争をしたくはないだろうと高をくくっていたのだろうが、奴らは限界を知らな過ぎたのだ。
こうして両国間の戦争に発展したが「ジーナ王国」は同盟があったため仕方なく宣戦布告をせざる負えなくなった。結局「ウイング」と「ジーナ王国」の戦争は二、三年で再び戦うことになってしまったのだ。
最初の方は「アタセン」を抑えれば終わると思っていた戦争であるが、アタセン国内でジーナ王国軍に被害が出てしまったことから両国の世論に火がついてしまい「ウイング」が「アタセン」を完全に占領した後も戦争が続くことになってしまった。しかし、「ウイング」も「ジーナ王国」もお互いの領地に入って戦闘を行なえば再び大戦争になることはわかっている。そんなこともあり、この「アタセン」国内だけで戦争をすることが両国間の暗黙の了解になっているのだ。