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第23話

 彼からすれば、助けたなんて大仰な話ではなく、ただただそこに居ただけ、という感覚で感想で収まる話であったのかもしれない。

 でも、私はたしかに助けられたのだ。

 そしてそれこそが、私が彼のことを好きになった理由にして原点である。

 私がこの街で前向きに生きていこうと、この街の人達を好きになろうと決めた、私が生きる根源ですらあると言っても過言ではない。


 そうして、彼との出会いから一年以上が経過した今。

 この街の人達が精一杯生きていることを、私は知っている。

 平和な街であっても、楽しいことばかりがある訳ではない。ツラいことや悲しいことだって、生きていく上では幾らでもある。

 ただ、外地の基準で言うならば、あちら側では生死に関わるメーターが常に限界一杯どころか振り切れているだけで、それ以外の部分についてはそう変わりはない。

 今の私がこうやって恋愛で心を痛めたり、でもそれを楽しんでいる節もあるように。

 友香が授業中の居眠りで先生に呼び出されて追加の課題を出されて嘆いていたり。

 沢渡さんが、……いやあの、沢渡さんはアレだ。……アレってなんだアレって、えっと、そう、何というか私の近くに居る時はいつも幸せそうだけど、きっと彼女にも彼女なりの悩みとか……あるに違いない。そういう姿を見せてくれたりだとか、いつか沢渡さんの恋愛相談にも乗れたりとかしたら、友人として嬉しいかなって思ったりだとか……。

 ……あれ、沢渡さんのことになると私も思考がおかしくなるのかな。……いやそんな馬鹿な。

 ともあれ。

 この街で生きる人達にはその人達なりの困難や苦労があって、でもそれでも必死に生きているのだ。

 そして、私の好きな三吉君だって、この街の人間なのだ。

 だから、私はこの街の人間を頭ごなしに否定したり、拒絶したりなんてことはもう絶対にしないと誓って、だから、

「……だから、女の子同士の恋愛を認めて貰えるよう、これから毎日クラスに働きかけていきましょう?」

 ……えっと、すみません、今誰が何て言いましたか? ちょっとよく理解出来なかったんですが。

「そうですか、仕方ないですね。でも私は大丈夫ですわ。別に世間に認められなくても、真実の愛さえあれば!」

 あー、はいはい、そうですね沢渡さん。貴女は相変わらずというか、ブレないですよね。本当、何でそんなにも私のことを、

「あら、聞きたいですか? 聞くも涙、語るも涙、しかも全部を語るには一生をかけても語りきれない沢山の珠玉のエピソードがあるんですが、聞きたいですか?」

 ちょっとドコにツッコミ入れればいいのか、

「あらイヤですわ、女の子同士なんですもの、初めては優しくお願いしますわね? えぇ大丈夫です、私、受け入れる覚悟はいつだって出来ていますもの」

 ……あのすみません、本当に何を言ってるんですかね? 沢渡さーん、現実に戻ってきてくださーい。

「私はいつだって、現実に生きる恋する乙女ですわ。……椎子ちゃんもそうでしょう? さあ、今度こそ告白しましょ?」

 もしかして、ヤブを突いてヘビを出してしまったのだろうか、私は。

「決行は明日の放課後、討ち入りよッ! 椎子ちゃんの想い人を討ち取るのよッ!」

 え、あ、はい。……ってあの、討ち入りとか討ち取るとか、ちょっと表現間違ってないですかね。

 いや、恋愛は戦争というかそんな言い方もされますけど、でもちょっと何というか、

「あら椎子ちゃん、そんな弱気で良いのかしら? 想い人の彼が見知らぬ美少女と歩いてるけれど?」

 え、ちょっと待って、誰あれ!? 他所の学校の制服!? え、何、どういうこと!?

「あは、焦ってる椎子ちゃんも可愛いわね、抱きしめたいわ、というか想いが溢れてどうにもならないから、もう抱きしめるわね! 抵抗は無駄よ!」

 え、えぇ、えぇぇー!?

椎子視点での本章でのお話は、ここまで。

次回から新章として、佑輝視点にする予定です。


とはいえ、アリス博士視点とか、沢渡さん視点でもちょっと書きたいような、でも話があまり進まない上に世界観の補強かあるいはそもそもネタの域を出ないような……うーむ。

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