第17話
「それなら、良かった」
彼が笑い、私もたぶんだけれど、少しくらいは笑えたと思う。
そんな私の顔を見た三吉君が、
「……えっと、あの、どうかしました、か……?」
何故か、表情を強張らせて固まっていた。私が思わず発した疑問の声に、
「あ、いやごめんなさい。……いや、えっとその、何も見てないっていうか、誰にも見えないから信じてもらえないっていうか……」
「えっと……?」
「ごめんなんでもない、忘れて」
挙動不審な言動の三吉君の言葉が、最初は私に向けられているような気がしたのだが、しかし、
「あの、向こうに何かあるの?」
彼の視線が、私の後ろというか、街の外に向けられているような気がした。というか、さっきからそちらをチラチラと見ているような……?
「いや何もないよ。この道路の先は隣の街に続いていて、だから、別に何もないよ」
「……?」
意味がよくわからないが、三吉君が「何もない」と言うのだから、それを信じよう。
私にとっては、通ることが叶わない見えない壁があって、その壁の先には二つの世界があって、けれどもどちらにも行くことが出来なくて。
だから私は、この先一生この街の中で、――。
「あのさ皆川さん。……僕の独り言みたいなものなんだけど、ちょっとだけ聞いて欲しい」
私の暗く重いネガティブな思考を引き止めるように、三吉君が喋り始めた。
「あ、はい。私で良ければ、聞きます。なんですか?」
私の返事に、ありがとう、と頷いて、
「この街は、酷く内気な街なんだよね」
そんな、よくわからないことを言った。
「あの、それってどういう意味ですか?」
内気っていうのは、性格的な意味だろうか。
私もどちらかと言えば引っ込み思案で人見知りなところがあって、内気な方だと思っている。
だがそういう意味で言っているのであれば、それを「街」に冠するのはどういことになるのだろうか。
そのあたりの解釈が何か違うのだろうかと、三吉君の言葉の続きを待つが、
「本当は僕は、この向こう側にあるコンビニに行きたいんだ。でも行けないから、隣町のコンビニに行くんだ。……あ、ごめん。何言ってるかわからないよね?」
その通りだ。私には、彼が何を言っているのかわからない。わからないけれども、でもきっとわかることもある。というか、わかってもらえる筈のことがある。
きちんと話をすれば。私のことを、私がどこから来て、何をしようとしているのか。……いや、何をしたいのか、になるのか。
だから、私も話をしよう。何を言ってるのかわかってもらえなくても、それでもいいから。




