第14話
「……そうだよね、わかっていたよね」
街の境界に着いた私は、此処から先が隣街だと主張する看板の下で呆然と立ち尽くすことになった。
私が足を止めた理由は二つある。
まず一つが、看板の先に広がる光景である。
アスファルトで綺麗に舗装された道がずっと向こうまで続いている時点で、私は外地を覗き見ることすら叶わないと悟った。
そもそも、それはわかっていたことではあったのだ。
この街の人間が、あの荒れ果てた荒野の如き外地の光景を見ることが出来ていたのなら、それ相応の混乱や反応があった筈なのだ。
それがこれまで観測されてこなかった訳で、つまりこの街の人間は外地を見ることが出来ないということでもある。
そうなると、やはりこの街の外は、もはや外地から見れば異世界とでも言うべき、十九年前に分岐した戦争が終わった世界なのだ。
その世界に行きたいと、その世界で生きたいと主張する派閥が、近年は多くなってきていると聞いた。
そんな、外地の人間にとっての希望の象徴となるであろう私にとって、しかしここは、
「……監獄かもしれない」
たしかにここは、平和な街である。街を少し歩いて、そして同い年の学生達を見れば、考えるまでもなくそれを理解できる。
でも、だが、
「なんで、私は、」
この道の先の境界の向こうから、外地という名で私が認識しているもはや異世界とでも言うべき世界の向こうから、父と母が今この瞬間、私を見てくれているのかもしれないが、それでも。
私の目から涙が零れる。どんどんと溢れて、もはや止められなくなる。
父と母の姿を見ることの出来ないこの目なんて、抉ってしまえばいいなんて想像をして、自分で自分のことが怖くなる。
「うぅ、ああ、駄目だ。駄目だよ私、なんで、こんなことで、」
境界の向こうの、世界すら異なる向こうからこちらを見ているであろう父と母に、泣いている自分を見られたくなくて、顔を伏せてしゃがみ込む。
何を期待していたのか。何を想像していたのか。
父と母の姿を見られないことに絶望して涙を流している訳ではない。
では、何故私が涙を流しているのかと言えば、それは。
「私は、この街にとっての異物でしかないって。……そういうことですよね、アリスさん?」
きっと今でも私を観測し続けているであろう、彼女に話し掛ける。
そして再度、何かの間違いであって欲しいという希望的観測を胸に抱いて、意を決して立ち上がり、そして走る。
この街の境界線上にて、私は。
「私はこの街の外に行きたい! そこで生きたいぐぇッ!?」
およそ女の子の口から出してはいけないような、そんな悲鳴にも近い声が出た。
外地から見れば存在する見えないドーム状の壁。
それに阻まれて、私という異物はこの街から出ることが叶わないという現実が、この境界線上で明らかになったのだった。




