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第11話

 沢渡さんの後に続いて教室を出ようとして、けれども、

「あの、通して頂けませんか?」

 私の行く手を遮る複数のクラスメイトの姿を前にして、私は困惑するばかりであった。

 睨みつけるというか、悪意をぶつけてきているというか、そんな表情と感情とを露わにした少女達が、私と沢渡さんとが話している間から遠巻きに囲んでいたのに実はずっと気付いては居たのだが。

 その時はまだ、棘のある感情や態度を隠そうという意志が見え隠れしている程度で、そもそもこんなぬるま湯の世界で生きてきた子供に何が出来るのかと、私は気にも留めなかった。

 そして沢渡さんが教室を去った今、彼女達は明確な意志を私に突きつけてきた。

 それはつまり私に対する、

「皆川さん、でしたわね? まあ随分と沢渡さんと仲がよろしいようで? 引っ越してきたばかりで知らないなんて、罪なお方だこと」

 少女達が私を嘲笑っているのはわかるのだが、しかし、

「あの、意味がわからないのですが? 言いたいことがあるならハッキリ言わないと伝わりませんよ?」

 これは父と母が私に教えてくれたことだ。

 そして大概のところ、少なくとも外地においては、言っても伝わらない相手と対峙することも多かったが故に、少なくとも同じ世界の人間であればまず話し合いで解決すべきであるというのがこの教えの本質であり、だが、

「……そうか。そもそも生きてきた世界が違った。であれば、伝わらないのも道理……?」

「何を言ってるのかいまいちわかりませんが、少なくとも貴女と沢渡さんとでは、生きてきた世界が違うというのは理解出来ているのは評価して差し上げてもよろしくてよ?」

 私の独り言に、少女達の一人が反応した。だが、少なくとも言っていることはわからない。

 お互いに同じ言語を喋っている筈ではあるが、この外地とこの街を含む世界とを分け隔てた十九年という歳月が、ここまで言語を変質させて、

「……ということなの。……黙っていてはわかりませんわよ? どうなんです?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと途中聞いてませんでした。もう一度お願い出来ますか?」

「ちょッ!? 貴女ふざけてるの!?」

 別の少女が、顔を真っ赤にして怒っている。今にも殴りかかってきそうな雰囲気ではあるが、そもそも彼女は人を殴ったことがあるのだろうか。

 上手く殴らないと自分の拳を痛めるってことも知らなそうな、綺麗で繊細そうな手をしてるけれども。

 むしろその事実を知る日が来ないことを祈りたいくらいとは思うが、そういうことを口にする場面でもないので、私は素直に黙っておく。

 その私の沈黙をどう受け取ったのか、

「仕方ありません。もう一度言いますわ。……沢渡さんに貴女みたいな人は相応しくないから、貴女は明日から沢渡さんと直接話さないようにしなさい、と言いたいのよ」

「……えっと、それは、」

「貴女の気持ちもわからないでもないわ。沢渡さんみたいな天上の人に話し掛けられて浮足立つ気持ちを、私達も知っているもの。でも、だからこそなのよ?」

「……あの、」

「つまりは、順番というか規則というか、そういうものを守りなさい、と言っているの。私達は、小学校の頃から沢渡さんと一緒に居たわ。だから、貴女がそこに割り込んでくるのは許せないのよ。でも、別に慈悲がない訳でもないの」

「ですから、えっと、」

「だから、沢渡さんとお話する時は、この私達『沢渡親衛隊』を通してならお話することも許可する、ということね。それくらいのことなら、貴女でも理解できるでしょう?」

「……それは、わかります」

 とにかく面倒くさい、ということがよくわかった。

 つまりこの少女達は、私が沢渡さんと仲良くするのが面白くないのだと言いたいようで、だとすると私が取るべき行動は、

「つまり、私は明日から沢渡さんとお話するな、と言いたいんですよね? わかりました。……それでは、急いでいますので。ごきげんよう」

 少女達の間を抜けて、私はさっさと教室を後にする。

「いえ、ちょっとッ、そういうことではなくて、貴女も私達と一緒に、」

「いいじゃないですか、何ですかあの態度、自分だけ特別、みたいな鼻に付くヤツなんかどうでも」

 最初に話し掛けてきた少女と、途中で怒っていた少女とが何やら言い合っていたようだが、私は既に彼女達に対して興味を失っており、どうでも良かった。

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