第4話
今日は奴隷少女ちゃんの更新日(予定)ですね!
楽しみでしょうがないです。
私の前を歩いて行く少年少女は、私の常識からすれば有り得ないくらいに平和な会話を続けていく。
「クラスは一緒になれるかなあ。私は一緒が良いんだけど。ね、佑輝?」
「うーん、もう友香の顔も見飽きたっていうか。……そろそろ別のクラスでもいいんじゃないかなって思うんだけど」
「え!? なにそれ酷い。あーもー、そんなこと言うなら宿題とか写させてあげないんだからね?」
「いやいや、そんなこと今まで一度もやったことないし。これからも要らないよ」
「うー、もー、ああ言えばこう言うんだから。ほんと佑輝は口が減らないよね」
「減るとか減らないとかじゃなくて。本当のこと言っただけでしょ。……あ、」
「ん? どうかした?」
佑輝、と呼ばれた少年が空を見上げ歩みを止める。
その言動を見た友香と呼ばれた少女もまた、同様の行動を取った。
だから、少し離れて後ろを歩いていた私も足を止めざるを得なくなり、何事かと視線を空に向ける。
「……? 別に何も……?」
春の、雲一つない青空が広がっている。
私の疑問は、そんな空に浮かんで消えていった。
もしここが外地であれば、空を見上げれば飛竜や王国の魔法使いあたりが飛んでいるのが日常茶飯事ですらあった。
だがここは、外地ではない。
研究所の長年の観測によれば、この街では十九年前に戦争が終わっている。
外地では未だ続いており、この街では終わったとされるその戦争の端緒とは、異世界からの侵略であった。
しかしこの街の歴史を紐解けば、戦争相手であったあちらの世界とこの世界とを繋ぐ門は閉じられた、とされている。
故に、例えば外地で未だ健在である飛竜や魔法使いなんていう存在は、既に狩り尽くされて滅ぼされており存在しない、とされている。
つまるところ、外地とこの街との関係とは乱暴に言ってしまえば、『十九年前に分岐した隣同士の世界』、というのが研究者達の見解である。
そしてこの街は、その分岐以降、目に見えず観測も出来ない結界のようなドーム状の何かに覆われている、とされている。
そのドーム状の何かは、長らく外地の人間の侵入を拒んできた。
そんな状況になった原因は未だ明らかになってはいないが、一説には戦争相手の世界に存在する隔離や結界の効果を持つ魔法を使用されたのではないか、とも言われている。
少なくとも外地における現代科学では、この街を取り巻く状況は未だ説明のつかない現象であり、『魔法』なんてものにその根拠を求めたくなる気持ちもわからなくはない。
この街に縁者を取り込まれてしまった人々の多くがこの街の解放を望み、それはやがて国を挙げての事業ともなった。
けれどもそれは未だ叶っていない。
火力ではこの街を覆うドームを突破することは出来ず、異世界の協力者にもこの街の状況を説明することは出来なかった。
故にこの街に対して外地の人間に出来ることは、長らくこの街に暮らす人々の生活や街の発展を観察することのみであった。
その謎を解き明かそうと様々な実験や研究の一環として、私の外地における所属でもある『第二百十八期街都解放志願隊』がある。
私の期における街都解放志願隊の趣旨は、この街の中へと異世界の転移技術を利用して送り込もうというものになる。
この実験の結果は、先に述べた通りである。
私で二例目の成功例であるのだが、では一例目の成功例はどうなったのかというと、――。
「ねねね? 貴女も、新入生? 見掛けない顔だけど、最近引っ越してきたとか?」
私の回想を断ち切るようにして、目の前で立ち止まっていた少女が振り返って私に話し掛けてきた。
「え、えっと、あの、はい」
いきなりだったので、ちょっとどもってしまったのが恥ずかしい。
「あ、やっぱり。そっかそっか。よろしくね、私は長野友香だよ。……で、こっちのぼーっと突っ立ってるのが幼馴染の三吉佑輝ね。よくあることだから気にしないで」
「いや友香、言い方……。まあいいや、よろしく。……こんな田舎に引っ越してくる人がいるなんて、ちょっと珍しいね。」
二人の挨拶に私は、
「あ、はい。私は皆川椎子です。昨日引っ越してきたばかりで……その、よろしくお願いします」
これから先、長い付き合いになる二人との、これが最初の出会いであった。




