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第3話

リビルドワールドの更新が止まった、だと……?


そうなったら後はもうシャンフロと奴隷少女ちゃんとラピスの心臓くらいしか楽しみなのがないじゃないですかー。



という訳で、新たな面白い作品の発掘に勤しむのです、はい。


「おはよう、朝ですよ椎子ちゃん」

 ここはどこで、私を起こすこのお婆さんは誰なのかとしばし悩んで、

「……ああ、そうか。朝ですね。えっと、おはようございます」

 ここがどこで、それが誰なのかに思い至り、ようやっと朝の挨拶を返す。

「制服はそこに用意してありますからね。あと、朝ご飯の準備も出来ていますから。……早めに降りてきて下さいね? 朝ご飯が冷めてしまいます」

 はいわかりました、と返事をして、私はベッドから出る。

 勉強机の上に綺麗に畳んで置かれているのが、セーラー服という名の、私がこれから通うことになる中学校の制服であろう。

 手にとってみると、それはとても軽くて丈夫な、しかし防御力の観点から見ればとても不安を覚えさせるつくりの服であった。

「……いや、防御力って。そんなの少なくともこの街で必要にないし。武器だって、」

 ある訳がない。小銃もナイフも、この街の一般的な中学生が持ち歩くものではない。

 ナイフはともかく小銃は、この街ではまず手に入らないだろうし。

 それにそもそも手に入ったところで持ち歩こうなどという時点でこの街の治安維持機構に補足されて、その後は色々と面倒なことになるのがオチである。

 そんなこんなで考え事をしながら、私は制服に着替えるのだった。


 朝ご飯の良い匂いに釣られて二階にある自室を出て階段を降りてみれば、

「椎子、おはよう。……しかしその、なんだ。最近の若い子は制服も独創的な着かたをするんじゃのぅ?」

「あらあら。椎子ちゃん、スカートがたぶん九十度くらいズレているし、リボンは頭に巻くものじゃないのよ?」

 くっ、違ったのか。 丁度良い長さで、絶対にそうだと思ったんだけれどなあ。

 お婆さんに服のあれこれを正されて、ようやっと私は中学生らしい服装になったらしい。

「うんうん、可愛いわよ。良く似合ってるわ」

「そうじゃのぅ。まるで婆さんの若い頃そっくりじゃ。流石は儂らの孫じゃのぅ」

「……孫、」

 そうか。そういう設定だった。

 父の仕事の都合で海外に行くことになり、母や妹は父に着いて行くことになった。そして私だけが進学の為に祖父母を頼ってこの街に引っ越して来た、と。

 家族と別れて暮らすことになったという設定の私は、しかしこの先の人生においてもう二度と家族と会えないかもしれない。

 家族だけではない。

 数は多くないが、生死を共にしてきたと言っても過言ではない街の外に居た友人達とも、私はもう二度と会うことが叶わないのかもしれないのだ。

 そのことに改めて思い至って、私は、

「儂らのことは、本当の爺さん婆さんだと思ってくれていいんじゃよ?」

「そうですねえ。その方が私達も嬉しいですからね?」

 不意に、二人に抱きしめられた。

 この老夫婦の心遣いに、私は少しだけ涙が出そうになる。だから、

「……はい、わかりました」

 そう返事をするのがやっとだった。


***


 つまるところ、今日は中学校の入学式がある四月六日である。

 中学校までの道はわかるか大丈夫か迷子になったら困るから一緒に行こうか、と声を掛けてくれる老夫婦に、

「道はしっかり頭に入ってるから大丈夫です。では、行ってきます」

 ときちんと返事をして家を出た。

「入学式には保護者として参加しますからね? ほらおじいさん、おめかししなきゃ」

「時間が掛かるのはばあさんだけじゃろ? 儂なんかほれ、もう準備は出来ておる」

「そんな寝間着みたいな格好で椎子ちゃんの晴れ舞台に参加するつもりですかッ!? もう、きちんと着替えて下さい。ほら、こっちです」

「うわちょっとばあさん、そんなところ引っ張らんでくれうわあああ」

 何やら騒がしく、けれども仲の良さの伝わってくる老夫婦の見送りを背にして、私は通学路を行くのだった。


 通学路を行くのは、私だけではない。

 真新しい制服に身を包んだ男女が、私の少し前を歩いていた。

 別に聞き耳を立てていたとかそういうことでもないのだが、その二人がやや大きめな声で会話をしているので、自然と耳に入ったという、ただそれだけの話である。

「……それで佑輝は、部活は何にするか決めたの?」

「いや、まだだけど」

「それじゃさ、私と一緒に水泳部入らない?」

「いやだよ、疲れる」

「えー、一緒に泳ごうよ? 絶対楽しいよ?」

「いやいや、中学の部活って男女別だろ? 水泳部なんて特に」

「うー、つまんない」

「いやつまんないとか言われても」

 なるほど、部活か。

 水泳というのは、私は少しだけ興味がある。

 もし泳げない人間でも入部歓迎、というのであればその門を叩いてみるのも良いかもしれない、なんてことを思う。


 この時は、まだ。

 私の心に余裕があった。

 何だかんだで、この街の平和な空気に呑まれて、あてられていたのかもしれない。

 同級生と思しき子供達の声に耳を傾けて、朝の通学路をただ歩く。

 空や地面や、物陰から何か得体の知れないものが襲ってくるかもしれないと恐怖に怯えることもなく。

 異世界人の襲撃に遭うかもしれないと銃を構えることもなく、友好的な同郷人を装った強盗を撃退できるようナイフをいつでも抜けるように自然体でいなければならない、ということもなく。

 ただただ、この平和な時間を過ごしていく。


 私に与えられた任務というか、この街への転送に成功した二例目となった私の責務は、この街で可能な限り長期間生き残ることに他ならないのだから。

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