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第10話

奴隷少女ちゃんの更新きてるやったー。毎週この為に生きていると言っても過言では、

「えっとつまるところ、転校生である朝山さんは僕の遠い親戚である、と」

 僕の言葉に、担任が頷く。

「そして、今日この朝山さんを迎えに母が来る筈だったけれども、急用で来られなくなった。だから代わりに僕が家まで連れて帰る、と。そういう話で良いんですよね?」

 理解が早くて助かる、と担任が少しばかり疲れた顔をして言い、更にはすまないが頼む、と頭を下げられては、僕に断る理由なんて出てきやしない。


 僕は朝山さんを引き連れて、担任への挨拶もそこそこに職員室を退室する。

 そして改めて朝山さんに向き合って、

「という訳で、改めてよろしくお願いします。……母方の親戚って会ったことなかったから、ちょっと新鮮というかなんというか」

 頭を下げる。

「あー、なんだか運命みたいなものを感じるね? よろしくなんよ三吉君。……いや、親戚なんだしそんな他人行儀な呼び方は良くないんよね、」

 朝山さんはいたずらっぽい笑みを浮かべて、

「よろしくね佑輝。私のことも夕夏でいいんよ?」

「……えっとあの、夕夏、……さん」

「えー、そのさん付けも要らないと思うんよねえ。頑張って佑輝! ほら、夕夏って!」

「だからほとんど初対面の女の子を名前呼びってのはハードル高いんだってば!」

 朝山さんの、いや、夕夏が僕に掛ける声に非難の色はかけらも感じられない。

 からかわれている、とありありと感じつつも、僕は、

「えっと、あの、…………夕夏、」

「呼んだ?」

「なんでもない!」

 僕はその場から逃げるように足を早めて歩いて行く。

 楽しそうな夕夏の声が、僕の背を追いかけてくるのを聞きながら。

 少なくとも今は、夕夏には顔を見られたくない。

 たぶんきっと、頬どころか耳まで真っ赤だろうから。


 そうして二人で、まだまだ暑い夏の昼間の通学路を歩いて行く。

「しかしさ、唐突だよね。母さんは割といい加減なところあるけど、親戚が来るとかそういう大事な話なら事前にしてくれても良さそうなものだけど……」

 僕の言葉は、夕夏を責める類のものではないのだが、しかし母に対して文句の一つでも言いたくなるような僕の気持ちを表したものである。

「うーん、手紙を書いたって聞いてるんよ? 返事も来たって言ってたから話は通ってる筈なんよ?」

 手紙……手紙、か。

「そういえば夏休みの間に、母さんがそんな話してたような、」

 いつだったかはっきりと覚えてはいないが、そんな話題がサラっと出てたような記憶がないでもないのだが、

「でも同級生の可愛い女の子が親戚でうちに来るとかそういうことは、事前にきちんと教えておいてほしいって思うんだけど、そこんところどう思う?」

「うーん、私が可愛い女の子ってところに同意すればいいってことなんよね?」

「あ、いや! それはそうなんだけど、でもそこを拾い上げてほしかった訳じゃなくて! 母さんがいい加減っていう方なんだけど!」

「あー、そうなんよね。ユーリはそのあたり相変わらずなんね」

 からかわれていると分かっていながらも、僕は少しだけ動揺していて、だから。

 夕夏の少しだけ奇妙な言い回しには気付かなかったのだった。


「……何か、忘れているような……?」

「思い出せないんなら、それはそんなに大事なことじゃないと思うんよ? それより今はさっさと佑輝の家に向かうことが重要なんよ? なにしろ……」

 夕夏が頬を伝う汗を、カバンから取り出したタオルで拭う。

「この暑さ、ちょっと尋常じゃないんよ。早く涼しいところに避難したいんよ……」

 九月に入ったばかりで、まだまだ夏は続いている。

 僕と夕夏は、夏の日差しを浴びて茹だった頭での思考を放棄して、ただただ家へと向かって歩いて行く。

「僕の家まで、この辺りでやっと半分ってところかなあ」

「……それは地獄なんね? でも暑いだけで他に何もないんだから、それは平和っていうことなんよね……」

 夕夏のその物言いはなんだか大仰な気はしたけれども、でもそれを茶化す余裕もツッコむ余裕もない程度には、暑さに負けて思考放棄を続けるのだった。

 だから、いつの間にか夕夏が真剣な表情をして空を見上げているのに気付いて、その視線の先を追って、

「ああ、今日は黒い竜が飛んでるね。……珍しい」

 黒い竜の影。それが、空のかなり高いところを飛んでいるのが僕の目には見えている。

 僕の茹だった頭では、あまり深いことを考えずに、その光景について喋っていた。

 僕以外の誰にも見えず、幼い頃より母ともう一人以外の誰にも信じて貰えなかったその光景は、しかし僕にとって何ら害のあるものではない。

 そう確信できているのは、僕が小学生の頃に見た光景にある。


 あれは、小学二年生の春のことだった。

 この街の空のずっとずっと高いところに、黒い竜が現れた。

 それだけなら、まだたまに見る光景ではあったのだけれども、その時そらに在ったのは、それだけではなかった。

 沢山の空飛ぶ魔法使いらしき人間達が集まってきて、そして戦闘が始まった。

 竜の爪で切り裂かれ、あるいはその顎に噛み砕かれ、口から吐かれる炎に巻かれ、魔法使い達が何十人何百人と命を散らせていった。

 具体的には、彼ら彼女らはこの街に落ちてきた。

 いや正確には、落ちてくる途中で消えた。

 この街のそれなりに高いところまで落ちてくると、そこで姿が見えなくなるのだ。

 だから、この街には一人たりとも落ちてきてはいない。

 やがてその戦闘に決着がつき、黒い竜もまた、この街へと落ちてきた。

 が、やはりその竜も途中で姿がかき消えた。


 小学生二年生の僕の目にはやや刺激的に過ぎる光景ではあったけれど、でもその時に僕は悟った。

 ただ見えるだけで、それ以上の何もない、と。

 特に意味はなく、むしろ見えると主張することで周囲から奇異の目で見られることすらあったこの僕の目に、意味は、

「……そっか。佑輝にはアレが見えてるんね? なるほど、なるほど」

 僕の隣を歩く夕夏が汗をひたすら拭いつつ、しかし真剣な眼差しを空へと向けたまま呟いた。

 その視線はたしかに黒い竜へと向けられていて、だから、

「もしかして、見えてるの?」

 夕夏からの答えはなく、けれども答えは明白であった。

 思わぬところで見つけた同志とでも言うべき存在に、僕の心が自然と踊る。だから、

「……むしろ私としては、佑輝が見えている理由が知りたいんよ?」

 夕夏のその言葉を、僕は聞き逃していたのだった。

やっと、タグにある「少しだけ異世界要素」の違和感を綴っていける話の流れになってきました。

とは言いつつも、次からはまた主人公交代の予定です。


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