第8話
担任からの校内放送での呼び出しを受けて、僕は職員室へと急ぐ。
その、途中。
この学校の生徒ではない、別の制服に身を包んだ女生徒を見掛けた。
うちの学校は、男子は学ランで女子はセーラー服である。
だから、ブレザーを着ている女生徒は珍しく、思わず目で追ってしまう。
「あんね、ちょーっと尋ねたいことがあるんよ?」
そんな僕の不躾な視線に何かを感じたのか、女生徒が近寄って話しかけて来た。
しかもどこのものかもよくわからない方言で。
それまで制服にばかり注目していた僕は驚きとともに視線を上げて女生徒の顔を見て、
「いやあの、――」
そこで、更に驚いて息を呑んだ。
女生徒は、僕よりも頭一つ分くらい背が低い。ブレザーを着ているというよりは着られているような印象が強く、けれどもその制服から覗くというか、突き出ている手足はすらりと長く、その肌の色は酷く病的なまでに見える白。まつ毛がびっくりするくらい長く、ぱっちりした二重のまぶたが目を惹くが、それ以上に吸い込まれそうなほどに大きな瞳のその色は、黒。その瞳が、僕をじっと見上げている。
記憶に残っている金髪青目の少女の姿を一瞬だけ幻視して、しかし心の中でのみ首を振る。
目の前の少女は黒い髪に、白い肌。そして、黒い瞳だ。
だから、違う。だから、別人である。
そう結論付けて自身を納得させたところで、
「んー? どしたん? 気分でも悪いん?」
「あーいや、大丈夫。ちょっと知り合いに似てるような気がして、びっくりしただけで」
僕の微妙な返答に、しかし女生徒は気を悪くした風もない。
「そうなん? この言葉遣いにびっくりしたんかと思ったんよ?」
何が彼女をそうさせるのか、楽しそうに笑う。
僕も釣られて笑みを見せながら、
「まあ確かにちょっとここらでは聞かない言葉遣いだから驚いたよ」
「そうなん? やっぱそうなんよね? この街も、私がこれまで住んでたところと負けず劣らずの田舎って思うてたんよ? でもみんな言葉遣いが綺麗だから、うわー、私浮いちゃうって思ってたんよね」
そりゃまあ、浮くは浮くだろう。ちょっと聞かない言葉遣いの時点でもそうだし、そもそも彼女が今噂となっている例の、
「もしかして君って、転校生なの?」
「そうなんよー。ふふん、よろしくお願いするんよ?」
そう言って、彼女は控えめ薄めな胸を張るのだった。
***
「そうそう、それでね? 聞きたいんは職員室の場所なんよ?」
「あー、僕丁度職員室に行くところだったからさ、一緒に行こう」
「わあナイスタイミングだったんね?」
彼女の聞きたかったこととは、どうやら職員室の場所だったようで、ならば案内することは吝かではない。
そして道すがらに自己紹介を交えた雑談をする。
「……ふんふん、すると私は三吉君と同じクラスになるんね? なるほどよろしくなんよクラスメイト!」
「まだ確定じゃないけれど、間違いないと思うよ朝山さん」
「なんねー、名字呼びってのは他人行儀で距離を感じるんよ。夕夏って呼んでくれてもいいんよ?」
「それはちょっと距離を詰めすぎじゃないかなあ。ほとんど初対面の女の子相手にむしろハードル高いっていうか、」
「照れてるん? あはは、内地の男の子は純真なんね?」
一見すると年下にしか見えない同級生の女の子にからかわれているのは、男としてどうなのだろうかと思わなくもないが、しかし、
「……内地?」
その言葉が妙に気になって僕は思わずオウム返しに聞いてしまう。
「あー、この街のことなんよ。街の外が外地で、ここは街の内側だから内地、っていうくらいの意味なんよ?」
ふうんそうなんだ、そういう呼び方をしているところもあるんだな、という程度の感想しか出てこないが。
しかしその言い回しは、どこかで聞いた覚えがあるような、
「私、学校って初めて通うから緊張してたんだけど、三吉君のおかげでなんだか楽しくやっていけそうって思ってるんよ?」
さっきから気になる発言がいくつか出てきている気がするけれども。
何はともあれ、朝山さんが楽しそうならそれでいい、と僕は思うのだった。
さて、それで僕はいつ、この朝山さんに尋ねるべきだろうか?
彼女の左腕に巻かれた、見覚えのありすぎる男物の腕時計についての質問を。




