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第7話

「転校生かー、どんな人が来るのかな。気になるね」

 友香の言葉に、しかし僕はあまり反応を返すことが出来ない。何故ならこれから、

「それは明日になればわかるし別に……。それよりさ、皆川さんと沢渡さんが廊下で待ってるみたいだし行かないと」

 その二人だけではなくて、沢渡さんの取り巻き女子数名の姿も見えるし、沢渡さん目当ての男子も集まってきてるしで、僕らの教室前はちょっとした混雑が発生している。

 更には、

「はぁッ!? 二組に転校生!?」

「何、転校生来んの!? どんな娘? 可愛いの?」

「いやいや、イケメン男子でしょ? こんな田舎に居る男子どもより、絶対カッコイイ男の子に違いないわ」

「都会から来るんなら美少女に決まってるだろうがよォッ!? 田舎の女子と違ってなァッ!」

「何よ透、アンタふざけてんの!?」

「初めに言ったのは涼子だろうがッ!」

 我がクラスから発信している転校生の話題で盛り上がっているようだった。

 それにしても、まだ見ぬ男子か女子かもわからない相手をネタにしてケンカを始めるあの二人は特に凄いな……。

「三組の名物夫婦、透と涼子は相変わらずだね。……いや、何か凄いもん見た、みたいな顔してるけど、佑輝と友香も大概あんな感じだぞ?」

「そんなことないわ。……ね、佑輝?」

 顔面真っ黒外国人の清水の言葉に、心底嫌そうな顔をしている友香。僕はノーコメントを貫く。そんなことを気にしている心の余裕はないのだ。

 何故なら僕には、この後に友香を連れて皆川さんと沢渡さんと合流するという超重要ミッションが控えているからだ。

 まず女子の取り巻きに睨まれるだろうし、沢渡さん目当ての男子には逆恨みされて明日の昼休みには校舎裏か屋上あたりに呼び出しをくらう未来が見える。

 穏やかかつ和やかに過ごしてきた中学校生活が、破綻しかねない。

 そんな状況は避けたいので、皆川さんと沢渡さんの二人とは、出来ることなら学外で合流したい。その為には、友香の協力が必要不可欠である。

「なあ友香、皆川さん達と先に行っててくれない? 僕は後から行くから」

「……? 似たようなこと、夏休み前も言ってなかったっけ?」

「皆川さんって……ああ、隣のクラスの? そのコがどうかしたのか?」

 友香と清水から不審の目を向けられる。というか、清水はまだ居たのか。

「清水、お前は何も聞かなかった。……いいね?」

「いや良くないが」

「……アレのことを友香にバラす」

「アレって何だよ? バラされて困るような何かあったか?」

「……ないね」

 察しの悪い友人に対して、僕は溜息を吐くしかない。

 まああれだ。屋上とかに呼び出しってのは半分くらい冗談にしても、悪い意味で学校の有名人になるのは避けたいとは思うのだが、

「ねぇ、二人の漫才はいつまで続くの? ほら、椎子も沢渡さんも待って、――ん?」

 同じく察しの悪い幼馴染の言葉を遮ったのは、ぶつんッ、というスピーカーからの音だ。


『……あー、二年二組三吉佑輝、まだ校内に残っているのならば至急職員室まで来るように。繰り返す、二年二組三吉佑輝、至急職員室まで。以上』


 担任の声での呼び出しに、しかし僕は心当たりがまるでない。

「佑輝、何かしたの?」

「わかんない。でも行ってくる」

 友香と清水に一言断って、僕は教室を出る。

 沢渡さんの周りに集まる生徒達の間を縫って、僕は職員室へと向かう。

 その途中、心配そうな表情を向けてくれる皆川さんと目が合い、僕はその視線に苦笑で応える。

 そんな皆川さんの隣に居る沢渡さんは、皆川さんに熱い色を帯びた視線を向けており、

「……あぁ、そんな切なげな表情してる椎子ちゃんも可愛いわ」

「わ、わわッ、沢渡さん何言ってるんですかッ!?」

「何って、……何かしらね? 私の本心なのだけれど?」

「もー、またそんなこと言ってッ!」

 なんというか、微笑ましいような、開けてはいけない扉を開けようとしているような、なんとも言えない不思議な感覚に見舞われる。

 だから僕は、そんな二人の遣り取りは聞かなかったことにしようと決めて、さっさとその場を離れることにした。

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