第4話
「あー、もしかして、久しぶりに何か変なもの見えてた?」
僕が何でもないと言ったのに、しかし友香が食いついてきた。しかも、
「……変なものって、何ですか?」
皆川さんの興味も惹いてしまったようである。
「んーっとね、佑輝ってさ、小さな頃は人に見えないものが見えてたみたいなんだよね」
「友香、その言い方だと僕が頭おかしいヤツ扱いにならない?」
「そんなことないって。気のせい気のせい。……んとね、それで子供の佑輝が何を見てたかっていうと、」
僕の抗議は、しかし封殺される。……別に良いけれど。
「例えばゲームとかに出てくるようなドラゴンが空を飛んでるとか、月が二つに見えるとか、魔法使いっぽい服装の人が大量に空を飛んでるとかってのが見えてたらしいよ?」
「えっと、それって、」
皆川さんが酷く真剣な顔をして僕を見る。僕はその視線での問いに首を横に振っておく。その遣り取りに目ざとく気付いた友香が、
「あれ? 何今の? もしかして椎子、この話知ってた?」
「知ってたというか、えぇまぁ、はい……」
「なあんだ、椎子ってば私の知らないとこで積極的にアタックしてたんだ? この話を佑輝から聞いてるってことは、そういうことだよね? いいぞいいぞぉ、その調子だッ!」
「あの、いや友香ちゃん? 私別にそういう訳じゃなくって、いやあの、」
「照れなくて良い良い。どーんと行こう、今日行こう! ……あ、佑輝? 今日一緒に帰れる?」
「……お? それは大丈夫だけど、何か用事でもあんの?」
途中で二人だけで話を始めていたので、僕はちょっと気を抜いていた。だから、気の抜けた返事をしてしまってもそれは許してほしい。
「んー、ほら夏休み終わって新学期じゃない? 今日は午前中で終わりだし、この三人でどっか遊びに行くのも悪くないかなって思ってね? ほら、夏休みはどっかの誰かさんが夏風邪ひいて一緒に遊べなかったし?」
「その節は大変ご迷惑とご心配をお掛けしました……って、三人ってことは皆川さんも? 大丈夫? 友香に付き合うの嫌になったら言ってよ?」
「あ、はいッ! それはもう全然だいじょぶで、大丈夫ですッ!」
やけに気合入って噛んでる皆川さんは……置いておくとして。
放課後が少しだけ心配になる僕である。
友香は幼馴染だから別に良いとして。
皆川さんは結構可愛らしい女の子であるので、一緒に帰るっていう時点で恥ずかしいというか周りの目が痛いというか、いやそれは僕の心の問題か。
それより気になるのが、
「もしかしてさ、皆川さんが行くってことはさ、」
「そうね。私を忘れて貰っては困るわね」
嫌な予感は当たるものである。
「おはよう、沢渡さん」
「おはようございます、沢渡さん。……それで、あの、」
「大丈夫よ椎子ちゃん、言わなくてもわかっているわ。……私も一緒に行くからよろしくね、三吉君?」
僕は、沢渡さんの登場と申し出を、絶望的な心持ちで受け入れることにした。
少しくらいは想像してみてほしい。
可愛い女の子二人(うち一人は学年一の美人)に幼馴染を加えた、男1の女3で放課後遊びに行くっていう状況を。
少なくとも僕は、そんな状況で平静で居られる自信がない。だから、
「あのさ、僕の友達も呼んでいいかな?」
僕の言葉を聞いて、まず皆川さんが柔らかく微笑んで、
「はい、もちろん大丈夫ですよ?」
次いで、沢渡さんが僕をちらりとだけ見て、
「椎子ちゃんが良いっていうならもちろん大丈夫ですわ。……でも、本当に良いのかしら? ハードル上げすぎじゃないかしら?」
「あッ!? それは、その、えっと、えーっと、」
沢渡さんの言葉を聞いて、皆川さんが少し慌て始める。
そして最後に友香が、少しだけ眉を吊り上げて、
「そーいう余計なのは要らないんだけど。……まあ椎子が良いっていうなら私も良いけれど……どうする?」
ふむ、友香も沢渡さんも、何故に僕が友達を呼ぶ許可を皆川さんに求めるのか。
この三人グループのリーダーって、雰囲気でもないんだけれど、実に不思議なものである。
そんなことを思っている内に話がまとまったのか、
「ごめんなさい。やっぱり佑輝、……三吉君のお友達を呼ぶのは無しの方向でッ!」
「はい、わかりました……」
皆川さんに、そう強く言い切られてしまっては、僕としてもそれ以上の主張は出来ないのであった。




