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第1話

 夏休みが終わってしまった。

 特に何を為すこともなく、あっという間に過ぎて行ってしまったという印象だけが残っている。

 つまり今日は新学期が始まるその初日、日付は九月一日だ。

 暦の上では九月は秋、というイメージがあるのだが。しかし現実には、

「太陽あっつ……」

 まだまだ太陽は元気で、夏は絶賛継続中だった。

 空に浮かぶ太陽が、燦々と殺人光線のごとき陽光を注いでいる。

 太陽憎しという言葉を胸に、僕、三吉佑輝は今、学校へと向かう朝の通学路を進んでいる。それこそ芋虫が這うかのごとき速度で。

 飛行機が、軽快に空を裂いて飛んでいくのが見える。その後尾から飛行機雲は伸びておらず、あの飛行機がどちらのモノであっても明日もきっと快晴だと予想出来る。

 となると、少なくとも明日もこの暑さは継続することになるなあと、溜息の一つも吐きたい気分ですらある。

 肩掛けの通学鞄の中には夏休みの宿題が全て詰め込まれており、僕の肩に殺人的重さでもって食い込んで痛い。

 今すぐこの鞄を投げ捨ててしまいたい衝動に駆られるが、そこはぐっと堪える。

 大事な夏休みの成果である。何とか頑張って学校まで運搬して提出せねばならない。

 それに、昨日までの一週間、僕は夏風邪を引いていた。

 何とか体調が戻りはしたのだが、しかしまだ本調子とは言い難く身体が重い。

 はあ、と溜息を吐く。

 歩みが遅い言い訳じみたことを並べたが、結局のところ一番の理由は、

「あー、学校行きたくないなあ」

 まだ夏休みが続いて欲しかった、なんていうそんな気持ちに他ならなかった。だから、

「よし、まだ身体も本調子じゃないし、やっぱ今日は帰って休もう――」

 名案だと手を打って、帰宅の途に着こうと回れ右をしたところで、

「うわ! 急に止まってこっち向かないでよ! ……ていうか、おはよ佑輝」

「いや驚いたのはこっちだし……。んっと、おはよ友香」

 いつの間にやらすぐ後ろを歩いて来ていたらしい幼馴染に軽く挨拶をしつつ、

「それじゃまたね」

 友香の横を通り抜けようとして、

「んー? 待ちなさい?」

 腕を掴まれる。

「友香ッ! その手を離せッ! 僕は家に帰るんだッ!」

「駄目だよ離さないよ。どうせ佑輝のことだから、面倒だし学校サボろうとか思ってんでしょ? させないよ」

「勘の良すぎる幼馴染は嫌いだよ……」

「そりゃどうも。私は好きよ?」

 嬉しくて涙が出るね。主に友香のお節介っぷりに。

「ほら佑輝、行くよ。さっさと行かないと遅刻するかも……ん、あれ? 佑輝そういえば腕時計付けてないね?」

 よく見ているな、と感心もするが、しかし今は返答に困る質問でもある。

「あー、うん。ほら、夏は暑くて蒸れるっていうか、手首に汗かいて気持ち悪いでしょ?」

 そんな言葉で、その場は濁した。


 だって、言える訳がないだろう。

 あの腕時計は、幽霊だか何だか良くわからない女の子に持っていかれてしまって手元にない、なんてことを。

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