第9話
とにもかくにも、舞台は整った。
もう何度も言っているかもしれないが、これから私は、私の恋に全力で生きる。だから、次なる目標は、
「それで、本命の彼に告白する日は明日で良いのよね?」
うっ……。それは、その、ええと。
「そうよね、善は急げだったかしら? 椎子ちゃんは可能な限り急ぐ必要があるわ」
「えっと、一応理由を聞いても?」
「うふふ。早くしないと、自分の本当の気持ちに気付いた友香さんに先に告白されちゃうかもしれないわ」
それはそれで有り得そうで怖いんだけれど、でも沢渡さんのそのニヤニヤ笑いから察するに、それだけじゃないですよね?
「椎子ちゃんは察しが良いわね。……そうよ、椎子ちゃんが手に入らないのなら、私が彼を寝取ってやるわ!」
うわぁ、何言ってるのこの人!?
「その事実を知った椎子ちゃんが泣いてるところで、私が言うの。『彼を返してほしかったら、椎子ちゃんの身体を、』」
「いやちょっと待ってッ! ほんとに待ってッ! 怖いよ沢渡さん何その昼ドラ設定ッ!?」
しかも本当に実行に移しそうな怖さがある。
それに、もしそれが現実になったとして。
もし沢渡さんみたいな見た目美少女に迫られたら、佑輝君はどうなるだろうか。
「……見た目美少女って、もしかして私のこと貶してるように聞こえなくもないわね?」
あう……。すみませんごめんなさい。
「一応言っておくけれどね、男の子って案外、押してくる女の子に弱いものなのよ? 相手にもされない誰かよりも、好きって言ってくれる女の子になびいちゃうことも多いのよ?」
ふむなるほど。だから、出来るだけ明日に告白しろと言っているのか。
なんだかんだで、沢渡さんの言葉には説得力があるなあ、なんて感心していると、
「だからその、名乗ルン……じゃなくて佑輝君に、私は負けたくないの。だから今日、椎子ちゃんに私の気持ちを伝えたのよ?」
説得力あるっていうか、事実上の武力行使だったッ!
あだ名の話は、いつかする機会もあると思うからスルーするとして、
「椎子が佑輝にフラれたら、沢渡さんが慰めて心の距離を埋めよう、みたいなそんな役どころかな?」
「うふふ。友香さん、わかってきたみたいね?」
「思い通りにはさせないけどね? 椎子には、私がついているもの。佑輝とくっつけて見せるわ」
うふふ、あはは、とお互い牽制しあう二人。その二人が同時にこちらを見て、
「ほんと、椎子ちゃんは罪作りな女の子よね?」
「ほんとに。椎子は愛されてるよね」
えーっと、うん?
「……ありがとう?」
「別にお礼を言われるようなことではないけれど。……そうね、明日が告白びよりの、良い日であるといいわね?」
「うんうん、明日を椎子と佑輝の付き合い始めた記念日にしたいね」
沢渡さんはちょっとわかりにくいけれど、でも二人とも応援してくれているのは、わかった。だから、
「ありがとう、二人とも」
この感謝の気持ちを伝える為に、私は精一杯両手を広げて二人に抱きついた。
「あ……ッ! ちょっと友香さん、カメラをお願い! 椎子ちゃんが私に抱きついてくれたわ!」
「いやあ、私も抱きつかれちゃってるから、ちょっと撮影は難しいっていうかドアップにしかならないと思うけど。それでもいい?」
「いいわ! さあ早く! 椎子ちゃんがデレた瞬間を、カメラに収めておかないと!」
……あー、どうしよう。急に二人から離れたくなったんだけど。
そんなこんなの一件があって、私は明日、佑輝君に告白することになった。
成功したら夏休みは沢山恋人らしいことをするのかなあ、したいなあ、なんて。
そんなことを夢想しながら、その日は眠りに就いたのだった。




