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第8話

 とにもかくにも、私の前に立ちはだかっていた大きな壁が取り払われた。

 いや本当は、ほんの小さな、私がやっと通れるくらいの小さな穴が開いただけなのかもしれないけれども。

 いやきっと、その考えは正しいのだとすぐにでも思い知ることになるとはおもうけれど。

 とにもかくにも、第一関門は突破した。

 宣戦布告は、成ったのだ。

 恋に全力を傾けるのは、これから。

 正々堂々、言えるかどうかはわからないけれど、でもここから先は真剣勝負。

 友香が乗ってこないというのなら、私が全力で突っ走るだけ。

 友香と私が同じ土俵に立った今、スタートダッシュを決めるのは私だ。

「友香ちゃん、早く来ないと、置いていっちゃうよ?」

 きょとんとした表情の友香に、沢渡さんが説明を加える。

「椎子ちゃんはね、友香さんとお相撲がしたいんだって。土俵の上でヨーイドン、だそうよ?」

 いや違うそうじゃない。というか何それ怖いよ。ともあれ、そのままでは意味不明で友香も困惑すると思うので、

「いやね、私は佑輝君への恋に全力疾走するって決めたでしょ? 友香も、早く恋をしてくれるといいなあって、そう思ったの」

「そうね。私も恋をしているし、となると今ここにいる中で仲間外れは友香さんね」

 あはは、うふふ、と。私と沢渡さんとで笑い合う。

「はいはい、沢渡さんが好きなのは椎子なのよね? 恋の三角関係かあ……。でも姉としては、佑輝と椎子の仲を応援したいかなー」

「私は愛人でいいわ。椎子ちゃんがたまに愛してくれるだけでいいの……ッ!」

 なんだこれ。なんだこの茶番。

「さて、私が椎子ちゃんの愛人枠に収まることが決まったところで、」

 沢渡さんが、そう切り出す。……いや、愛人枠とか決まってないからね? 私は視線で抗議するも、沢渡さんは頬を赤らめるばかりで効果がない。

 沢渡さんに対しては、何をしてもご褒美になりそうというか、暖簾に腕押しな無力感が半端ない。

「せっかく協力体制が整ったのだから、次は本命、椎子ちゃんがいつ告白するのかを決めようと思うのだけれど」

 ふむふむ。それはつまり、あれですか。私がいつ佑輝君に告白するかっていう、

「えぇッ!? いやいやあの、それは恥ずかしいっていうか、ちょっと待ってッ!」

 いざ告白、となるとやはり緊張してしまう。想像するだけで、こうなのだ。本人を前にして、私がきちんと告白出来るかどうか……。いや、しないといけない。

 やる前から逃げようとするな、頑張れ私。

「いいわよ、私はいつまでも待つわ。でも、早く告白してくれないと、他に好きな人が出来ちゃうかもしれないわよ?」

 ふむふむ、押して引いて、みたいな恋愛上級者のセリフですね、沢渡さん。

 でも安心して下さい、私、沢渡さんに告白する気はこれっぽっちもないですから。

「そうね、もう告白してくれてるものね? バッチリ録音してあるから、家に帰ってから聞きましょ」

「嘘!? 私、いつ沢渡さんを好きって言ったの? まさか、心の声を記録するあの装置がこの街にも、」

「録音完了。うふふ。一生大切にするわね?」

 沢渡さんが、胸元からボイスレコーダーを取り出した。

 それを見た途端に、気が抜けた。

 あー、うん。私の早とちりで良かった。いや、録音されてるのはよくないけど。

「友香さんに話を付けるってところは即断即決で良かったわ。それに男の子相手に臆病になるところなんてもっと素敵だわ!」

 私は褒められているんだよね? そうだよね?

「そうよ? だって私の好きな人ですもの。褒める以外の言葉が出てこないわ」

 そうですかーそれはありがとうございます。

 しかし、一体沢渡さんの何に火をつけてしまったのだろうか。

 こんなにグイグイ来るなんて、ちょっと予想外というか、学年一の美少女と名高い沢渡さんのイメージが崩れるというか。

 同じことを友香も思っていたようで、

「沢渡さんって、もっとクールな人だと思ってた。でも、椎子の前だとこんなにも人が変わるんだね。なんだか親しみやすくっていい感じだなって思う」

 すると、沢渡さんはニヤリ、という言葉がピッタリ来るような笑みを見せて、

「気持ちはきちんと言葉にしないと伝わらないわ。だから、椎子ちゃんが勇気を出すって決めた時に、私も決めたのよ。後悔だけはしたくないんですもの」

「あんまり言葉にし過ぎるのも、それはそれで冗談めかして聞こえてくるというか、嘘っぽく感じられるというか。

「大丈夫よ、私は本気だから。言葉を重ねることで、私の本気の気持ちを知ってもらう方が重要だもの。相手が意識してくれたなら、後は、」

 沢渡さんが、穏やかな笑みで私を見据えて、

「私のことを好きになってくれるよう、全力で走るだけよ?」

 よくわかんないけれど、とりあえず沢渡さんを恋のライバル認定しておこうと思った。

 私が佑輝君と両想いになるのが先か、それとも私が沢渡さんと――。

「あら、その先を想像くらいはしてくれてもいいんじゃない? というか、して欲しいわ。駄目なの? 椎子ちゃんの想像の中で、私がどうされちゃうか凄く興味があるんだけど?」

 そういう恥ずかしいことは、言わないで心に秘めておいて欲しいなあ私は!

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