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第6話

「えっと、椎子ちゃん? 愛の告白が何だって?」

「――ッ!???」

 急に話に入ってきた友香の声に、私は飛び上がらんばかりに驚いた。

「いやあの、友香ちゃん!? 何いつから居たのどこから聞いてたのってかほら、あれなのよあれ、……どれ?」

 焦って意味不明な言葉を口走ってしまう私に、

「いや、最後で急に冷静になるの面白いね。椎子のそういうところ、私は好きだよ」

 友香のその言葉を聞いた沢渡さんがニヤリと笑って、

「そっかー。友香さんは椎子ちゃんのこと好きなんだ」

 そして私の方を見て、

「でも残念、椎子ちゃんには他に好きな人が居るのよね?」

 いやあの沢渡さん!? 話の流れというか、私がきちんと話すと決めてることではあるけれど、心の準備というか覚悟というか、せめてそういうの、

「そうそう、誰なのよ椎子の好きな人って!? 私、気になって気になって、思わず午後の歴史の授業居眠りしちゃったんだからね!?」

 その話を聞いた私と沢渡さんは一瞬だけ真顔になり、

「あー、それはご愁傷様でした。というか、それ私が悪いの!?」

「椎子ちゃんって罪作りな女の子ね……」

 歴史の授業で居眠りなんてすれば、そりゃ職員室呼び出しもあるよ。授業中の居眠りだけNGの渋川先生の顔を思い出して、私は苦笑い。

 そんなちょっとした笑い話で気持ちがリセットされたところで、

「友香ちゃん、私、どうしても伝えておかないといけないことがあるの」

 そんな風に、話を切り出した。

 友香はそれを聞いて真剣な顔をして私に向き直り、そして沢渡さんは友香の後ろに回り込んで私の顔を見て、うんうん、と二度頷いて見せた。

 ……その二度の頷きってどういう意味があるのだろうか。沢渡さんのことだから意味なんてなくて雰囲気でやってるだけなのかもしれないけれども、ともかく、

「友香ちゃんってさ、好きな人は今も居ないんだよね?」

「え、何で私のこと?」

 その疑問はある意味で当然だが、しかし、

「どうしても確認しておきたい、大事なことなの」

 真剣味を帯びた声で、友香に答えを促す。

「あ、うん。そうだね。居ないよ、居ない。……あはは、沢渡さん聞いてよ。私ってね、初恋もまだなんだ。いやあ、椎子には先を越されちゃったなあ」

 途中から沢渡さんに話しかけていたが、それは明らかに大切なことを誤魔化しているようにしか、私には聞こえなかった。

「私は先を越してなんかないよ、友香ちゃん」

 だから、私は言ってやる。恋をしている私の目からしても一目瞭然のそれは、

「友香は恋をしてるよ、名乗ルン……じゃなくて、佑輝君に」

 空気が凍りついた。しばしの沈黙があって、そして最初にその沈黙を破ったのは友香だ。

「ごめん、まずこれだけ言わせて。名乗ルンって何……? 佑輝のあだ名なの……?」

「ごめん忘れて。たしかにあだ名なんだけどごめん、本当に忘れて」

 沢渡さんは何故かツボに入ったらしく、声を押し殺すようにして笑っていた。

 ちくしょう、緊張し過ぎて失敗したッ! こうなったら、

「友香は恋をしてるよ、佑輝君に」

 言い直して誤魔化すことにした。友香の後ろで沢渡さんが引き続き笑いを堪えているようだが、それこそ無視だ。

 そして友香は、顔を伏せての沈黙で私の言葉に返事をする。

「友香はさ、もしかしたら気付いていないのかもしれないけれど。佑輝君と居る時はいつだって楽しそうだし、私とお喋りしてる時の話題の半分くらいは佑輝君のことだし、昼休みに友香のところに遊びに行くとね、だいたい友香は佑輝君のこと目で追ってるんだよ?」

「いやそんなことない、」

「あるし! それを聞いて! それを見て! 私がこれまでどんなにツラい思いしてきたと思ってるのッ!?」

 ああやってしまった。思い切り、ぶちまけてしまった。

 私の悪い癖だ。喋ってる途中でヒートアップして、爆発してしまうパターン。

 少しばかりは後悔の念が過ぎるも、私の中にある熱が冷静になることを許さない。

「いつも! いつもいつも! こんなに胸が苦しいのは、もう嫌なの! 私は、私の心に正直に生きたい! だから、告白するって決めたの!」


――たとえそれが、叶わない恋だとしても。


 その呟きが、友香に聞こえたかはわからない。

 ただ、友香が伏せていた顔を上げて私を見て、

「あはは。そっか。わかった、わかっちゃった。椎子の好きな人って……、そっかぁ、そうだったんだ。気付かなくて、ごめん」

 あれ? 何だか友香が私を見る目が、少しばかり妙な色を帯びているような気がする。

「椎子のクラスの女の子と、さっき職員室行く途中で会ってね? 妙なこと言ってるなぁって思ってたんだけど、」

 いやちょっと待て。それは誰で、そいつはいったい、友香に何を吹き込んだ?

 脳が急速に冷えていくのを感じる。

 まだまだ暑い夏、脳や身体がこうも熱せられたり凍ったりしてては、身体に悪いっていうものだ。

 だから、私は、

「えぇっと、友香ちゃん。それは誤解だと思うの。ちょっと落ち着こう? 私は落ち着いた。だから、――ッ!?」

 言い終わる前に、友香に思い切り抱きしめられた。

 主に胸の中に抱きとめられるような形で。


 幸いにして、と言うべきかどうかはわからないが。

 沢渡さんに抱きしめられた時のように、胸に挟まれて窒息寸前まで追い詰められる、ということはなかった、とだけ言わせて頂こう。


 ……あ、ごめんなさい誰も胸の話なんてしてないです、はい。大丈夫です誤解です。

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