第3話
長いようで短い五限の授業が終わり、短い休憩時間がやってきた。
さっきのは誤解なんだと弁明したくて、
「沢渡さん、あのね、」
隣の席に声を掛けるも、既に無人。
その代わりに、という訳でもないのだろうが、
「沢渡さんなら、もう教室を出てしまわれましたわよ? それよりも、」
私は、沢渡さんの取り巻きの女の子達に囲まれる。
彼女達は一体何が目的でこんなことをするのか、それはそれで問題だが。
それよりも、沢渡さんの行動に対して、何か不穏なものを感じる。沢渡さんを放置してはならないと、直感がそう告げている。だから私も急いで後を追おうとして、
「お待ちになって?」
腕を掴まれ、引き止められる。
「えぇっと、あのぉ?」
何が起こっているのか、本来囲まれるべきは沢渡さんで、私ではないはずだ。
これまで、彼女達は私と沢渡さんが仲が良いことを知っていて、だからこそ変な絡まれ方をするようなこともなく、そもそも彼女達が私に興味を向けるようなことなんでほとんどなかったはずなのに。
何故、私は今、まるで沢渡さんにでもなったかのように、彼女達からキラキラと輝く好奇心に満ちた目を向けられているのだろうか。
「ねえ皆川さん? 私達、お昼におっしゃっていた、あなたが告白するっていうお話のこと、詳しくお聞かせ願えませんの?」
ああー、それですか。そんなに興味ありますかあなた方。でも残念、それは誤解なのでしたー。
だから解散! はい解散!
「お気持ちはわかりますわよ? 世間一般から認められなくとも、私達は精一杯応援させて頂きますわ!」
ええー、この人達、話聞いてくれないよ。いや、私も何も言ってないか。
気持ちは、想いは言葉にして伝えないと伝わらない。
だから私は、言う。
「いやあれは、単なる誤解で。告白というか、決意表明というか、ともかくそんな感じで!」
こんな要領を得ない言葉で伝わるのなら、誰も彼も苦労はしない。案の定、
「女の子同士でも関係ない、絶対に振り向かせて見せるという、そんな決意表明ですのね……? 素敵ですわ」
他の娘達も口々に、女の子同士なんて素敵ですわ、とか、三角関係なのね、とかなんとか、もはや人の話を聞かずに盛り上がっている。
何度も否定の言葉を口にするも、彼女達には全くその意図が伝わらない。
照れ隠しだとでも思われているようだった。私のどこがツンデレなんだ。もはやその言葉の意味がわからない。
全く手応えを感じられないままに、休憩時間終了のチャイムが鳴る。
取り巻きの女の子達がサッと席に戻るとほぼ同時、滑り込むようにして沢渡さんが帰ってくる。
「あのね、沢渡さん、」
まだ授業担当の先生が来てないのをいいことに、私は沢渡さんに話しかけるが、そこに被せるように、
「椎子ちゃん。放課後、付き添いってことで私も一緒に行くわ。もちろん、友香さんの許可は取ってきたわ」
あー、はい。そうですかー。もはや弁明する気も失せて、私はガクリと首を落として、そのまま机に突っ伏す。
「うふふ。ありがとう、椎子ちゃん。そんなに勢いよく頷いてくれるなんて。親友冥利に尽きるってものね。それに、もし上手くいかなくても大丈夫よ? その時は、この私の胸を貸してあげるわ。今日だけは思いっきり泣いてもいいのよ?」
そこまで聞いて、私はさっきとは真逆に勢いよく顔を上げて、
「失敗する前提で話しないでください! ていうかそもそも誤解で、」
そこで先生が教室に入ってきたので、私は口を閉じた。
またしても誤解を解くことが出来なかったが、私を見ていつもの穏やかな微笑みを浮かべている沢渡さんの顔を見ていると、
「もーどーにでもなれー……」
やる気なさげに、私は呟くのだった。




