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第4話 魔法戦艦ってありえねー!

「あーははは! あーははは!」


 激しい揺れと、馬鹿みたいな高笑いで意識が戻った。


「おまえたち! 命まで奪われなかったことに感謝するのね!」


 うーんと唸りながら俺は眼を開けた。……まだ、生きているようだ。


 俺は箱車の荷台にあおむけに倒れていて、その俺の顔をまたいでアヴィが仁王立ちになり、前方を指差しながら大声で叫んでいる。


「ばーかばーか! あたしを騙した罰よ!」


「アヴィ」


「後悔なさい! あーははは!」


「アヴィ!」


「え、なに? どこ?」


「見えてるんだけど」


「ん?」


 下を向いたアヴィと、見上げる俺の眼が合った。


「ぎゃーっ!」


 揃えた膝を落とされ、俺は顔を押さえて荷台を転げ回った。


「めがぁぁぁあああ!」


「この変態覗き魔痴漢ーっ!」


「姫! まずいです!」

 ラッシュの切迫した声が聞こえる。

「早く車から降りてください!」


「いやよ! まだ言い足りないわ! ばーかばーか!」


 お姫様はしつこく叫ぶ。

 なんかすごいハイテンションになってるなピンク。


「だめです姫! 逃げましょう!」


 ラッシュが焦っている。

 クールな猫娘がこんな声を出すなんて、いったいなにが起きたんだ。


 俺は身体を起こし、めりこんだ眼をこじ開けた。


 俺たちが乗ってきた箱型自動車は道路をそれ、広い草地に突っ込んで止まっていた。陸地から岬のように突き出した地形で、背後にはゆったりとうねる青い海が眼下に広がっている。ここはかなり高い場所らしい。


 陸地側、数十メートル離れた道路には追ってきた黒服達の車が1、2、3台、停まっている。

 黒服の一人が片膝を地面につき、肩に当てた長い筒をこちらに向けた。


 ……ライフルだ!


「危ない!」

 俺は立っているピンクの手首を握って引きずり倒した。


「痛い! なにすん」

 アヴィの声は荷台を貫通するライフル弾の衝撃音にかき消された。

「きゃーっ!」


「早く降りろ!」


 俺とアヴィは背をかがめ、荷台から転がり落ちた。

 箱車の運転席の影にラッシュが身を隠している。


「ラッシュ、なんで止まっちゃったの?」


「タイヤを撃たれました。もう走れません」


「なぁ〜んだ」


「なぁ〜んだじゃねぇ!」

 俺は思わず大声を上げた。

「さっきの勝利の雄叫おたけびはなんだったんだ! 完全に不利じゃないか!」


「だって、なんかじっとしてるからもう諦めたんだと、きゃっ!」


 ライフル弾が飛来し、運転席のガラスを打ち砕く。


 エンジン音が聞こえ、俺は箱車の影からそうっと顔を出した。

 4台目の黒い車が到着したところだった。降りてきた黒服を見て、俺は全て理解した。あいつらは《《あれ》》が来るのを待っていたんだ。

 俺はラッシュを振り返った。


「この先は崖だな? かなり高そうだけど、飛び降りられるか?」


「飛び降りられるよ。下が岩場なら確実に死ぬけど」ラッシュが平然と言う。


「大丈夫! あたしがなんとかする!」ピンクがぐっと拳を握る。


「よし! なんか攻撃魔法出せ! あいつらをやっつけろ!」


「え? ないよそんなの」


「え? はぁ? ないのぉぉぉおおお!?」


「ないわよ。魔法をなんだと思ってるの?」


「魔法だと?」


「杖の先から光線出したりとか? ありえねー、ふっ」


「鼻で笑うな! ありえねーのはおまえだ! さっき雷撃出してただろ!」


「あ、雷はここじゃ効果なし。拡散しちゃうから」


「しちゃうの?」


「しちゃうの」


「……終わったー!」


 俺は天を仰いだ。これからあの人生最後の走馬灯ってのが始まるんだな。

 道路の方から声が聞こえる。

『よし、早く撃て!』ってね。


 くっそー!

 こんなところで死んでたまるか!


「ラッシュ! 走るぞ! アヴィを離すな!」

 俺はピンクの左手をつかんだ。

「おう! よくわかんないけど、わかった!」

 ラッシュはアヴィの右手をつかんだ。

「え、なになに?」

 ピンクお嬢様は状況がわかってない。


「いくぞっ!」


 俺と黒猫はピンクの手をひっぱり、猛然とダッシュした。

 海に向かって。


「走れ―ッ!」


 スピードをつけて飛び出し、できるだけ崖から離れて着水するのだ。

 岩場に落ちなければ、万に一つでも助かる可能性はある。


「撃てっ!」黒服が叫んでいる。


 そして、シュパッという発射音。


 なんでこの魔法の世界にそんなものがあるんだよ?

 俺は走りながら思った。

 RPG-7じゃないかそれ!


 背後で爆発が起こった。

 箱車は対戦車ロケット弾の直撃を受けて粉々に飛び散る。

 爆風に吹き飛ばされて俺たちは浮かび上がり、崖を越えて空中に飛び出した。

 

 崖下から強い海風が吹き上げてくる。

 手をつないだ俺たち三人は一瞬、ふわりと静止したようだった。


「アヴィ、魔法で空を飛べないのか?」


「そうね、人そのものは無理だけど、魔力を使って」


「姫、なんでもいいので早くなんとかしてください」


「ラッシュ、おまえけっこう雑だなー」


「そうなのよ、この子って」


 俺たちは糸が切れたように急降下した。


「落ちるー!」俺は絶叫した。


「姫ーッ!」ラッシュも叫ぶ。


「マジカル・コンストラクト!」

 アヴィが真っ赤なカードを指にはさみ、空中になにかの文字スペルを描いた。

「リアライズ! ピンク・ランページ!」


 こいつなに言ってるのぉぉぉ!


 崖が高くても落下時間は数秒のはずだった。

 岩場か海面に激突してジ・エンドのはずだった。

 それが……。


 ピンクの閃光と共に一瞬で現れた《《それ》》に俺は乗っていた。

 俺とアヴィとラッシュを乗せた《《それ》》は、ゆっくりと上昇を始めていた。


 大きな船だった。

 しかも前後の甲板に砲塔をいくつも載せた戦艦だった。

 いや、この規模ではせいぜい駆逐艦か。それでも船としては相当な大きさだ。

 魔法でこんな戦艦が出せるなんて、ピンク凄すぎるだろ!


 と俺は一瞬、思いました。


 でもー。

 でもでもでもー。


 出現した船をよーく見ると、檣楼は屋根の尖った宮殿の円塔のようで艦橋は鉢植えの花が並ぶ張り出したバルコニー、普通なら煙突のある場所にはレトロでちいさな観覧車がまわっていて、しかも戦艦全体がピンクをベースにしたカラフルなカラーリングに可愛い花柄が描かれ、3つの砲塔は黒ネコ白ネコ三毛猫の顔。


 メルヘンでファンシーかつ何か混沌としたこのデザイン・世界観。

 これは、つまり。

 この船を創造したあいつの……頭の中!


「あーははははは!」

 艦橋のバルコニーではアヴィが腕組みして高笑いしている。

 提督か!


 ……やっぱこいつ、頭おかしい!


 俺は檣楼のドアを見つけると中に入り、狭い階段を駆け上がった。

 艦橋の先端にアヴィが立ち、その後ろで海賊船のようなでかい舵輪をラッシュが握っている。二人だけでこの大きな船をどうやって動かしているんだ?


「取舵ー!」アヴィが叫ぶ。


「とぉぉりかぁじ」ラッシュが復唱して舵輪を回す。


「目標、地面の黒服! 左舷傾斜!」

 

 船が左に回頭し、同時に艦体がぐらりと傾く。

 斜めになった戦艦の左下方に、道路に停まっている車と黒服たちが見えた。全員ぽかんとしてこちらを見上げている。そりゃぽかんとするわなこの船見たら!


「あたしたちを撃った罰よ!」

 アヴィは黒服たちを指差した。

「黒ちゃん白ちゃんミケちゃん、照準合わせて!」


 3つの猫砲塔がにゃーんと回転して地面に砲口を向けた。

 いや待てまずいだろ、本当に撃つつもりか?

 俺はバルコニーの端に駆け寄り、地面に向かって叫んだ。


「お前ら、逃げろーっ!」


 黒服たちがはっとして、いっせいに走り出す。


「ニャンコ砲、てーいッ!」アヴィが叫ぶ。


 落雷のような砲声が轟いた。

 着弾は正確だった。

 四台の黒い箱車は艦砲射撃を受け、跡形もなく飛び散った。


 砲煙と立ち上る土煙を突き抜けて、ピンクの戦艦は岬の上空をぐるりと旋回し、海へと艦首を向けた。


 アヴィはフラフラとした足取りで艦橋の中に戻ってくると、操舵装置の前にある艦長席の椅子にドサリと座り込んだ。


「はぁ〜 疲れた〜」


「姫、もう少しです。着水まで構築を維持してください」ラッシュが声をかける。


「うん、わかってる。操船よろしく、ラッシュ」


「はい。それにしても、ずいぶん使いましたね」


 アヴィは胸元から赤いカードを取り出した。

 表面に浮かび上がっている数字を見て、おでこに手を当てる。


「あちゃーすごい減ってる。ちょっとやりすぎちゃったー」


「おいアヴィ、なんだそれ、その赤いカード?」俺は言った。


「これは魔封魔符(マフマフ)。魔力をチャージできるの」


「マフマフ? 魔力?」


「貯めていた魔力を使って、この魔法戦艦ピンク・ランページを構築したの。でも消費量が半端ないのよねー。たったこれだけの時間で、もうごっそり」


「なんかおまえ……すごいんだな」俺は溜息をついた。


「え?」


「ここは本当に魔法の国で、おまえは凄い力をもった魔法使いなんだな」


「は? なにどうしちゃったの? エロ勇者がまじめになって〜」

 アヴィは口とは裏腹に、心配そうな顔で俺を見た。

「でも、もうわかったよね? ここがあなたのいた世界じゃないってことを」


「ああ、たしかにここは、魔法が存在する世界だ」

 俺はぼそりと言った。

「信じられないけどな……」


 船はどんどん高度を下げ、海面が近づいてきた。


「あー、ごほん」

 アヴィは咳払いすると、少し改まった口調で言った。

「ええと、ちょっとあたし、テンパってたみたいで……」


「は?」


「だって、勇者召喚してからいきなりいろんなことが起きちゃって、あたしもういっぱいいっぱいで、おまけにキスまで奪われちゃったし」

 ちらりと俺を見る。

「初めて……キスされちゃったし……」


 俺はじわりと後ずさった。これはもしかして『刷り込み』ってやつですか。

 生まれて最初に見たものを親だと思い込む赤ちゃんアヒルってやつですか。

 そういえば俺もこいつ以上にテンパってなかったか?

 車を追いかけている時、なんかすごいセリフ言ってたような……。


『お前はぁおまえの勇者だろぉー』とか。


 びーぷびーぷびーぷ。

 ゲーマーの本能が嫌なアラームを鳴らしている。


 いやぁ、可愛いんだけどね、このピンクお姫様。

 でもこの魔法戦艦のメルヘンカオスなデザイン……。


 ないわー。

 これはないわー。

 ちょっと、ついてけないわー。


「ははは、そうだね、キスはちょっといきなり過ぎたかな。ごめん。もっと時間をかけてお互いじっくりつき合ってからってほうがいいよね。そうだよね、いったん戻ってから改めてまた会おうか。ね。それがいいね。それじゃぁ」


 背後でラッシュが静かに動き、俺の退路を断つのがわかった。


 ……俺、ルート間違えたかも。


 魔法戦艦ピンク・ランページは、水飛沫を上げながら海面に着水した。

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