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第23話 魔戦艦強襲

 魔王は石畳の上に座り込んだ。

 その前に魔封術士のヤン親子が並び、身体を揺らして踊りだす。

 脱力体操のようにダルダルと動きながら、暗い声で呪文を唱えた。


「……お先真っ暗この世は闇よ宇宙も混沌真っ暗闇だ……」

「……神界魔界に天地のことわり森羅万象有象無象しんらばんしょううぞうむぞう……」

「……魔法神業奇跡に神秘みんなまとめて無かったことに……」

「……無かったことにしてしまえー……」


「……してしまえー……」


 ヤン親子は変なポーズで互いの両手を合わせ、ダルそうに叫んだ。


「……魔封魔封乱破マフマフラッパーッ……」


 ダルーン!


 気の抜けたダルい波動が周囲に広がっていく。

 しんと静まり返っていた古城に、小鳥の声が響いた。


「こ、これは……?」

 魔王は城壁に囲まれた空を見上げた。

「まさか……結界が、消えたというのか……?」


 俺たちは中庭に出て、へたり込んでいる魔王を取り囲んだ。


「魔王デス・ガナニカ!」

 俺は黒髪男の前に立った。

「魔解門は閉じ、残った魔力も封じられた。お前はもう無力だ!」


「ロックロック、いや魔王デス!」

 ドラモンも進み出て、鼻の穴を拡げて言った。

「相手を見下してバカにしているから逆に騙されるわけよ、わかるぅ〜?」


「うっ、ぐぐぐ!」魔王は、がくりとうなだれる。


「はーっはっはっ!」

「はーっはっはっ!」


 俺と王様は勝ち誇り、高らかに笑った。


「なに調子こいてるんでしょう? あの二人は」

 クマザサが呆れ顔で言う。

「でも、ゆーじといい、あの魔王といい、男ってホント馬鹿ばっかりですね!」


「お前たち、とんでもないことをしてくれたな……!」

 魔王は膝に手をつき、ヨロヨロと立ちあがった。

「なんと、愚かな!」


「な、なんだと! もう手も足も出ないくせに!」

 ドラモンがパンチを出す真似をする。


「わからないのか?」

 魔王は声を震わせた。

「結界が消えたことを気づかれたら……」


「あら、そうですねぇ」

 ミナージュがおっとりと言う。

「これだけ大きな魔力が突然消えれば、遠くからでもきっとわかるでしょう」


「デスよねー」

 魔王は黒いドレスのラッシュに手をさしのべた。

「レディ、約束を守らなかったのは私が悪かった。しかし今は早くここから逃げなくてはならない」


「あなた、なにを言っているの?」ラッシュがいぶかしむ。


 足元の石畳が震えだした。

 いや、石造りの堅牢な古城全体がビリビリ振動し始めた。

 

 ゴゴゴゴゴ!

 低周波が唸るように鳴り響き、内臓まで揺さぶられる。


 全員が頭上の空を見上げた。


 結界の消えたガナニカ城のすぐ上に、真紅の巨大戦艦(アイアン・ルージュ)があらわれていた。


「戦艦ごと瞬間移動テレポゥしてきやがった!」

 俺は叫んだ。

「みんな、逃げろーっ!」


「ど、どこへだゆーじ?」

 ドラモンがオタオタして辺りを見回す。

「丘を降りる間に狙い撃ちされるぞ!」


「みんな! 城の中に!」

 俺はピンクの手をとった。

「いくぞ、アヴィ!」


「うん!」


 再び城の中に駆け込む。

 俺は黒猫と一緒にいる魔王デスを振り返った。


「ここに古い魔杖兵がいるな?」


「…………」


「隠すな! ミナージュの魔杖兵はそう言っていたぞ!」


「……ああ。地下の武器庫にな」


「連れて行ってくれ! 頼む!」

 俺は魔王デスに頭を下げた。

「戦力が必要なんだ! ファンファンを倒すために!」


 魔王は横にいる黒猫を見た。

 ラッシュは真剣な顔でうなずく。


「……わかった。案内しよう」


 中庭からガシャンガシャンと激しい音が響いた。

 窓から覗くと、十数体の魔杖兵が手足を折り曲げて倒れている。

 アイアン・ルージュから降下してきて、魔力が使えない魔封術の領域に入ったからだ。


「我々を探して捕らえるつもりだな」

 ドラモンが低く言った。

「急ごう。ファンファンが魔王であるなら、魔封術も長くはもたない」


 魔王を先頭に、ガナニカ城の地下へと通じる石のらせん階段を降りる。

 何階分を降りただろう。

 地上の明り取りの窓からの光も届かなくなり、暗くて先に進めない。


「明かりはないのか?」俺は王様に訊いた。


「魔力が封じられているからな」

 ドラモンは螺旋階段の上の、ちいさな窓を見上げた。

「これでは進めないか……」


 ドン!

 その時、熱波のように強い波動が頭上から広がり、通り過ぎた。


「あ……」俺はエル・ヤンを見た。「これってもしかして?」


 痩せた調理人は渋い顔でうなずいた。

「うむ、魔封術が破られた」


 やっべー! 

 なんか、嫌な予感……!


「サラマンダー!」魔王デスが叫ぶ。「闇を照らせ!」


 炎のトカゲが壁に次々にあらわれ、灯火のように階段を照らした。


「ついて来い!」

 魔王が靴音を立てて階段を駆け下りる。

 俺たちは足を踏み外さないように、必死になって後を追った。


 地下倉庫の入り口にたどり着いた。

 魔王は大きな鉄製の扉に向かい、両手を拡げて呪文を唱えている。


 ガシャン!

 ガラスの割れる音とともに、破片が振ってきた。

 同時に魔杖兵が何体も落下してくる。


「ぎゃー! 魔法ロボットがキター!」


 立ちあがった魔杖兵の頭部の宝石が光る。

 周囲に猛烈な炎が湧き上がった。


 俺は結界で火炎を防ぎながら、背後の魔王に叫ぶ。

「おい魔王! まだ開かないのか!」


「もう少しよ!」黒猫が叫び返す。「食い止めて! ゆーじ!」


 別の魔杖兵が前に出てくると、今度は落雷のような電撃がバリバリと走った。


「こいつら属性があるのか?」

 俺は背中にしょった黄金のフライパンを引き抜き、両手で構えた。

「ふんがー!」


 防御結界を拡張させ、魔杖兵たちを石壁に押し付ける。

 石壁と結界の間にはさまれた魔杖兵たちは火炎や雷撃、氷瀑などを滅茶苦茶に炸裂させた。魔杖兵自身がダメージを受けて損傷していく。


「開いた!」ラッシュが叫ぶ。

 

「ヴェルゴリギリウス!」魔王の声が聞こえた。「ここへ!」


「ゆーじ!」アヴィが叫ぶ。「結界を解いて! そこをどいて!」


 俺は真横に飛び退いた。


 壁に押し付けられていた十数体の魔杖兵たちが、いっせいに姿勢を正す。

 次の瞬間。

 青い光線が空間を走り、魔杖兵たちの頭部の宝冠を正確に射抜いた。


 ガシャガシャと音を立てて、魔法ロボットが重なりあって倒れる。


 振り返ると魔王デスの横にでかい魔杖兵が立っていた。

 うおーすげー!

 さすがオリジナル、性能ハンパねー!


 ズン!

 地上からものすごい圧迫感が降りてくる。

「うぉっ! な、なんだ?」


「まずい……!」

 ドラモンが青ざめている。

「アイアン・ルージュの結界の中に入った」


「え? それって、もしかして?」


「ファンファンが降りてくる」


「ぎゃー!」

 俺はガナンシャ大寺院で魔物を焼き尽くした紅蓮の猛火を思い出した。

「いやあれはガチで勘弁してほしいレベル……!」


「みんな! あたしにつかまって!」

 アヴィが大きく手を広げた。

「すぐに逃げなくちゃ!」


「こんなに大勢、いけるのか?」

 俺は皆の間に入ってピンクの魔法使いの手をつかんだ。


「やってみる!」


「ちょ! 大丈夫なのかアヴィ!」


「…………」


「黙るなー!」


「あらあら、みなさんおそろいで」


 やけにいい声が響いた。

 変な大きな帽子とマントの白塗り男がすーっと降りてくる。


「嬉しい。ついにこの日が来たのね。本当に待ちかねたわ」


「な、なにを言ってるんでしょうか?」俺は声を震わせた。


「すべての魔力を喰らう日が来たのよ」

 魔導士は満面に笑みを浮かべ、俺たちを順に見ながら言った。

「そして、その力で魔界の門を開く日がね」


「え、じゃぁやっぱりあんたは……魔王?」


異邦人エトランゼ

 ファンファンはピタリと視線を俺に当て、ニヤリと笑った。

「あなたのおかげよ」


「!」

 ぞっとして身体が震えた。

 まさか俺をこの異世界に召喚したのも、こいつの計画だったのか?


「そういうこと」

 魔導士は俺の心を読んだように目を細めた。

「状況を変えるには異物が必要だったの。いろいろかきまわしてくれて感謝するわ、異世界からの勇者様」


 俺は茫然とした。

 身体から力が抜け、気が遠くなってくる。

 いったい俺は、なにをしてきたんだ……?


「ゆーじッ!」

 ピンクの張り詰めた声に、はっと我に返った。

「しっかりしなさいッ!」


「ア、アヴィ?」


「みんな! いくわよ!」ピンクが叫ぶ。


「お待ちなさい、アヴィ」


「マズィカル・テレポゥ!」

 ピンクの魔法使いは赤いカードを指に挟み、空中にスペルを描いた。

「そうだ! お家に帰ろう!」


「ヘル・フレイム」

 白塗り男の眼から小さな火球が飛び出した。




「うわあああー!」

 俺は叫んだ。心臓がバクバクして口から飛び出しそうだ。

「び、びびったぁあああー!」


 ファンファンの放った火炎が広がった瞬間に、俺たちは瞬間移動していた。

 まさに間一髪!


 周囲を見回すと、俺たちはだだっぴろい広場に立っていた。

 すぐ目の前にはギリシャの神殿のような大きな石の建物があり、警備の憲兵たちがずらりと並び、こちらに気がついていっせいに走り始め……。


「ここは王都旧名グラン・ル・グランの王宮広場。そしてあの赤マントは王宮憲兵隊」

 ラッシュが静かに言う。

「ついに王都に戻ってきました」


「説明ありがとうラッシュ。でも今は」

 銃声が響き、俺はカーン! とフライパンで弾丸を弾き飛ばした。

「とっとと逃げたほうが」


「あらあら、忙しいことですねぇ」

 ミナージュが胸に手を当て、眼を丸くした。


「すまないミナージュ。とりあえずここを出て、どこかでお茶にしよう」

 ドラモンがキリッとした顔で言う。


「はい。そういたしましょう、王様。では」

 風の魔法使いは優雅な手つきで周囲の空気を優しくなでた。

「ライオット・ストーム!」


 突然の暴風に押し寄せていた憲兵たちは木の葉のように舞い上がり、遠くまで吹き飛ばされる。


「早くどこかに隠れましょう!」クマザサが焦っている。「またあの魔法戦艦が戻ってきますよ!」


「いや、それは無理だと思うがな……」ドラモンが声を落とした。


「え? なんでですか?」


「魔法戦艦を維持したまま瞬間移動するには莫大な魔力を消費する。術者の身体にどれだけの負荷がかかるか想像もできん」

 王様は遠くの空に眼を向けた。

「あの魔導士、本当に悪魔だな……」




 アイアン・ルージュの艦橋に、赤い少女が倒れている。

 ベルガメイズは身体を痙攣させながら咳き込み、多量の血を吐いていた。

 周囲の魔杖兵たちは艦長がもがき苦しんでいても、なにも反応しない。


「あらあら、た〜いへん」

 戻ってきたファンファンは赤い少女を見下ろした。

「急に結界が消えたから思わず飛んできちゃったけど、この子にはちょっと無理だったかしらね」


「……ファン……ファン……」

 ベルガメイズは涙に濡れた眼をわずかに開いた。

「……苦しい……たすけ……て……」


「まだ死んじゃだめよ」

 白塗りの魔導士は片膝をついて長身をかがめると、赤い少女の背中に手をかざした。

「魔力を分けてあげる。しっかり働いてね」


 手のひらからどす黒い霧が流れ出て、少女の首筋から身体に流れ込む。


「ぐ! ぐえあっ! があああああッ!」

 ベルガメイズは胸をかきむしりながら床の上をのたうちまわった。

「ぐえあああああッ!」


「……ファンファン」

 幼い少年がゆっくりと魔導師に歩み寄った。


「あら、どうしたのメイビスクラン?」


「……腕、とれちゃった……」


 金髪の少年は、もげた片腕を差し出した。


「……ねぇ……直して……ファンファン……」


「しかたないわねぇ……」


 メイビスクランの足元の床が四角く開き、その姿は一瞬で消えた。


「新しいのを持ってきなさい。長持ちしそうなやつをね」


 魔杖兵の一体が席から立ち上がり、ガシャガシャと足音を立てて艦橋から出ていった。


 魔道士は腕を伸ばすと少女の首をつかんで宙に吊り上げた。

 ぐったりした身体を艦長席に荷物のように置く。

 口から溢れた血が胸元にだらだらと流れた。


「では急いで戻りましょうか、赤い都へ」

 ファンファンは気怠げにつぶやいた。

「ピンクの王女様は、ああみえてせっかちなのよねぇ……」

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