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第22話 魔王ですがなにか?

「魔王が一人だと、誰が言った?」

 ロックロックは俺たちをじろりと見た。


「いや、言ってない言ってない」

 全員で手をぷるぷる振る。


「ファンファンが……魔王だなんて」

 アヴィが声を絞り出す。

「そんなこと、信じない……」


「おい、アヴィ?」


「あたしは信じない! 嘘よっ! 嘘つきっ!」


「落ち着けアヴィ!」

 俺は震えるアヴィの肩を抱きかかえた。


「……ううっ!」


「信じたくない、ではないのか?」

 ロックロックは動揺するアヴィを冷たく一瞥いちべつした。

「おまえは?」


「!」眼を見開くアヴィ。


「私とファンファンは敵対関係にある」

 黒髪の男はソファから立ち上がり、重厚なマホガニーの執務机に歩み寄った。

「牽制し、威嚇し、隙を見せれば襲いかかる。魔王は互いの魔力を食らおうと常に狙っているからな」


 魔力を食う。

 前にラッシュが同じことを言っていたのを、俺は思い出した。


「私はこの世界を魔界と化し、支配するために来た。だが思わぬ邪魔がはいった。それがファンファンであり、暗黒王だ」


「ちょっと待ってくれ」

 俺は考えながら言った。

「どうしてファンファンは魔王の力を振るわなかったんだ?」


「言っただろう。暗黒王が世界を救ったと」


「そ、それじゃあ、ファンファンも結界に閉じ込められたのか?」


「そうだ。だが違う」


「どっちだよ!」


「奴も持っている。このダーク・インフェルノと同じ魔王玉まおうだまを」


 アイテム名には触れないでおこう。


 執務机の天板が左右にスライドし、下からボーリングのボールみたいなでかい黒水晶球が普通にせり上がってきた。

 仕掛けがちゃっちーなおい!


「す、すごい!」

 クマザサにはヒットしたようだ。


「ファンファンの魔王玉まおうだまはヘルズ・アイ。しかしやつも暗黒王の罠にはまり、ヘルズ・アイそのものの魔力で張られた結界に閉じ込められてしまった」


「どんだけ凄いんだよ、暗黒王!」俺はうめいた。


「おい、ゆーじ!」ドラモンが声を低くする。


「なんだ?」


「暗黒王と、あんこ食おう、って似てるよな?」


「帰れ」


「だが、ファンファンは『器』を見つけた」

 ロックロックは険しい顔になった。

「魔力をその『器』に流し込み、ヘルズ・アイの結界そのものを動かす『船』を作り出したのだ」


 ミナージュがはっと息を呑んだ。

「それは、まさか……魔法船のこと?」


 魔王はアヴィに鋭い眼を向けた。

 ピンクは頬を硬くし、その視線から顔をそむけている。


「そう。『器』とは、真紅の魔法戦艦を創り出す、第三皇女ベルガメイズだ」


 沈黙が流れる。

 ロックロックの言葉は、にわかには信じがたい。誰もが驚きと同時に疑念を感じているはずだ。

 しかし真実だとしたら、魔導士ファンファンはこの世界を魔界へと変貌させようとしている魔王なのだ。鋼鉄魔艦アイアン・ルージュを使って。


「……魔王よ!」

 突然、黙っていたアヴィが顔を上げ、前に進み出た。

「あたしは魔法王国グラン・グランの第一皇女、アヴリル・アストリア・ナナナ・エリシア・グラン・アリストレイタス。お前の魔解門ゲドム・ゲートの魔力をあたしに使わせてほしい!」


「いきなりだな。だが無駄なやりとりがはぶけていい」

 ロックロックは笑いながらも、警戒するように目を細めた。

「ふむ……どうするつもりだ?」


「あたしは三つの魔解門ゲドム・ゲートを魔封魔符につなげた。そしてあなたの魔力を加えて……」

 アヴィはロックロックを強く見つめた。

「アイアン・ルージュを沈める。そうすれば……」


「ファンファンの計画もついえるということか」


「…………」


「お前は知っていたな? あの船の中に魔解門があることを?」


「な?」

 俺は叫んだ。

「そうなのか、アヴィ!」


「…………」


 俺はピンクに詰め寄った。

「おい、うそだろ! なんで言ってくれなかったんだ!」


「あたしは……」

 アヴィは俺から顔をそむけ、かすれた声で言った。

「……あたしは、最後にあの船に乗り込んで、魔解門を破壊するつもりだった。でも危険すぎて、とてもみんなは連れていけない……」


「なん……だと?」


「きっと……みんな……死んでしまうから」


「おまえだってそうだろ!」

 俺はピンクの肩を両手でつかんで揺さぶった。

「自分だって死ぬかもしれないのに! なに言ってんだおまえー!」


「よせ、ゆーじ」

 ドラモンが俺の腕を押さえた。

「手を離すんだ」


「うううっ! くそっ!」


「だって!」

 アヴィは苦しげに叫んだ。

「だって!」


 魔王は執務机のどこかを操作した。

 机の上の黒水晶球がスルスルと沈んでいく。


「す、すごい!」クマザサが食いついた。


「この魔王玉、ダーク・インフェルノを渡しはしない。そしてお前たちのちっぽけな魔力では、私もファンファンも倒せない」

 魔王は冷たい声で言い放った。

「あきらめろ、人間」


「…………」


 誰も言葉を発することができない。

 重苦しい沈黙が広がる。


「……ならんなぁ」

 ドラモンがゆらりと前に出た。

「聞き捨てならんことばかりだなぁ」


 部屋の中に緊張が走る。

 ドラモンは俺たちを振り返り、眼で合図をした。

 俺とクマザサは運んできて立ててあった大きな楽器ケースの取手をつかんだ。


「あいにくだが、諦めがわるいんだよ、人間て奴はな!」

 ドラモンは魔王を指差した。

「お前の魔力はもう使えん! これをくらえ!」


 ロックロックは首を傾げた。

「ん? なにかするつもりか? その魔封術士で?」


 ドラモンは振り返り、肩をすくめた。

「バレてーら」


「……愚か者め」

 ロックロックの顔からすっと表情が消えた。

 指をそろえ、箱に向けて右腕を伸ばす。

「ダーク・ブレイド」


 やばいッ!

 俺とクマザサは一瞬で箱から飛び退いた。


 魔王の指先から漆黒の波動がほとばしり、長大な剣となって箱を貫いた。

 箱は爆発したように跡形もなく飛び散る。


「あ、あっぶねー!」俺は尻餅をついて叫んだ。


「……ヤン先生ーッ!」

 ドラモンは悲痛な声を上げ、がくりと床に座り込んだ。


「どけおっさん!」

 俺は膝をついて立ち上がり、魔王の前に出た。

 防御結界を張って皆を守らなくては!


「やめて! あなた!」

 鳥籠の中からラッシュが叫ぶ。

「皆は傷つけないという約束です!」


 あ、あなたぁああ?

 なにいってんだエロ猫?


「……ふう」

 魔王は吐息をつくと、黒猫に微笑みを向けた。

「すまなかった、レディ。約束は、守る」


「お願い……します……」

 ラッシュは射るような鋭い眼で魔王を見つめている。


 俺はぎりぎりと歯ぎしりした。

 やっべーぞこれ。

 完全にぼっち魔王のペースじゃないか!


「私はこれより魔界の門を開き、この世界は魔に堕ちる。残された時間を好きに過ごすがいい、人間どもよ」

 魔王は黒猫の入った鳥籠の横に立ち、高らかに声をあげた。

「私はこのレディとともに、新しい魔界の支配者となる!」


「……え?」


「ステージで見た瞬間にビビッと来た。このレディこそ、私の伴侶にふさわしいと!」


「えええ?」


「彼女が魔物であることはすぐにわかった。この美しさは、とても人間ではありえないッ!」


「えええええ?」


「そ、そんなぁ……」

 鉄の鳥籠の中のラッシュが恥ずかしげにもじもじする。

「最高に美しいだなんて……」


「格上げされてるー!」

 俺は愕然とした。

「おいラッシュ! どーなってんだよいったい!」


「わ、わたし、口説かれました。一晩かけて」


「へ?」


「そしてプロポーズを」


「へぇぇぇ?」


「魔界のクイーンになってほしいって」


「いや、でも島にいるりゅうちゃんは?」


「え? 誰それ?」

 ラッシュの眼が光る。

「なに言ってるのかなー?」


「ななな、なんでもありません」

 視線で殺されるかと思った。女ってこええええええ!


「ゆーじ、ゆーじ」

 クマザサが後ろから小声で言う。

「とってきました」


「え、なにを?」

 振り返るとでかい黒水晶球をクマザサが両手で抱えている。

「のわーっ!」


「しーっ!」


「ど、どうやって?」俺は声を抑えた。


「いや、動かす仕掛けを見に行ったら、机の下にありました」


「ばかなのー?」


「だから、しーっ!」

 クマザサは口を尖らしてささやく。

「とっとと逃げましょう」


「待て、まだ俺の背中に隠れてるんだ」俺は小声で言った。


「はい!」


「さらばだ」

 ロックロックの声が低く響く。

 その声の冷たさに、全員が凍りついた。

「私にはこのレディさえいてくれればいい。お前たち愚かな人間は、永遠の眠りにつくがいい」


「あなた!」 

 鳥籠の中のラッシュが椅子から立ち上がり、鉄の枠を掴んだ。

「皆は殺さないと言ったのに! どうして約束を守ってくれないの!」


「気が変わった。いずれ皆死ぬのだ」

 ロックロックは唇を歪めて笑った。

「遅かれ早かれな」


「そんなことしてるから『ぼっち』なんだよ!」俺は思わず叫んだ。


「う、うるさいッ!」声が裏返る魔王。「いますぐ死ねェェェ!」


「みんな耳をふさいで!」

 ラッシュが悲痛な声をあげた。

「封印名よ!」


 ちょ! 耳! いや、クマザサが魔王玉を持ってる!


「我が名は!」ロックロックが声をあげる。


「くそーっ!」

 俺はクマザサの耳を両手で押さえた。


「ゆーじっ!」

 気がついたアヴィが駆け寄ろうとする。


 しかし、遅かった。

 ロックロックのいい声が部屋に響き渡る。


「魔王ですがなにか!」


「……」


「魔王ですがなにか!」


「……」


「なぜだ!」

 魔王は狼狽うろたえたように叫んだ。

「なぜ脳が破裂しない!」


 黒猫もぽかんとしている。

「あれ、封印名を聞いたのに……?」


 俺はポリポリと頭をかいた。

「あのさぁ、なに言ってんの?」


「はい?」

 ロックロックの声が裏返る。


「だから、魔王ですがなにかって言われてもなぁ?」


「我が名は、魔王デス・ガナニカァァ!」

 ロックロックは身もだえしながら叫んだ。


「しつこいんだよ!」

 俺はようやく気がついた。

「あれ? もしかして、魔王デス・ガナニカってのが名前なの?」


「そ……そうだ……」


「ぷぷー! セリフにしか聞こえなかった!」


「なんということだ!」

 ロックロックは床にがっくりとひざまずいた。

「封印名として認識されないとは!」


「クマザサ! それを投げて!」アヴィが叫ぶ。「すぐに耳をふさぐの!」


「はい!」


 クマザサが黒水晶球をピンクに向かって投げ上げる。


「わが名は…………!」


 ギン!

 黒水晶球は波動を放って空中に静止した。


「…………を…………せよ!」


 俺とクマザサは耳をしっかり押さえながら、魔王玉から吹き出した紅蓮の炎が赤いカードに吸い込まれるのを見た。


 アヴィは魔封魔符を振り切り、胸にしまった。

 黒水晶球はドスンと床に落ち、ごろごろと魔王の足元に転がっていく。


 アヴィは呆然としている魔王デス・ガナニカに向かい、静かに言った。


「すべて終わったら返します。それまでは、あたしに預けて」


「いや返さなくていいから!」俺はあわてて言った。


「でも、ラッシュを魔界に戻さなくちゃ」


「は?」


「せっかく結婚相手が見つかったんだから」


「……いや」ドラモンが低く言った。「そうでもないようだぞ」


「え?」


 部屋の空気が氷のようにぞくぞく冷たくなってくる。

 その凍気は鉄の鳥籠から流れ出していた。


「あーなーたー」

 鳥籠の中で、ラッシュが唸っている。

「あーなーたぁー!」


「ひいっ!」

 魔王は顔を強張らせ、後ずさった。

「レ、レディ? 怒っているのかな……?」


「あたりまえだー!」


 ドッギャーン!

 籠の鉄扉を蹴破って黒猫がゆっくり出てくる。


「あーもう幻滅したわー。ガッカリだわー。夕べは運命の人に出会えたって死ぬほどドキドキしてたのに」


「わ、私もドキドキだったよレディ?」


「あ、そう?」

 ラッシュは魔王デスの胸ぐらをつかんで軽々と宙に浮かせる。

「まぁいいわ。わたしがちゃんと教育してあげるから」


「わ、わぁ、嬉しいなー」

 魔王は目を泳がせて逃げ道をさがした。


「まず約束はまもれーっ!」


「ギャーッ!」


 ラッシュは魔王を思いきり石壁に叩きつけた。

 吹き飛んだ壁の破片と共に階下の中庭に転げ落ちる。


「ひいいいっ!」


 這いつくばった魔王は、立ち上がろうとして顔を上げた。


「あ、あれ? 誰だお前たちは?」


 エル・ヤンとタミ・ヤンの親子が、魔王を見下ろしている。


「……くっくっくっ……計算通り……」


「え?」


「……おまえ、ちょろいぜ……くっくっくっ……」


 タミ・ヤンは暗く笑った。

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