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Tycoon1-呪われた王女は逆ハーよりも魔女討伐に専念したい-  作者: 甘酒ぬぬ
第六章 傷跡

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6-11 轟く怒号

「――こんな野外で何してんのさ!!!!」


 鼓膜を突き破り脳天にまで刺さりそうな怒声によってサヴィトリの思考が中断される。


 それとほぼ同時に、どこからか飛来した何かがべたっとカイラシュの顔面ど真ん中に貼りついた。

 何かの正体はカエルだった。カエルだったころのナーレンダにそっくりな金色のカエル。

 げこ、とひと鳴きすると金色のカエルは破裂した。白い煙がもうもうと舞う。

 爆発をもろに食らったカイラシュは地面に転がり、激しくむせ返る。


「だ、大丈夫?」


 サヴィトリはカイラシュの背中をさすった。先ほどからずっとわけのわからないことばかり起きている。


「君の頭こそ大丈夫か!?」


 服の襟首を強い力で引っ張られ、サヴィトリは派手に尻もちをついた。

 薄々気づいてはいたが、幻聴ではないらしい。

 サヴィトリは塞ぐように両手を耳に当て、ゆっくりと顔を上げる。

 そこには、腕組みをし、怒り以外の何物でもない表情を浮かべたナーレンダの姿かあった。神経質そうに右の人差し指がリズムを刻んでいる。


「ナーレ……」

「まったく、ひとりで突っ走ったと思えば一体何をやっているのさ君は! 君が動くといつも事態がややこしい方向にしか転がらない。いい加減そのことを自覚しなさい、サヴィトリ!」


 ナーレンダはサヴィトリの眼前に指を突きつけて怒鳴った。長くなりそうな予感しかない。


「大体いつもいつもいつも君は考えがなさすぎる! 無鉄砲で無茶苦茶で無頓着で無計画なのも大概にしなさい! まさか前回の熱さが喉元過ぎないうちにまたやらかすとはね。呆れを通り越していっそ尊敬するよ。クリシュナもカイラシュも君のことを甘やかしすぎるからこんなことになったんだ! 毎回都合よく僕がフォローできるわけでもないんだから期待しないでほしいね! ……ああでも別に助けてやらないわけじゃあないけどさ! なるべく被害の少ない方法を考えてから実行しなさいってこと! それとも、君はわざと迷惑をかけて僕を心労でハゲさせたいのか!?」


 よほど常々サヴィトリに対して不満があったのか、ナーレンダは一気にまくしたてる。


「ご、ごめんなさい……」

「何が悪いか本当に理解してるわけ? 僕が止めなきゃどうなってたことか」

「雰囲気に流されてカイとどうこうしてた」

「誰がそんなこと率直に言えって言った!? 簡単に流されたり触らせたりするんじゃあない!」


 サヴィトリは泣きたくなってきた。怒って詰め寄るナーレンダがとにかく怖い。頭に角が生えているように見える。


「……わたくしとサヴィトリ様が野外でどうこうなろうと、あなたには関係のないことじゃありませんかイェル術師長殿」


 ようやく咳が治まったのか、倒れていたカイラシュがゆらりと立ち上がった。サヴィトリとナーレンダとの間に割って入る。ナーレンダに負けず劣らずカイラシュの顔も怒りで引きつっていた。


「今更のこのこいらっしゃいやがったくせに、よくもまぁあんな下劣な両生類を投げつけやがってくださいましたね。この尋常ならざる萎え方をしているのもあれのせいなのでしょう。大口を叩くわりに陰険かつ卑怯なやり方しかできないとは生きていて恥ずかしくないのですか。ああもう何もかもが虚しい!!」


 カイラシュはさっきのカエルの煙をむせるほど吸い込んだせいか様子がおかしいようだ。忌々しげに自分の太もものあたりに拳を打ちつけている。


「ふん、鎮静効果のある煙を吸ったくらいで何を怒っているのさ。ああ、怒るってことはまだ鎮静剤がたりていないのかな?」


 ナーレンダは服の袖口から数匹のカエルを取り出した。何故鎮静剤がカエルの形をしているのか謎だ。意外とあのカエル姿を気に入っていたのかもしれない。


「……サヴィトリ、こっちこっち」


 近くの茂みのあたりからそっと声がかけられる。

 ジェイだ。

 おいでおいでと手招きをしている。

 一触即発のカイラシュとナーレンダを刺激しないよう、サヴィトリは地を這うようにしてジェイの方へと向かう。


「ナーレと二人で来ていたのか」

「んー、本当はもっと早く来る予定だったんだけど、『お前みたいな胡散臭い奴をひとりで行かせられない!』って捕まっちゃって」


 ジェイはへらへらとしたいつもの笑顔で答える。

 

「それにしてもこれって完全に浮気現場に突入した本妻vs浮気相手の修羅場って感じだよね~」


 ジェイは両手の親指を人差し指で長方形を作り、その中にカイラシュとナーレンダの姿を入れ込む。心なしか楽しそうだ。


「私は怒られている間、生きた心地がしなかった」


 サヴィトリはこぼれずに目の端に溜まっていた涙をぬぐう。ナーレンダが怒るのも無理はないし、自分に問題があったこともわかる。それでも不平を漏らさずにはいられなかった。


「あはは、でもナーレンダさんもずるいよね。年齢差を気にしてるんだかなんだか知らないけど、あんなに露骨だっていうのに絶対に認めようとしないんだから」

「ナーレが? 何を?」

「そんなのサヴィトリのことが――」


 間違いなくジェイを封殺するタイミングで燃え盛る青い火球が飛来した。

 ジェイは落ち着いた様子でフライパンの裏で火球を受け止める。打ち返すようにフライパンを振るうと、炎は青い火花をまき散らしはじけて消えた。


「あー、手がー滑ったー!」


 お手本になるくらい完璧な棒読みのナーレンダは視線をカイラシュに向けたまま、炎が灯った左手をジェイのいる方向にかざした。五本すべての指先に炎が渦巻きながら球状に集まり、獣に似た低いうなりをあげて全弾同時に発射する。


「もー、軽々しくフィンガーフレアなんとかみたいな術使うのやめてもらっていいですかー!」


 ジェイは大袈裟に肩をすくめ、煮込み料理のときなどに使う半円形の大鍋をどこからか取り出した。迫りくる五つの炎をすくい上げるようにして大鍋の中に納めると上から蓋をしてあっさり封じてしまう。ジェイは時々異能としか呼びようがない不可解な力を発揮する。


 見慣れすぎていっそ落ち着く三つ巴。普段はジェイの代わりにヴィクラムが参戦していることの方が多いが。


 サヴィトリは三人を放っておいて寝てしまうことにした。

「困ったときは全部放り出して逃げちまえ。いつかきっとなんとかなる」というのが養父かつ師匠であるクリシュナの教えだ。とはいえ、物事から逃げ、先延ばしにしてしまうのは他人に迷惑をかける悪い癖だという自覚もあるにはある。 

 

(ちゃんと全部、自分で責任はとらないとな)


 独断専行してトラブルばかり引き起こしている責任。

 自分の気持ちがわからないことを言い訳にしてうやむやにした責任。

 次期タイクーンとしての責任。


 改めてやらかしてしまっていることの多さにサヴィトリは頭痛を覚える。


(……今は考えるのやめとこ)


 サヴィトリはたき火のはぜる音だけに意識を向け、固くまぶたを閉じた。

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