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Tycoon1-呪われた王女は逆ハーよりも魔女討伐に専念したい-  作者: 甘酒ぬぬ
第五章 棘の砦

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5-12 打ち砕くのは無限の棘

「あらぁ、アタシも女子会に混ぜてほしいわねぇ」


 風が切り裂かれる音がし、薄くなりつつあった煙が完全に晴れてしまった。

 リュミドラの姿が現れる。

 少なく見積もっても十数本は棘を破壊したのにもかかわらず、リュミドラの身体からは、まだ棘が伸びていた。

 煙を大量に吸いこみ呼吸系をやられた緑蜂は、すべて地面に落ち、葉や枝に戻っている。


「どう見てもお前は女子ではないだろう。私とて女子はギリギリアウトだ」

「やぁん、ひどぉい! そういういぢわるなこと言う子にはお仕置きしちゃうんだから!」


 リュミドラが両手を腰――と思わしき場所に当てると、ひときわ太い四本の棘がしなった。鞭のような動きで地面を打ち据え、深くえぐる。あれが人体に直撃すればひとたまりもない。


「ニルニラ――」

「一人で逃げろ、なんて馬鹿きわまりないことを言うつもりなら、海に突き落としてやるのでございます!」


 ニルニラはサヴィトリの言葉をさえぎり、傘で棘の鞭を防いだ。

 どういう素材なのかわからないが、傷ついた気配はない。しかし衝撃自体が大きく、ニルニラは数歩ふらついた。

 四本の棘は間断なく打ち続ける。

 ニルニラは苦痛に顔を歪めたが、決して傘を放すことも、サヴィトリを離すこともしなかった。


「やっぱり女の子は可愛いわね。でも、飽きちゃった」


 突然、攻撃がやんだ。

 サヴィトリの頭の中で痛いほど警鐘が鳴り響く。

 次の瞬間、サヴィトリ達の真下から棘が生えてきた。二人まとめて高く打ちあげられる。


「きゃあああああっ!」

「ニルニラ!」


 サヴィトリはニルニラにむかって手を伸ばす。

 あと少しで届くというところで、二人の間を棘が断ち割った。


 サヴィトリの手に、足に、棘が何重にも巻きつく。両手足を大きく広げ、宙に磔にされたような形になった。

 ニルニラは地面に身体を打ちつけただけですんだが、緑の狼に取り囲まれていた。

 棘と同じように、緑の魔物も無尽蔵に湧いてくる。

 さっきの緑蜂の奇襲といい、魔物の存在をすっかり失念してしまっていた。冷静さが、判断力が、力が、すべてがたりない。


「こんなものっ!」


 サヴィトリは半ば自棄になりながら、右手を拘束していた棘を凍らせた。腕をめちゃくちゃに振るって砕く。

 同じように左手と足の拘束を解こうとしたが、右手を激しい痛みが貫いた。棘が手のひらを貫通し、より強固に巻きつく。

 サヴィトリの額に、びっしりと脂汗が浮かぶ。悲鳴も出ない。荒い呼吸だけが口から漏れる。


 ナーレンダは、ジェイは、ニルニラはどうなっただろう。痛みよりも、何もできない自分の無力さがつらい。


「期待はずれだわぁ、サヴィトリちゃん」


 リュミドラは頬に手を当て、大げさなため息をついた。

 いったい私に何を期待していたのか、教えてほしいものだな。

 サヴィトリはなけなしの体力で減らず口を叩こうとしたが、口を開きかけた瞬間、棘がぞろりと動いた。骨が軋むほどの強さで全身を締めあげる。


「――ぅあああああああああああああっ!!」


 サヴィトリは無理やり悲鳴を絞り出された。

 肩の傷に棘が食いこみ、ただただ熱い。肉体が壊されていく音に、吐き気がする。目から勝手に涙が流れ落ちそうになる。

 サヴィトリは空を仰いだ。涙をこぼさないための、無駄な、だが決死の抵抗だった。


 そう遠くない空が、厚く重い雲に覆われている。雨が降るかもしれない。最期に見るものが、こんな辛気くさいものだなんて冗談じゃない。

 熱い涙が目頭からあふれた。悔しさで流す涙は熱い。

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