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Tycoon1-呪われた王女は逆ハーよりも魔女討伐に専念したい-  作者: 甘酒ぬぬ
第四章 蛇神アイゼン

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4-6 転職のススメ

「――と、まぁ、そういうわけだ村長」


 サヴィトリは努めて明るい口調を心がけた。これ以上重苦しい雰囲気になるのは耐えられない。


「これ以上無闇に事を荒立てるより、国に任せたほうが賢いとは思わないか? みだりに踏み入って欲しくない神域だということもわかるが、ヴァルナもクベラの一部だ。個で抱えきれない問題を自力だけでどうにかしようとするのではなく、国を、タイクーンを頼ってみてはくれないか? そういった時のために、国があるのだから」


 サヴィトリは縄をほどいて村長を抱え起こし、目線を合わせて喋った。

 放心したようにサヴィトリの顔を見つめたあと、村長の目から涙がこぼれた。床にくずおれ、肩を震わせてすすり泣く。


「最初はどうなることかと思ったけど、サヴィトリってばやだイケメン……! 俺惚れちゃいそう」


 ジェイが軽い調子でサヴィトリにウインクを送る。


「少しは上に立つ自覚を持ったか。祝いに一度抱いてやる」


 ヴィクラムはサヴィトリの頭を軽く撫で、さらっとおかしなことを言う。


「どさくさにまぎれて何仰りやがりますかこのドグサレ凡愚ども! 特にそこの赤毛色情狂! 今すぐくたばりやがってください!」


「大人の階段を登る手伝いをしようと思ってな」

「わたくしがサヴィトリ様のお手伝いするので貴様はすっこんでいやがりなさってくださりやがれ!」


「じゃあ、間を取って俺が」


 こそっとジェイが手を挙げて志願する。


『フルメタルジャケットは黙ってろ!』

「ひどい……っていうか俺、真性じゃないんですけど」


「ねえナーレ、フルメタルとか真性って何?」

「……聞かなかったことにしなさい」


 そう言ったナーレンダは、今までに見たことがないくらい真剣な表情をしていた。

 本当に触れてはいけないことのようだ。


 言い争っている三人は放っておき、サヴィトリはニルニラに視線をむけた。

 ちょうど同じタイミングでニルニラは顔を上げ、目が合った。

 ニルニラは気まずそうな顔をし、唇を噛みしめる。


「……言い訳にしか聞こえないと思うのでございますが、生贄があの、そういうことだって知っていたら、こんな依頼受けなかったのでございます」


 サヴィトリには、ニルニラが嘘を言っているようには見えなかった。

 もしこれが助かりたいがための偽りであったなら、逆にすごいとも思う。


「そういうことって?」


 サヴィトリはわざと意地悪く聞き返す。


「そういうことでございます!」


 ニルニラは顔を赤くして怒鳴る。

 こんな幼い反応をする人間が、暴行幇助など進んでするわけがない。


「待ってサヴィトリ。ニルニラが教えてくれたんだよ。サヴィトリがどこに連れていかれたのか」


 ジェイがかばうようにニルニラの前に立った。


「あの時のニルニラ、すっごい真っ青な顔してたよ。大変なことをしちゃったかもしれない、って。縄で縛ったのだって、ニルニラが自分から言い出したことなんだ。逃げないことと、責任を取るための証明だって――」


「ヘタレ! 余計な口出しをするんじゃないのでございます!」


 ニルニラは眉をつり上げ、ジェイを思いっきり足蹴にする。


「せっかくフォローしたのに……」


 ジェイは涙をぬぐいながら退場した。

 誰からも――特にカイラシュからの反論の声があがらないということは、ジェイの言ったことは真実なのだろう。


「ニルニラ」


 サヴィトリは静かに、できるだけ感情を込めない声で名前を呼んだ。

 ニルニラは身体をびくりと震わせ、サヴィトリの顔を見返す。


「とりあえず、イラッとしたことは確かだから、デコピンな」

「は?」


 呆気に取られているニルニラの額を、サヴィトリは思いっきり爪で弾いた。

 衝撃でニルニラの顔が仰向けに反る。


「っ、ぃ~~~~~~~~~っ!」


 ニルニラは痛みをこらえるように歯を食いしばった。

 よほど痛かったのか涙目になってしまっている。


「今回のことはこれで許す」


 サヴィトリは微笑んでみせ、ニルニラの縄をほどいた。

 ニルニラは、わけがわからないとでも言いたげに目をしばたたく。床に落ちていたピンクの日傘を差し出すと、ニルニラはひったくるように受け取った。


「許すって……あんたさんは大馬鹿なのでございます! 全然意味がわかんないのでございます!」


 ニルニラは眉間に皺を寄せ、サヴィトリを怒鳴りつける。


「意味がわからないのはニルニラのほうだろう。お前はあの時、私のことを簡単に殺すことができたはずだ。でもそうしなかった。今だって、金をもらってさっさとどこかに逃げればよかったのに、『罪悪感でいっぱいです』みたいな顔しておとなしく捕まってる。はっきり言うけど、ニルニラには暗殺者とか悪事を働くのにはむいてない。今すぐ転職しろ」


 サヴィトリもつられて大声で言い返す。


「なんであんたさんにそんなこと言われなきゃならないのでございますか! 余計なお世話なのでございます!」

「他人に余計な世話を焼かせるような態度を取るほうが悪い。それとも、お前はさっきの村長のように締めあげられたいのか? 憲兵に突き出されて厳罰に処されたいのか?」

「あんたさんなんかに変な情けをかけられるより、そっちのほうがマシなのでございます!」


「……あっそ」


 サヴィトリは急に声のトーンを落とした。

 ニルニラは一瞬しまったという顔をしたが、もう遅い。


「罰だよ、ニルニラ」


 サヴィトリはニルニラの腕をつかみ、強く自分の方に引き寄せた。


「お前はこれから、私のガイドになるんだ」


「……は?」


 死刑宣告あたりを覚悟していたであろうニルニラは間抜けな声をあげる。


「私はちゃんと覚えているぞ。お前はあの夜、『あんたさんが望むなら、あとでどこでもいくらでも案内してあげるのでございます』と言っていた。だから私にクベラの案内をしろ。胡散くさい仕事なんかやめてガイドになれ。それが私の望むこと、ニルニラに与える罰だ」


「……はぁ!?」


「サヴィトリ様、そのような品性のないニラ女より、案内ならばわたくしが隅から隅まで……」


 カイラシュが会話に割りこんできた。

 もっと早くに口を出してくるかと思ったが、さっき叱責されたのが相当こたえていたのかもしれない。


「カイは黙ってて。もう決めたことだ。二度目は本当に許さないよ」


 間違いなくヘコむだろうなと思いつつ、サヴィトリはカイラシュをにらんだ。

 カイラシュは叱られた仔犬のような顔をし、三歩うしろに退いた。

 ちゃんとフォローしておかないと、後々まで引きずりそうだ。


「良かったね、ニルニラ。就職おめでとう」


 ジェイがにこにこと笑い、ニルニラに拍手を送った。なぜか隣のヴィクラムまで拍手をしている。

 ナーレンダの顔には「どうでもいい」と書いてある。


「改めて、ガイドよろしく、ニルニラ」


 サヴィトリはニルニラの手を握り、大きく上下に振った。

 ニルニラは不機嫌そうな顔をしていたが、「本当に大馬鹿なのでございます」とほんの少しだけ笑ってくれた。

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