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Tycoon1-呪われた王女は逆ハーよりも魔女討伐に専念したい-  作者: 甘酒ぬぬ
第三章 魔物討伐

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3-8 神出鬼没な奴ら

「あの人ってほんと絵に描いたようなツンデレだよねー」


 いきなり真横から声をかけられ、サヴィトリはぎょっとして視線をそちらにむけた。

 隣にはいつの間にかデザートを食べるジェイがいた。カイラシュに負けず劣らず神出鬼没だ。


「これもう食べた? さっぱりしてて美味しいよー。ヨーグルトムースとパイナップルのゼリー。肉料理のあとはパイナップルが良いんだって。消化を助けるとかなんとか」


 ジェイがデザートの入った器を差し出してきた。

 白と黄色、添えられたミントの葉の緑、三色のコントラストが美しい。パイナップルとヨーグルトの甘酸っぱい香りが食欲をかきたてる。


「……次はいよいよ棘の魔女の討伐だね」


 ジェイがそう言ったのと、サヴィトリが誘惑に抗えずゼリーを口に運んだのとほぼ同時だった。

 サヴィトリはスプーンを咥えたままジェイを見る。

 呪いのことで余裕がなかったため、棘の魔女を倒す方法や、そもそも棘の魔女の居場所など、必要な情報が何もない。


「カイラシュさんとナーレンダさんは意図的にサヴィトリからそういう情報を遠ざけてるみたい。ほら、サヴィトリは絶対先陣切っちゃうタイプでしょ? 危険な目に遭ってほしくないんだよ」

「ん? その言い方だとジェイは私に危険な目に遭ってほしいみたいだな」


 サヴィトリはわざと意地悪く笑ってみせた。


「あ、そういうこと言う? せっかく棘の魔女の対策と出現傾向調べたのに」


 ジェイもわざとらしく不機嫌な顔を作る。


「私が呼びかければ湧いて出てきそうだけどな。カイみたいに」

「お呼びですかサヴィトリ様!」

「…………」

「…………」

「…………」


 サヴィトリはなかったことにした。


「確かに、今までの二通の手紙を見る限り、会おうと思えばすぐに会えるんだと思う。理由はわからないけど、やっこさんもサヴィトリに会いたがってるみたいだしね」

「むこう次第、っていうのは腹が立つ上に厄介だな」


 サヴィトリは眉間に皺を寄せ、ムースとゼリーを口の中にかき込んだ。

 今の状況はリュミドラの掌の上で踊らされているようなものだ。なんの意図があってか、サヴィトリの動向を静観しているが、いつ気が変わって叩きつぶしに来るかわらない。


「俺達にとって最高に都合が悪い時か、棘の魔女が最高に楽しめる時に出てくるだろうね。どっちも似たようなもんだけど」


 ジェイは力なく笑い、ため息をこぼした。


「棘の魔女リュミドラって、本当になんなんだろうな」


 スプーンを唇に当て、サヴィトリはぽつりと呟く。

 棘の魔女は、大陸に列強三国が成立した頃から現れ始めたと言われている。どの国にも属さず、ただ魔物を放ち、破壊をおこなうだけの存在。

 いわば人の形をした天災のようなものが、どうして自分にこだわるのか。


「相手のことを理解しちゃダメだよ、サヴィトリ」


 思案にふけるサヴィトリの耳に、ふとジェイの声が突き刺さった。


「敵は敵として見なきゃ。相手の正体を知れば動機や背景が見えてくる。そんなのは刃を鈍らせるだけ」


 色のない表情と声でジェイは言う。自分自身に言い聞かせているようにも見えた。


「……なんて偉そうに言ってみたけど、親父の受け売りね、コレ。俺はそれができなかったから三流以下だったんだよね。この人にも家族や友達、恋人がいたりするんだろうな、とかって色々余計なこと考えちゃう」


 ジェイはいつもどおりへらへらと笑い、必要以上におどけてみせる。


「私の時も、余計なことを考えたのか?」


 意地の悪い質問だと思ったが、サヴィトリは尋ねてみたくなった。

 ジェイは答えづらそうに眉尻を下げ、頬を指でかく。


「……まぁ、考えたよ。もしこのまま殺しちゃったら、俺すっげー泣くだろうなって。でも俺がそんなこと考えてなかったとしても、キレたサヴィトリにぼこぼこにされてたと思うよ」

「私のために泣いてくれるのか、ジェイ。それは少し、見てみたかったな」


 サヴィトリの口元に自然と笑みが浮かぶ。

 ジェイが泣く、というシーンがまったく想像できない。血も涙もない薄情者だと思っているわけではないが、ジェイを思うといつも浮かぶのはへらへら~とした脱力系の笑顔だった。


「もう、どうしてそこを拾うかな。俺しょっちゅうサヴィトリに泣かされてるよ」

「だってあれは嘘泣きだろう。ジェイはいつもニュートラルだ。特別怒ったり悲しんだりしない。少なくとも私は見たことがない。だから、それがどんなものなのか興味がある」


 感情を読み取ってやろうという気負いで、サヴィトリはジェイの瞳を見据える。

 数秒とたたないうちに、ジェイは顔をそらした。視線を遮るようにぱたぱたと手を振る。


「やだなぁ、普通だよ普通、ふつう。それに俺、女の子に五秒以上見つめられると好きになっちゃうからもうダメ」

「面白い、ためそうか」


 サヴィトリはジェイの胸倉をつかみ、無理矢理自分の方に顔をむけさせる。


「どうしてそこで乗り気になるの!?」


「わたくしならサヴィトリ様の熱視線で即昇天です! さあ思う存分見つめてくださいサヴィトリ様!」


「…………」


 カイラシュを昇天(物理)させているうちに、ジェイにはまんまと逃げられてしまった。

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