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Tycoon1-呪われた王女は逆ハーよりも魔女討伐に専念したい-  作者: 甘酒ぬぬ
第三章 魔物討伐

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3-1 正しいダンジョン攻略

 サヴィトリは 宝箱を 開けた。

 なんと やくそうを 見つけた!

 ジェイは やくそうを 手に入れた。


「予想どおり、しけたダンジョンだな」


 サヴィトリは宝箱にむかってため息を吐いた。


「ねえサヴィトリ。色々ツッコミたいんだけどいいかな?」


 やくそうを握りしめたジェイが控えめに手を挙げる。


「どうぞ」


 サヴィトリはやる気なく応え、二重底にでもなっていないかと宝箱をいじくりまわす。


「まずさ、ここはダンジョンじゃなくて魔物がすみついちゃった採掘坑ね。俺達は宝探しに来たんじゃなくて、魔物退治に来たの。これすごく重要。あと村長さんからもらった地図によると、横道に入る必要とか全然ないからね。今俺達ものすごく遠まわりしてるからね。無意味だからね。無駄な労力さいてるからね」


「何を言っているんだジェイ! ダンジョンに入ったら隅から隅まで調べつくし、怪しいボタンやレバーは絶対に触って、罠を仕掛けた先人の叡智を身を持って受け止め、宝箱や落ちている物は甲子園の砂並みのありがたさを感じつつすべて回収。出現モンスターをことごとく打ち滅ぼし、レアドロップまで根こそぎ奪うのが正しい冒険者ライフだろう!」


「……どうしようこの子」


 固くこぶしを握りしめて熱弁するサヴィトリにジェイは冷ややかな視線をむける。


「ジェイ殿もじきにわかる。ダンジョンに挑むというのはこの上なく崇高な行為。かの地に最大限の敬意を払わねばならん」


 更に面倒くさいことにヴィクラムがサヴィトリに同調してきた。


「非常に言いにくいんですけどヴィクラムさん、変なところでサヴィトリに同調しないでください。……っていうか背中に矢刺さってますよ」

「問題ない。急所ははずしてある」

「そもそも背中に傷を負っちゃうのって、剣士として結構な不名誉だったりしません……?」


 ジェイは頭を抱えた。

 その時、額にやくそうが触れ、もう一つのツッコミどころを思い出す。


「そうだ。さっきからさ、サヴィトリがなんか物を見つけるたびに、どうして俺が持つ羽目になってるの?」


 ジェイは採掘坑に入ってから増えた荷物を地面に広げる。

 石ころ×10、やくそう、ひのきのぼう、極彩色のキノコ、返事のないただのしかばねの骨、小さなメダル、蛇のぬけがら――明らかに役に立たない物ばかりだ。


「何を今更。ジェイはこのパーティの道具袋だろう。手に入れた物はきっちり道具袋に入れておくものだ」


 サヴィトリは両手を腰に当て、さも当然とばかりに言い放つ。


「今まで地味で空気で平凡でまるで存在感がありませんでしたが道具袋というすばらしいアイデンティティを得ることができて良かったですねおめでとうございます」

「道具袋も重要な任務だ。心して励むといい」


 清々しく白々しい笑顔を浮かべたカイラシュとヴィクラムがジェイの肩を叩く。


「ああわかった、俺の味方なんていないわけね……」


 とめどなくあふれる涙をぬぐいながら、ジェイは地面に広げた道具を片付けた。


「それにしても、採掘坑というわりに原石のかけらすら落ちていないな。禍々しい魔物を呼び寄せたり、LPがりがり削るくらい人体に悪影響のある、いかにも怪しい魔石とかありそうなのに」


 サヴィトリはむくれて、さっき手に入れたひのきのぼうを振りまわした。


「危ないからやめなさい。まったく、君は落ち着きがないんだから。おそらく、鉱石がないのは件の棘の魔女の魔物のせいだろう。鉱石を食べるって話だったし」


 ヴィクラムの肩に乗っていたナーレンダが呆れたようにサヴィトリを諌めた。

 一行の中でジェイとナーレンダしかサヴィトリの蛮行を抑える人間はいない。カイラシュは基本的にサヴィトリに服従。ヴィクラムは意外と思考回路が似通っているのか、サヴィトリの行動を擁護することが多い。


「ふーん。そんなことよりナーレ」


 サヴィトリはナーレンダをつまみあげた。自分の目線の高さまで持っていく。


「そんなことって、君ねえ、人の話を――」

「一つお願いがあるんだけど、いいかな?」


 サヴィトリは真剣な表情でナーレンダを見つめた。


「な、何さ?」


 ナーレンダは露骨にたじろぐ。


「ちょっと殴っていい?」

「馬鹿か君は!」

「いや、普通に殴るんじゃなくて、特別な呼吸法によって物理エネルギーを透過させて生体越しに岩だけを砕くという――」

「君また異世界通信系の妙な本に影響されただろ!」


 恋する乙女さながらにサヴィトリは頬をぽっと赤く染め、どこからともなく一冊の本を取り出した。とあるページを開き、いそいそとナーレンダに見せつける。そこには拳を叩きつけられたカエルの絵が描かれていた。なんとも形容しがたい擬音が添えられている。


「その時、僕は心で理解できた。猫でも鳥でもマスコット的な小動物でもなく、なぜカエル姿にされたのかってことを」


 ナーレンダは何かに憑りつかれたかのように、説明口調で心情を吐き出した。


「大丈夫大丈夫。こんな平凡なダンジョンで人が死ぬなんて話は聞いたことがないから多分おそらくきっと大丈夫。いくぞ、ナーレ!」


 サヴィトリはサーブを打つようにナーレンダを真上に高く放り投げ、呼吸を整える。


「馬鹿っ、誰が許可した!! っていうか色々間違ってるだろ、色々!」


 ナーレンダは必死にわめく。それ以外にできることはなかった。

 このままではサヴィトリに殴られてぺしゃんこになるか、地面に落下してぺしゃんこになるかの二択だ。


 サヴィトリは肺の中から1ccも残さず空気を絞り出し、ナーレンダの落下のタイミングに合わせて拳を出せるように構える。


「サヴィトリ様! そんな両生類ではなくわたくしと肉体言語で愛をた――」


「あ」


 急に拳は止められない。

 サヴィトリは無言で、物理エネルギーを透過できなかったカイラシュをからっぽの宝箱の中に収めた。


「……こんな所で遊んでいる場合じゃないな。先を急ごう」


 きりっと表情をひきしめ、サヴィトリは採掘坑の深部へと足を進めた。

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