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プロローグ 悪夢・棘の魔女

 空を見るかぎり、その日はただの平凡な昼下がりだった。

 風に吹かれるまま雲はやる気なく泳ぎ、頂点からほんの少しはずれた場所にいる太陽は出力をやや落として大地の隅々を照らしている。大地とその地に住むものの事情など関係なしに。


 無残という一言で片付けるには、あまりにもそこは壊されすぎていた。


 石畳で舗装された大路は、地面から生えた無数の(いばら)によって砕かれめくり上げられ、褐色の土を露出させていた。横倒しにされた街路樹や、避難する際に誰かが忘れていった靴や荷物が悲壮感に拍車をかける。


 建物には棘が幾重も複雑に絡みつき、有機的なオブジェへと変貌させていた。何かを吸いあげるように規則的に脈打つ棘は、見る者に生理的嫌悪感を催させる。


 町の中心部に近付くにつれ、負傷した者や大量の血にまみれた者、棘に刺し抜かれ絶命した者の姿が増えていく。


 間違いなく、禍根はこの先にあった。


 普段は露店や屋台などで活気に満ちていたであろう広場は、今はうごめく棘に支配されていた。遠目には緑の絨毯が敷かれているように見えるほど棘は無秩序に伸び、その場にいるすべてのものの動きを封じている。


「期待はずれだわぁ、サヴィトリちゃん」


 広場の中心に圧倒的な質量をもって存在する、棘をまとい自在に操る魔女は、大きくため息をつく。

 魔女の正面には、宙に(はりつけ)にされたかのように棘で四肢をつながれた者の姿があった。

 少女でもなく女性でもない、形容する言葉の存在しない年頃の娘。

 棘につながれた娘が反論しようと口を開きかけた瞬間、締めあげるように棘が動いた。身体のあらゆる所に負った傷口から、新たな鮮血があふれ出す。


 サヴィトリが紡ぐことができたのは、ただの絶叫だけだった。

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