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夕暮れ

「ふむ……店主、俺の体格だと、どれが一番扱い易いと思う?」

カグラは魔導学校の教師達としばらく雑談した後、武器屋に来ていた。商業が盛んな街なだけあって、この手の店も品揃えがいいのである。この武器屋は街頭に商品を並べるのでなく、借家の一階をまるごと武器屋にしている高級店である。

「あんたみたいなデカい人だと……そうだねえ、この槍なんてどうだい?」

店主は2メートル以上はある槍を指指した。しかしカグラは剣以外の得物はからきしなので、

「すまない。剣ならどれがいいと思う?」

「はあ、剣ですか。ちょっとお客さんの奴を見せて貰っていいですかね」

「ああ」

カグラは背中に携えた長剣をゆっくりと抜いて店主に渡した。ところどころ傷付いてはいるものの、まだまだ斬れ味は衰えていない逸品である。

「これは凄い! ウチでもこんなに凄い剣は扱ってないよ。槍や斧なら、一級品もあるんだがねえ」

店主は剣を口惜しそうに返した。

「……そうか。失礼したぜ」

「ああお客さん。もし良ければ、どこの店で手に入れたか教えてもらえないかね?」

「これは恩師から受け取った物だ。魔導学校を卒業した記念に……その人は鍛冶屋じゃないから、これもどこかで作られたものだろうが……元は分からない」

「なるほど、そうですか。ありがとうございました」

カグラとしては、この逸品はなるべく使いたくなかったのだ。もちろん性能が良い事は分かっているし、使い慣れているから、手放したくはない。だがそれだけ、何かの拍子に折れたり、紛失してしまうのが嫌なのだった。それだけ、この剣への思い入れは深い。術式を剣に刻む事自体は難しくないので手頃な剣が有れば買い換えようと思っていたのだが、そうはいかなかったのであった。

「まあ、仕方ねえな…………ん? おい、ナックス!」

武器屋を出て再び魔導協会へ向かおうとしていたカグラは、何故か酒屋の前でナックスを見かけた。慌てて駆け寄り、話を聞く。

「おい、大丈夫か! おい!」

「ん~~、なんだ、カグラか……まだ、飯……」

「呆れた奴だ、まだ夕方だぞ。……そういえば、ルミナリエはどうした」

「ルミナリエ? 先に宿に向かうってよー」

これはルミナリエが呆れて帰ったな……とカグラは瞬時に理解した。

「おいおい、大丈夫か? 急ぐぞ、道に迷っているかもしれん」

カグラはナックスを半ば引きずりつつ、あらかじめ部屋を取っていた宿へ急いだ。しかし、自分たちの部屋にルミナリエの姿はなかった。カグラはすぐに受付で話を聞いたが、ルミナリエは戻って来ていないという。

「まずいな……もう夜になる。急いで探さねえとまずい。おい、ナックス!」

「なんだよ、うるっせえな~……なんだってんだよさっきから」

余程酒を飲んだのか、ナックスは意識がはっきりとしていなかった。ナックスは元から酒に強い方でもないので、多量に飲むとすぐにこれである。

「ルミナリエが居ねえんだ! 探すんだよ!」

仕方なしと、カグラはナックスの耳元で叫んだ。そのおかげで、やっとナックスに言葉が届いた。瞬間、クィーネに聞いた話がフラッシュバックし、事の重大さを朦朧とした意識の中でナックスは理解する。なんとか立ち上がり、魔導を使おうとする。

「ッ……あくす、あくせう……」

「ああ、もういい。俺が探してくるから待ってろ!」

飛び出そうとするカグラをナックスは力を振り絞って引き止め、

「アクセル……キュア……」

と自身に魔導をかけた。酔いを醒ます目的だったが、即時に治る訳ではないのでまだしばらくは酔ったままである。

「つ、連れてけ……場所は指示するから」

「場所? どこに居るか分かるのか!?」

「嗅覚を強化した、から……ルミナリエの匂いで辿れる、はずだ」

「はず? まあいい、行くぞ。背負ってやるから掴まれ」

カグラは同じ体格のナックスを背負い、それをものともしな速さで走り出した。ナックスは強烈な吐き気を催したが、それを何とか抑えて指示を出す。自身の酒臭さが酷く匂いの判別には少し手間取ったが、少しして酔いも引いてきので、本来の思考を取り戻すことが出来た。

「そうだ、そこを左……もうすぐそこ……だ……」

「はあっ、はぁっ、どうした、ナックス? 大丈夫か?」

「なんだか……生臭くねえか? 獣みたいな臭いがしてたまらねえんだ」

まさか、ルミナリエが……と考えざるを得なかった。ここは町の郊外で、十分にその可能性があった。陽は既に沈んでおり、灯りも少ない。

「! そこの細い道だ! 急いでくれ!」

「よし……っつっても、見えねえな……火篭(ライトフレイム)!」

カグラはナックスを下ろし、右手から小さいが明るい火の玉を出した。それは右手の少し上でぴたりと止まり、灯りの役割を果たしている。

「は、早く照らしてくれ!」

「言われなくても……!?」

細い道へ入り、カグラが道の奥を照したが、何者かの影しか確認できない。最奥部には、まだ何があるか分からなかった。

「な……これは……」

「ルミナリエ!」

ナックスはカグラを押しのけて道の奥へと進んだ。酷く嫌な臭いがしていた。壁には、ところどころ何かの血が付いている。

そして奥へ進んだナックスが目にした物は__。

「ぁ……な、……何でだ……?」

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