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門出

翌日。カグラは、明朝早く起きて散歩に出ていた。そしてそこでまた、出会いたくない相手と出会ってしまう。腐れ縁と形容するより他無かった。

「……朝早いじゃねえか、カグラ」

あの二人組である。そのまま無視して立ち去ろうとするも、道を塞がれてしまった。降り返って来た道を戻ろうとするも、

「まあ、待ってくれや。昨日はちょっと酔っててさ。悪いことしたと思ってるよ」

意外な言葉に、カグラは先を急ごうとする足を止めた。

「ちょっと、俺たちの家で飲まねえか。昔の仲間も沢山居るぜ」

「……勝手にしろ」

何かあるのかもしれない。そう思ったカグラだったが、本当に改心した可能性に賭け、二人組の後へ続くのだった。

「メシアさま。そろそろ出発しましょう」

ナックスたちは宿の食堂で遅め朝食をとり、いよいよ出発しようとしていた。

「ああ。その前にカグラにあいさつしたかったんだけど……朝から居ないみたいだしな」

「ちょっと寝すぎちゃいましたね。メシアさまが昨日あんなに騒ぐから……ふあぁ」

「まあ、居ない奴は仕方ねえか……行こうぜ」

カグラの両親に例を言い、ナックスたちは宿を出た。ナックスは少し残念だった。あれだけ気の合う奴に出会ったのは久しぶりだったのになあ……。

「もうそろそろ帰るぞ」

あれからもう二時間程、カグラは飲み食いしていた。二人組の言ったことは本当で、カグラの旧友がそこには何人も居たのだった。カグラが戻って来た事を聞きつけた者が何人か居て、そこから芋づる式に話が広がり、最終的に軽いパーティを開くことになったのだ。

「そうか。そこまで送ってくぜ」

またあの二人組だったが、カグラにもう抵抗はなかった。先の場では積極的に話を振ってくれたり、飲み物を注いでくれたりもしたのだった。カグラはすっかり、この二人は改心したのだと思っていた、だが……。

「ここまででいいぜ」

「お前、これからどうするんだ?」

「この町でまた暮らすのか?」

「いや、また旅に……ッ」

その時、カグラは頭に激しい痛みを覚えた。暴力による痛みではない。直後、膝から崩れ落ちてしまう。

「行けるといいなあ、気楽な旅に」

二人組に蹴飛ばされ、カグラは道の隅まで転がっていく。まるで抵抗できなかった。なぜか? カグラにはすぐに分かった。

「キノコから作った毒だよ。死ぬような物じゃないが、一日は動けない」

「その間で、どれだけ痛めつけられるか楽しみだぜ」

……俺もまだまだ、未熟者だな。カグラはなす術もなく目を瞑り、痛みを待った。

だが、それはいつまで経っても来なかった。

何かが殴られている音はする。カグラは触覚が麻痺しているのかと思った。しかし、目を開けた瞬間、その推測は打ち砕かれた。

「あ、あああっ! な、何故お前が……!」

「やっぱ、出発する前にあいさつしとかなきゃ気が済まなくてよ。で探してみたら、お前らが居たってワケだ」

ナックスがそこに居た。二人組の内の一人は、もうゴミ溜めの中に沈んでいる。もう一人も恐怖で動けそうにない。

「てめえらみたいな本当のクズは……痛い目見なきゃ分かんねえみたいだな」

ナックスが拳を構え、そのもう一人もゴミ溜めへと殴り飛ばした。


喰らったらタダじゃ済まねえな。やはり昨日はあそこで止めて正解だった。


そんな事を考えつつ、カグラは意識を落とした。

「カグラ! しっかりしろ! ……っ!」

原因が暴行による物ではないと理解したナックスは両手をカグラの胸へかざし、魔導を唱えた。

「『治癒加速(アクセル・キュア)』!」

「っ、ここは……?」

「あ! メシアさま! カグラさんが目を覚ましました!」

その後カグラはナックスによって自宅まで運ばれ、寝かされていた。

「結構なやられ方してたが、大丈夫か?」

「もうなんともねえよ。……俺は、何時間寝てた?」

「えっと、三時間くらいでしょうか?」

外はもう、陽が真上に登る時だった。

「三時間? 一日は動けないと聞いたが……」

カグラはゆっくりと立ち上がった。どこにも痛みはない。

「メシアさまが回復を早めてくれたんですよ。魔導を使って!」

「他人に使うのは得意じゃないんだが、なんとか上手くいったみたいで良かったよ」

ナックスの「治癒加速」は、対象の自己治癒力を文字通り「加速」させる魔導である。自身に使用した方が効果は高い。

カグラ自身の身体が強い事とこの魔導とが重なり、本来一日のところを三時間で回復させたのだ。

「……悪いな、また助けられちまった」

「気にすんなって! 仲間じゃねえか!」

ナックスは笑顔でそう言った。

「仲間か……」

カグラが自分の夢を理解してくれる「仲間」を持ったのは、これが初めてのことだった。

「じゃ、俺たちはそろそろ行くぜ。またどっか会ったら__」

「待て。俺もその旅、付いてっていいか?」

「なに!?」

「元より、この町に居残るつもりは無かったしな。一人旅よりも、お前みたいな奴と旅した方がいい時間を過ごせそうだ」

「そうか! 俺は大歓迎だけど、ルミナリエはいいか?」

「ええ、もちろんです。私はメシアさまに着いて行くだけですから」

ルミナリエはナックスの気分屋なところが玉に瑕だと思っていたので、カグラのようにしっかりした人物が居れば安心出来る、と少し嬉しかった。

「よし、決まりだ! 改めてよろしくな、カグラ」

「こっちこそ頼むぜ、ナックス」

二人は再び、固い握手を交わした。

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