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炎の剣士

「ああ、やっぱりお前も魔導士だったか」

「おう。第五序列『使い手(マスター)』の位、ナックスだ。よろしくな」

二人は、町を少し出た場所にある河原に来ていた。特に理由があった訳でないが、足が自然とそこへ向かっていたのだ。

「へえ、偶然だな。俺も第五序列の魔導士だよ。カグラ・フェルスウッドってんだ」

よろしく、とナックスは右手を差し出した。カグラも喜んで左手を差し出し、二人は握手した。

「なんであんな奴らに絡まれてんだよ?」

「なに、大した事じゃないんだがな」

すると、カグラは照れ臭そうに頭をかいた。身体つきからは想像できない動作に、ナックスは思わず苦笑いしてしまう。

「ガキの頃からの夢があってな。まあこんな夢は……笑われて当然、かもしれないけどよ」

「なんだ、気になるじゃん。話してくれよ」

カグラは立ち上がってこう言った。

「魔導士第一序列『賢者(ヴァイゼ)』になりたいんだ。……ガキん時はそれでイジめられていたんだけどな。それが、今でも続いてるだけだ。あの二人は今でもガキ大将なんだよ」

ナックスは心底驚いて立ち上がり、カグラの肩に手を置いた。まさか、こんなところで偶然会った男が、自身と同じ夢を持っているとは。

「……やっぱ変だろ?」

「いや、そんな事ねえよ! 俺だって同じだ! 魔導士になった以上、賢者は誰だって夢見るさ!」

カグラは目を見開いた。……同じ序列の魔導士が、自分と同じ夢を持っている。魔導士になって日は短いが、こんな事は今までなかった。

「そうか……気が合うじゃねえか、ナックス」

「はははは! 俺だって驚いてるさ。……いや、でも賢者になれるのは一人だけだからな……」

「敵同士、ってワケか?」

自然と、ナックスとカグラの距離が離れた。そして互いに、間合いから外れた所で止まる。

「俺は実践経験が少ない。同じ階級同士、手合わせしてみたいが……いいか? ナックス」

「ああ、いいぜ。かかってこい!」

カグラは背中の剣を抜き、間合いを測った。背中に背負っていた剣は、カグラの体格に合った細身の長剣。対するナックスも、グローブをはめた拳を構える。


二歩で太刀筋に入れるが、拳でカウンターが来る可能性が高い。どう仕掛けるか……。


カグラが判断を決めかねている内に、ナックスが先制攻撃を仕掛けた。脚部の魔力強化による、瞬時の移動。拳は既に、カグラの腹部目掛けて動いていた。

肉体鋼化(アダマン・アーマー)!」

「……ッッ!」

辛うじて、カグラは剣でそれを受け流す事に成功した。そこでカグラが感じた違和感。拳と剣が触れ合った時の音がおかしい。それはあまりに鋭く、金属同士のそれを連想させた。多種多様な魔導の知識を持つカグラは、近しいと思われる魔導をすぐさま見つけ出した。


皮膚の硬化……! 素早い移動も含めて言えば、肉体強化系か?


「皮膚が硬いなら、手加減なしで斬りかかれるってもんだ!」

カグラは素早く体制を立て直し、ナックスの左肩へと剣を振るった。鋭い音がして、ナックスの左腕と刃がぶつかり合う。

「一瞬で硬化に気付いたか。でも……気付いたところでどうにもならないぞ!」

ナックスはそのまま剣を跳ね返し、カグラの足を払った。しかしカグラは地面に剣を刺して転倒を回避、そのまま剣を軸にして回し蹴りをナックスへ叩き込んだ。ナックスはガードするも、わずかに後退する。

さすがに、強い……! お互いが強さを認め合った瞬間だった。

「なるほど、体術は互角みたいだな。なら、これならどうだ!」

カグラは再び剣を振りかざし、大きな縦斬りをナックスへ仕掛けた。しかし大振りなそれは、ナックスにいとも容易く白刃取りされてしまう。

が、ナックスは安心していなかった。何かある。そう思った次の瞬間、

火剣(レッド・エンチャント)……」

瞬間剣が輝いて、剣全体が灼熱の炎を帯びた。

「あ、熱ッッ!」

ナックスはたまらず剣を手放し、後退した。

「分かったと思うが、俺は炎を専門に扱う。ナメてかかると痛い目見るぜ」

「十分見たっての」

そう言いながらナックスは次の一撃を警戒したが、意外にもカグラは剣を納めた。警戒を解いて、再び両者は近づく。

「もう終わりか?」

「まあ、これ以上は無傷で終われないからな。それにナックス。お前、連れを待たせてるだろ?」

「……しまった! ルミナリエ!」

カグラは慌てて駆け出していくナックスを引き止めた。

「おい、ちょっと待て。宿は決めたか?」

「宿? いや……まだここに泊まるとも決めてなかったな」

「なら、親の家に泊まっていけ。両親は宿をやってるから、タダで入れてやるよ」

「本当か!? すまねえな。場所はどこだ?」

「急いで案内するから、付いてこい」

「メシアさま、遅い!」

ルミナリエは初めて、ナックスに怒りをぶつけた。しかしそれも当然かもしれない。ナックスが酒場を出てから一時間近くが経過していたのだ。

「ああ、悪い悪い。出ようか。マスター、金置いとくぜ。

「毎度」

酒場を出た二人は、明日からの食料を調達しに市場へ向かった。

「……何をされてたんですか? メシアさま。やけに遅かったですけど」

本人は気づいていないが、ルミナリエは若干嫉妬していた。

「そう膨れるなよ。ちょっと話してただけだって。あと、あいつの家が宿やってるらしいから、今日はそこに泊まるぞ。タダで」

「おお、それは良かったです。お金の消費も少なくて済みますね」

「金なら大丈夫だって。ほんといっぱい貰ったから」

そういいながら、ナックスは大量のパンと野菜を購入した。これだけの量は、荷物入れに入りそうもない。

「そんなに買ってどうするんですか……」

「いいんだよ、今食うから。運動したから腹減ったし」

メシアさまのお腹はどれだけ広いのでしょうか……、ルミナリエはそう思いながら衣服の換えを一着、なけなしのお金で購入した。春の涼しい気候に合った、袖の短い青色の服。今までは茶色の簡素なものしか着たことが無かったので、ルミナリエにとってはとても嬉しい買い物だった。

そして食料についてはもう気をつけても仕方がないので、ナックスに任せることにした。

「よし、これだけ買えばしばらく大丈夫だな。早いけど宿に行こうぜ。疲れも溜まってるだろ?」

「そうですね……お風呂にも入りたいです」

ナックスはパンをかじりながら、ルミナリエは新しい服を楽しみにしながら、カグラの親が経営する宿へと向かった。

「カグラさんも魔導士だったんですか!?」

夕刻。ナックスとルミナリエはカグラに夕食を誘われ、カグラの部屋で夕食をとっていた。部屋には沢山の歴史書や魔導関連の教本が置いてある。

「そうそう。んで、ちょっとだけ戦った。本気でやっても勝てるかどうかってところだなー」

「お互い戦い方を見せただけだ。判断は出来ない」

「す、凄い……」

「世界は広い」という言葉をルミナリエは改めて実感した。


メシアさまと同じぐらい強い人が居るなんて……!


「にしても、カグラ。そんな格好してるもんだから、俺はてっきりお前も旅の途中かと思ってたぞ」

「……俺が魔導士になったのはつい最近の事だ。一ヶ月前にあった試験でな。それを両親に報告しに戻ってきたところなんだよ。実際ほんの少し前までは旅人だ」

「なんだ、そうだったのか。じゃあ俺の方が先輩だな」

「同い年に先輩も何も無いだろが。第一、同じ序列だ。……ところで、そっちの娘」

「はゅ、はい! 私ですか!?」

ルミナリエは人当たりこそ良いが、初対面相手だと少し緊張してしまう。今も、若干噛んだことに猛烈な恥ずかしさを感じて顔が真っ赤になっている程だ。

「お前はなんで、ナックスと旅してんだよ?」

「え、えっとですね。私の町が実は__」

「ルミナリエ、落ち着け。そこから話すと話がややこしくなる」

「いいって。話してくれ」

優しくなだめてくれるカグラに対し、ルミナリエは段々と平静を取り戻していった。昼間は口調といい喧嘩早い人なのかと思っていたので、実物とのギャップにルミナリエは少し笑みをこぼしながら話をした。

「……というわけ、です」

「はい、拍手~!」

途中から酒が入ってしまい、ナックスはすっかり上機嫌である。

「ちょっと! やめてくださいメシアさまっ!」

「へえ……お前が救世主(メシア)とはな」

「いや、何回も止めろって言ってるんだぜ? それをこいつが聞かないからさ__」

その日の夜は、あっという間に過ぎていった。

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