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旅の始まり

次回更新は明日です。

「そ、んな……」

「ふん、他愛もない」

しかし土煙が取り払われた時__ナックスの姿は、先と変わらぬままそこにあった。

「……肉体鋼質(アダマン・アーマー)

「な、なにっ! 馬鹿な! 何故!? 魔導を使うにしても、術式が無いじゃないか!」

「てめえのような三流には一生無理だろうが、この程度の術式なんざ、頭で構築出来ちまうんだよ」

「ば、馬鹿な……脳内で術式を構築……そして魔導を発揮した……!? これが、本物の魔導士の力なのか……!? くっ、まだだ!」

ヴィレントは素早く魔導書のページを捲り、自分が使える中で最大の魔導を、魔力結晶を用いて最大の威力で打ち出した。

土龍(ランド・ドラゴン)!」

地面から、龍の頭の形をした巨大な土が精製され、ナックス目掛け真っ直ぐ突っ込んでいく。龍は口を開いている。ナックスの身長は1.8メートル程だが、それを丸呑みしてしまえる程、龍の口は大きかった。

「め、メシアさま! 避けて!」

が、ナックスはルミナリエの前から動かない。それどころか、逆にあの龍を迎え撃つ気で構えた。

「はっ、馬鹿な奴よ。呑まれて死ぬがよい!」

そのまま、土の龍がナックスを飲みこもうとしたその時。

鉄撃粉身(アイアン・チャージング)ッ!」

あろうことか、ナックスは拳で狙いを付け、地面を蹴り出して自ら龍の中へ飛び込んだ。そしてその一瞬、刹那の出来事。

龍は音を立てて崩れた。龍の身を貫いたナックスは、ヴィレントの前で停止する。ルミナリエもヴィレントも、何が起きたのか分からない。

その突撃の実態は、あまりにも速く己の身を省みない攻撃だった。

自分の身体を硬質化させる「肉体硬質」、それを使用した状態での、いわば矢の様な突進。卓越した術式理解により無詠唱で身体を強化できるナックスは、今も、先の跳躍の際にも魔力で脚を強化していたのだった。そのスピードから放たれた「矢」が、土の龍を容易に砕いたのだ。

「わ、私の土龍を破っただと……それも、己の肉体で……」

「舐めんなよ、俺は将来__」

ナックスが再び構えた。ヴィレントは咄嗟に防御姿勢をとろうとしたが、間に合わない。

「魔導士第一序列を獲って、魔導士の頂点に立つ男だ!」

魔導により鉄のような硬さとなったナックスの拳が、ヴィレントの腹へねじ込まれた__。

「とりあえず、ヴィレントとそいつに協力してた奴らは全員閉じ込めといた。魔導協会に連絡しとくから、じきここも平和になるだろうぜ」

あれから数時間後、ナックスはルミナリエの家で遅めの昼食を済ませ、再び旅立とうとしていた。

「そう、ですね……メシアさまには、感謝してしきれません」

ルミナリエは、感謝と安心からか、初めて嬉しさの涙を浮かべた。

「だーから泣くなって。大したことやってねえから」

「……これからどうされるんですか?」

「ん、そうだなあ、もとから昇級試験のための修行旅だし、とりあえずこいつらの仲間ぶっ倒しに行くかな」

「こいつって。ヴィレントの事ですか?」

「ああ。昨日酒場で聞いたけど、こいつみたいな魔導士騙りが増えてるらしいしな。そいつらをぶっ倒しながら修行して、昇級試験に備えるよ」

魔導協会の定める序列は一番下が第十序列であるので、ナックスは既に魔導士として上位と言っていい階級にある。だが、ナックスはそれで満足しない。最高位であり、ただ一人しか存在を許されない第一序列「賢者(ヴァイゼ)」をナックスは目指しているのだ。

「……ヴィレントの仲間が居たら、母の形見も見つかるでしょうか」

「……分かんねえ。ごめんな、ペンダント。もう売り飛ばされちまった後で。結局、親御さんの形見は取り戻せなかった」

ナックスはこれまでにも悪党を倒した事はあるが、今回はいささか後味が悪いな、と感じていた。

ルミナリエは涙を拭って、真剣な眼でナックスを見つめた。

「メシアさま、お願いがあります」

ナックスは少し嫌な予感がした。このあどけない少女が次に何を言うか、もう分かっていたのだ。

「ペンダント……私の産みの親が残してくれた物なんです。それに育ての母が願うことを教えてくれた、私の一番の宝物なんです。だから……」

ルミナリエがその先を言う前に、ナックスは背を向けた。ルミナリエは、やっぱりダメなんだ、と俯いて、また涙を溜める。しかしナックスが次に放った一言は、ルミナリエにとって予想外のものだった。

「そろそろ行くぞ? 支度しろよ」

「え!? あ、私、もですか?」

ルミナリエは、驚いてしまって開いた口が塞がらない。

「ペンダント見つけんだろ? 行こうぜ、この町が元に戻るまでの旅行みたいなもんだ」

ナックスは正直、普通の少女を連れて旅する事が不安だった。しかし一度「助けよう」と思った以上、この少女のペンダントを取り戻すまではこの少女に付き合うことにしたのだった。

「は、はい! すぐに支度します!」

なんていい人なんだろう、そうルミナリエは思った。感謝の気持ちでいっぱいだった。いつかこの人に、恩を返せるだろうか。それは分からない。だが……。

この人について行けばきっと私は成長できる。この町に戻ってきたそのとき、私でも町の人の役に立てるかもしれない。

「よっし、とりあえずは魔導協会のある、キール・ウェストの町まで行くぞ!」



こうして、ナックスとルミナリエの二人はペンダントを追って「魔導士騙り」を探す旅に出たのだった。

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