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第2話

 神楽に取り残されて一人所在なさげにしていると、見覚えのある赤髪が水色の少女を連れてこちらに近づいてくるのが見えた。彼女が神楽の言ってた人なのだろう。

「ごめんごめん! ようやく見つけたよ」

「お帰り、神楽。その子は?」

「あ、これあたしの連れ。瑞香みずか 凛」

 そう言って神楽は凛の背中を押す。

 外見は、やはり鮮やかな水色の髪が印象的だ。緩やかなウェーブのかかった髪を背中に流している。顔は整っているが、一歩引いた態度と表情から控えめな印象を受ける。が……

(な、なんとグラマーな……)

 体型は全く控えめではなかった。

 十二歳……中学一年とは思えないほど起伏に富んだ体に思わず殺意を覚える。

「え、ええと……凛です。よろしくお願いします」

「あ、うん。私は黒羽沙雪。よろしく」

 が、先に頭を下げられてなんとなく悪感情は消え去ってしまった。

「全員そろったし、歩きながら自己紹介でもしとく?」

「あ、そうしようか」

 そろったと言っても一人は今日初めて会った相手なわけだが……細かいことは気にしない。

 校舎に向かって歩を進めながら三人は自己紹介を始める。

「えっと、じゃあ私から。黒羽沙雪です。うーん……得意なのは無属性魔法で、正直属性魔法は全然ダメ。ここには筆記試験の成績で辛くも合格した感じかな」

 自嘲気味に笑って言葉を切る。

 得意な魔法を教えるのは魔法師同士の挨拶の流儀だ。それは自らの弱点を伝えることでもあり、信頼の証として始まったらしい。得意な系統の魔法を教えたところで細分化されている現在は大した対策は取れない上に得意属性など見た目で分かるが、すでに形式化されているために魔法師同士の挨拶として定着している。

「学校の試験は属性魔法だけだもんね。無属性には辛いよねー」

「本当だよ。無属性も試験してくれたらいいのに」

 とはいえ、無属性の魔法は系統として分類できないためにかなりの種類が存在する。というか、すべての無属性魔法が独立していると言っても過言ではなく、試験するにもどうしようもないというのが現状である。さらに使い手が希少であるため、試験方法が確立できていないのだ。

「さて、じゃ、あたしね。鈴音神楽、得意魔法は見ての通り火属性。特に中距離ミドルレンジでの攻撃魔法と支配系統が得意かな。でも、火属性以外はほとんど使えなくて……。そのせいで正規を落ちました」

 つまりは火属性のスペシャリスト、と言うわけだ。それはそれで素晴らしいことだが、万能型を求める日本の試験制度に合わなかったのだろう。

「はい、次は凛だよ~」

「え、あ、うん……。私は水属性が得意です。でも、攻撃系の魔法はあまり……。付与エンチャントや結界のほうが得意。でも神楽と同じで水以外は苦手です」

「へえ、正反対だね」

「あ……はい、そうですね」

「ちなみに凛の口調はこれが素だから言っても直らないよ。あたしにだって敬語だもん」

「う……。でも、この方が話しやすいんだからいいんですよ」

「悪いなんて言ってないって」

「そう聞こえるじゃないですか」

 ぷう、と頬を膨らませる凛。名前とのギャップが可愛くて癒される。

「こういうの見るとつつきたくなるよねー」

「あ、だよね!」

 神楽と沙雪が顔を見合わせて笑い、両側から頬をつつく。変な音を立てて空気が抜け、凛は涙目で再度頬を膨らませた。

「もうっ」

「「えいっ」」

「はにゃっ」

 膨らませるからつつかれる。それはこの世の真理である。

 つつかれ続ける凛がそれを理解したのは、すでに十回以上遊ばれた後だった。

「……もう」

「「あはは、ごめんごめん」」

 右にそっぽを向けば神楽が、左に向けば沙雪が。結局凛は赤くなって俯いてしまった。愉快な子だ。



 校舎の中は、白く輝いていた。

 ……誇張でも何でもなく、それくらいきれいで汚れが見当たらない。

「うわ、すっご……」

「んー……これはこれは」

 唖然とする神楽をよそに壁に手をあてる沙雪。そこ魔力を集中して無属性魔法の一つ《解析》を使用する。読み取った情報が沙雪の脳裏に刻まれる。

「《硬化》と《洗浄》の魔法式が刻まれてるね。永続発動用に手が加えられてるけど」

 開設する沙雪の声には賞賛の響きが込められている。さすがは魔法学校、たかが廊下にも魔法が使われている。しかもそのレベルが無駄に高い。永続発動は高等科の、その方向の専門課程で習う高度な魔法式だ。普通は魔力による発電機や高速演算機など、大型機械のシステムに使用されるものである。

「それをさらっと解析しちゃう沙雪って何者?」

 が、その分解析するのも難易度が高い。というか《解析》の魔法式自体、無属性魔法のなかでは難易度が高いものだ。それも、『読み取った情報を処理して理解する』ことが難しいという意味で。要するに、本から英語の文章を抜きだしても英語が読めなければ意味がないのである。

 解析で永続発動を特定した沙雪は、つまりは永続発動の魔法式を理解していることになるのだ。神楽の指摘はそれを指している。

「しがない予備科生ですよ?」

「……いえ、正直、沙雪さんほどの生徒は正規クラスにもいないと思います」

「「え?」」

 驚いて凛を見る。彼女の目はまっすぐに沙雪を見ていた。

「その……今の《解析》、魔力のロスがほとんどなかったんです」

「へえ。よく『視』てるね?」

「え、あ、いや」

 すっと目を細める。

 沙雪の纏う雰囲気が、変わった気がした。

「『見鬼』か」

「! あ……はい」

 霊峰・富士を始めとして、数多くの霊験地に恵まれる日本では、稀に『見鬼』と呼ばれる力を持った人間が生まれる。彼らは魔力を始めとした様々な力を『視』ることができる。見鬼の中には魔眼と呼ばれ、視線で外界に影響を及ぼす力を持つものもいるとされるが……とにかく、魔法師や陰陽師のように見えないものを操る者としては最高の才能、それが見鬼だ。

「とはいっても、私は魔力の流れと水の精霊が多少視える程度です。そこまで強い力はありません」

「なるほど。それで水以外が苦手なのか」

「そうですね」

 見鬼の才を持ちながら予備科であることに疑問を感じたが、それはその才能に由来するものだと分かる。水の精霊に好かれるというのは、裏を返せば火の精霊を反発してしまうということだ。凛が水以外の属性を上手く扱えないのは体質と言っていい。

(そういう眼なら大丈夫かな)

 凛の見鬼の説明を聞き、ホッと胸をなでおろす沙雪。

「あれ、じゃあなんで神楽は火属性以外が使えないのかな~?」

「う、うるさい。苦手なんだよ!」

「でも凛と違って体質じゃないんでしょう?」

「あ、神楽は性格上そういうのは無理です」

「何気に酷いね凛!?」

 沙雪が作った微妙な雰囲気は一瞬で消え去り、三人の姦しい話し声が廊下に響いた。

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