投手王国はチーム防御率がリーグ最下位
「納得いかねぇーー!」
それはとあるプロ野球リーグの運営さん達の台詞である。今シーズンが終了し、首位打者や本塁打王などといったタイトルホルダーの集計をしているわけであるが、
「おかしいでしょ!?なんでチーム防御率最下位のチームに、奪三振王と最多勝、最多ホールド、セーブ王が出るんですか!?」
「そうだそうだ!どーゆうことなんだ!?」
「基準がおかしいです!これはおかしい!」
どうしてこうなったかはリーグ戦を見てみよう。
キーーーーンッ
『打ったーー!これで48号目!!河合のバットが火を吹いた!!』
カーーーーーンッ
『友田、尾波、新藤の3連続タイムリーツーベース!一挙4得点ーー!』
キーーーーーンッ
『河合の敬遠が完全に裏目!憤怒を込めた嵐出琉のバットで満塁本塁打!!最強打線が今日も止まらない!!』
強打自慢で有名なチーム。その打線はリーグ最強であり、タイトルにもしっかりと結果が現われている。
友田、 打率.318。198安打(リーグ2位)、27本塁打(リーグ7位)
尾波、 打率.323。94打点(リーグ5位)、32本塁打(リーグ6位)
新藤、 打率.345(首位打者)。145打点(リーグ2位)、40本塁打(リーグ5位)
河合、 打率.313。159打点(最多打点)、57本塁打(最多本塁打)
嵐出琉、 打率.284。105打点(リーグ4位)。40本塁打(リーグ5位)
この5人をどう抑えればいいのか聞きたいほどだ。リーグ最悪の凶悪打線は他のチームから恐れられ、ボロボロに打ち込まれるのが常だった。
しかし、この打撃5人衆が守備に回ると途端に扱いが悪くなる。
ポロッ
『あーっと!河合、パスボール!!フォークを止められなかった!』
カーンッ
『平凡なセンターフライか!?……いや、友田が走っていない!サボっている!ポテンヒットだーー!何をしているんだあの男!』
キーーーーンッ
『セカンド新藤!捕れるか!?いや、追いつけない!足がついていけていない!あーー!しかも、ライトの尾波が後逸だーー!』
バシイィッ
『牽制球が捕れない!嵐出琉のエラーだ!!』
お世辞にも守備が良いとは言えない五人。守備時の足の引っ張り具合は打者としての脅威がそのまま自チームに影響するほどだ。
特に投手に影響する。河合のリードはあまり上手くなく、投手への激励は単なる脅し。捕球も上手くなく、フォークの捕球はとにかく下手であった。
『くっ。やっぱりこうなったら……』
打たせて捕ろうにも、外野にボールが飛べば長打になる可能性が極めて高い。内野はショートとサードにやや安心感があるものの、セカンドの新藤の守備範囲の狭さには困る。ファーストの嵐出琉は捕球こそ上手いが、牽制球をよく逸らしてしまう。盗塁を刺そうにも河合は肩こそ強いが、送球が逸れる。たまに投手に当たる。
このチームに守り勝つという選択肢はほぼない。守備が上手い人を入れても5人も守備要因がいるわけがない。
『俺が頑張るしかない』
投手陣は少しでもリードしたら、気合が入った。この守備はクソだというのはよく理解している。ここで腐ってしまうとマウンドを降りるのに一苦労してしまう。
球数が多かろうが、とにかく気合で投げ込んでいき。狙うのは守備に影響が出ない三振のみ。
ズバーーーンッ
守備で1アウトをとるのは難しい。打たれることはしょうがないどころから、打たれたらヒットだと分かって投手は投げ込む。
この極限状態のチーム環境のせいか、投手力も隠れながらリーグでトップレベルのチームになったのだ。無論、この極限状態は打線にも相乗効果を促した。
『よっしゃ!点を取るぞ!』
『尾波!打てよー!エラーを帳消ししろー!』
打撃を買われてのスタメンである。その打撃ができなければ仕事をしたことにはならない。5人が抱えるプレッシャーもまた投手と同等である。
乱打戦は上等。かなり望んでいる。先攻だろうが、後攻だろうが、打撃で相手を圧倒して投手で相手をねじ伏せる。
先発投手は完投こそ少ないものの、5失点まではセーフティゾーンだと分かっている。それ以上に打線が爆発してくれる。
一方で後ろで待機する投手陣は1失点で3アウトをとる気迫のピッチングを見せる。先発投手陣はそこまで高い能力を持っている選手はいないが、リリーフ投手陣はリーグ最高レベル。安藤、沼田、ケント、植木、井梁の5人中継ぎと抑えのエース達は常に躍動。守備陣を期待せずに奪三振を狙う。球威でガンガンゴリ押していく。
「四死球はリーグ最小。奪三振はリーグ最多。あと、最小被本塁打だな」
「三振以外じゃアウトはほぼとれないからね」
「四死球や本塁打ってのは投手の責任が大半だからな。河合に気の利くリードができないってのもあるけど」
防御率は確かに悪い。だが、それ以外の部分は極めて傑出したものを見せる。奪三振の多さと四死球の少なさが顕著だろう。
「セーブ王の井梁が6敗、最多ホールドの安藤が4敗。2人共、防御率が2.50以上だ。タイトルホルダーとしては物足りないかもしれないが、この守備陣で抑えられる投手を讃えなくてどうするんだ?」
「うぐぐぐぐ」
結果が全てである以上認めなければいけない。
「216奪三振の大ベテラン川北は9勝14敗もしている投手だ。確かに成績は芳しくないが、彼のイニング数と球数はリーグ最多だ(被安打もだけど)」
「最多勝の神里は運もあっての17勝6敗。だが、毎試合を6回を3失点で試合を作れる投手。粘り強い投球を認めたらどうです」
「いや!認めない!先発投手は9回完封!2桁奪三振!毎回奪三振!それがエースであり、タイトルホルダー達というものだろう!!」
「そんな時代はもう終わったんですよ!」
選考はルール通りに行なわれる。そうでなければいけない。仮に完封数と完投数がリーグ最小だとしても、優秀な方が良いに決まっている。
「最優秀防御率は勝率などには関係のないことです」
この年は、最多失点と最低防御率のチームが投手のタイトルをほぼ総ナメしていた。