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25. 三時のおやつはついてない

 ためらいもなく撃った。本気で殺したかった。が、相手はニヤニヤと笑い、身軽にそこから飛んで木の上に移った。


————燃料の持ちがいい。改良型の方だ


 見上げながら撃ったが茂った枝にじゃまされてあてられない。いや、興奮しすぎて失敗してるのかもしれない。


「すげえ、あっちが黒の魔法使いでシロウさんが白なんだぜ、たぶん」


 組員のセリフに男はピクリと眉を動かしたが何も言わず、トミーガンを男に向けて撃ち放った。が、その組員は勘がよくてかっとんで逃げた。


「撃て! 連射できるだけだ! 多人数でかかれば同じことだっ」


 むしろ多方向から狙えるから強い。俺の言葉に励まされて組員はいっせいに撃つ。だがあたらない。急に跳躍した時に帽子を落としたがそれだけだ。けれどそいつは苛立った顔を見せた。


「......クズ共が」


 防弾スーツも着用しているはずだ。少々のことじゃ殺せないだろうが、みんな全力で弾の雨を降らせている。

 同じ顔の男はギリっと口の端を噛むとふいにトミーガンを投げ捨て、懐に手を入れ鈍い輝きを放つ白銀の(ガン)を取り出した。


ーーーーあれは!!


「逃げろおぉーーーーっ!!」


 絶叫するのと同時だった。一条の光が何人もの組員をなめ、一瞬のうちに絶命させた。俺は更に声を張り上げた。


「地獄で光線銃(レイガン)は都市法違反だ!」


 同じ顔の男は笑みを崩さない。


「身を守るために多少は許されるのさ......天国市民は」


 ぐっと息を呑んだ。知らず俺も口の端をかみしめている。まるでさっきの目の前の男のように。血の味を感じてそれをやめた。


「それ以上撃ったら過剰防衛だ! 磁場は継続的に観察されている......はずだ」

「ほう。よく知っているね、普通市民くん」


 揶揄する男の唇は歪む。俺自身は断じてこんな下品な顔はしていない。


「ごほうびに今日は殺さないでやるよ」


 ニッと笑うとまたレイガンを上げて、いきなり隣にいたビルに向けた。彼はガッと両腕を挙げて身をかばったが、ダメだ。その腕程度じゃ無理だ。

 俺は横から飛びついて彼を伏せさせようとしたがぴくりとも動かない。

 男は面白そうに焦る俺を見ている。


「どけ! ヤバいっ!」


 全力で叫ぶがビルは体を張ったまま、不敵に声を張り上げる。


「ボブ・サンの息子をなめんじゃねエ!」


 かまえた腕は太く、突き出された腹も太い。気概のこもったその様子を見て男は肩をすくめた。


「必死すぎ。萎えるわ」


 レイガンの照準をずらしてベルトの操作をし、あっという間に飛んで行ってしまった。

 呆然としている俺を横目に、ハートレイは死体を集めさせると双十字を切った。その間に幹部は人数をチェックしている。


「妙な銃だったから検視させよう」


 ハートレイは無言でうなずきブラウに諸事をまかせた。不満げなクロウに「おまえには別の仕事がある」と低い声で言った。


「おう。なんだってやるぜ」

「こいつの髪を切らせろ」


 と、俺の方に顎をしゃくる。意外すぎる答えに彼は目をぱちくりさせた。


「なんで?」

「今夜中にホログラムとポスターを作る。必要なヤツらは全て叩き起こせ」

「え?」

「それが終わったらすぐにこいつはこの区を出る。いいか、ポスターの言葉は 『この顔にピンときたらぶっ殺せ』 だ」


 彼の声にふざけた様子は全くない。硬い表情で俺を見ている。


「あれだけ強力で危険な武器だ。シロウかどうか迷っている暇はない。見かけしだい撃つ。だから、今夜中に出て行ってくれ。区境まで送らせる」

「わかった」

「でもコイツについて行くんじゃねえか?」

「その方がありがたい」


 きっぱりと彼は答えた。俺はどこに行くべきか逡巡しているとビルが声をかけた。


「西区に来い」


 目を上げるとぶっきらぼうに続けた。


「教皇さまの裾持ちでもやっとけ。天国だってカンタンには手が出せねえ」


 双十字教は普通都市、天国都市のそれとも交流がある。あちらの教皇とも会談する仲だ。


「......助かる」

「おう」

「それではカットを」


 俺はうながされて邸内の一室に連れて行かれ、地獄一のカリスマ美容師とやらにハートレイの覚えていた通りの髪型にされた。途中飲み物の差し入れもあった。


「ボスの指示通りにレモンを入れやしたぜ」

「カンパリソーダにレモン! なんて贅沢なんだ。さすが普通都市から来ただけあるぜ」


 組員が感心している。俺は違和感を抱いたがせっかくの好意なのでありがたくいただいた。 




「それじゃあお元気で。神と仏の加護を祈ります。玉ちゃんにも......寝ちゃってますね」

「猊下も。またいつか」


 俺に抱えられたまま眠っている玉を見てハートレイ卿はにこやかに笑った。餞別にカツオブシを何本かくれた。じつにありがたい。西区にいればまた会えるだろう。

 目だたぬ車が動きだした後、ビルが「おまえでもあんな顔するんだな」と呟いた。

 たった今のことじゃなく撮影の時のことだろう。われながら凶悪だったと思う。


『はい、惚れた女を寝取られた時みたいな顔して』


「あのカメラマンは一生恨んでやる」

「だがまあ、そっくりさんに見えたぜマジで」

「つまりあいつは人相が悪い」


 決めつけてふん、と横を向く。そろそろ夜明けが近いはずだが車は東に背を向けているのでわからない。座席に寄りかかったビルはまだなんとなく釈然としないらしい。


「あいつほんとに天国市民なんだろうか」

「持ってた銃は天国製だと思う」

「だろうな。あんなの初めて見た。俺の義手もすげえけどきっとあれ以上だろうな。だがあの飛ぶヤツ、あれはちょっと違くね?」

「?」

「あら、いつか俺たちが使ったヤツの上等なのだろ。もっとすげえのありそうだが。バリヤーついててなんかステルス機能があって三時のおやつと紅茶が出てくるようなヤツ」

「......ないだろう」

「天国市民ってったら天下人みてえなモンだろ。不用心すぎる。大体普通市民だってめったにいねえのにそうカンタンに来るか?」


 ビルはまっすぐに俺を見ながら疑問を述べた。


「......そりゃなんか事情があるんだろ」

「おまけにおまえにクリソツなのはなんでだ。双子の片割れだったら普通都市にいんじゃね?」

「たとえば天国都市に養子に行ってて、なんかの弾みで情報つかんで、世界一のイケメンは一人でいいって気分になって......」

「んなバカなヤツいるか」

「まあ世の中なんでもありだろ」

「大体天国のヤツらがフツー市民なんか養子になんてしないだろ」

「うーん......」


 口ごもって考えているうちに区境についた。西区とは隣り合っているので中央点は通らない。車から降りて境目を渡ると、白の箱バンが迎えに来ていた。


「兄貴!」

「久しぶりっす、シロウさん」

「............」


 白ラインが二本入った黒ジャージを着たビルのガードたち筋肉三人組がそろっている。ビルはわずかにうなずいて車に乗り込んだ。礼を言いつつ、まだ寝ている玉を抱えて俺も乗り込む。


「あの二人は?」


 発信するや否やビルが尋ねると、褐色マッチョの方が先に答えた。


「今、東区に行ってます」

「サム・ライがかくまってるんじゃないかと言っときましたから、しばらくあっちいるんじゃないっすか」


 ビルは体中から吐き出すほど深く息をした。ガードはニヤニヤとそれを冷やかす。


「ほんとうらやましい話っすよ。あんな美少女たちに」

「明るくキュートな嬢ちゃんも可愛いし、高飛車なお嬢もなんかクルし」

「......うっせ」


 微妙な顔で腕を組んでいる。今どっちのことを考えているのかわからない。両方かもしれない。世話になってるがちょっと憎い。


「北区で何か収穫ありましたか?」


 白色系マッチョが聞くとビルは首を横に振った。俺はちょっと驚いた。


「え、小麦の取引話あったじゃん」

「あー、食料関係はもう決まった業者があるから俺は取り次ぐだけよ。海から引き上げたもんがなんかねえかは聞きたかったんだが、それどころじゃなかったし」

「そうなん。たこ焼きとうどんパスタは全力でプッシュしておいてくれ」

「わかった」


 夜は明けてきたがさすがに疲れたので与えられた部屋に玉とともに移った。以前通された部屋ではなく教皇庁内だ。やや広いが簡素な家具しかない。それでも清潔で、壁に双十字がかかっている。

 玉をベッドの奥にのせ、着替えもせずのその横に入り夢も見ずに眠った。



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