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17.魔法使いにゃなりきれない

 できれば人目に付かずにこっそりと逃げたい。

で、コトが終わった後にビルを回収する。

 だが世の中そんなに甘くない。

 ばったりと出会ったのはジョー側らしい男たちだ。


「おまえは!」

「謎の殺し屋!」

「子持ちだったのかっ」

…………いや、違うから。


 背負った幼女は他者にも見えるらしい。

「うひゃひゃひゃひゃひゃ」

 恐怖でまた声が上ずる。

 と、三人ほどの男たちがなぜかいっせいに後ずさりした。


 シェリー邸で自分のマントに着替えてはいるが、せっかく補正までしたウィリーのももったいないので腰の辺りにはさんで置いた。

 後ろ手でそれを取り出し、ばっ、と広げつつ放り投げる。

 同時に横に飛び退り、近くにあった扉の中に飛び込んだ。


 相手はもちろん布を撃ち抜く。

 扉の鍵が開いてなかったら死んでいた。


「横だ!」

「まだ消えちゃいねえ!」

「マジックポイントがたまる前に仕留めろ!」

…………あいつら俺をなんだと思っているんだ。


 入った部屋は優雅なサロンで、ロココ調の家具がそろえてある。

 壁はシャンパンみたいな色合いの絹張りだ。

 隣室との境は品のいいアーチになっており扉はない。


 ひどく高価な猫脚の家具が、あっという間に傷物になる。

 焦ってるのでぶれる手つきで撃ち返して、弾の大半を無駄にする。


「魔法使いは射撃が下手か!」

 おい、俺は断じてそんなもんじゃないっ。高校の時の彼女が……。


――――選んだ銃に似るよ


 会話の断片がよみがえる。懐かしさに浸っている場合じゃない。


「どうした!」

「こっちか!」

 また人数が増えた。


 シェリー側はどうしてるんだ!

 そっちと交戦しろよ!

 見逃してくれたら大人しく消えてやるよ!


 もちろん俺の心の声なんか誰も聞いてくれず、一対多数の悪夢のような状況に追い込まれる。


「…………殺してやろうか?」

 背負われた少女が言う。

 その方が楽なのはわかっている。命が危ないのも百も承知だ。

 それでも俺は意地を張る。


「必要ない。しがみついててくれればそれでいい」

 中身がなんであれ見た目は子供だ。


「よくわからぬな。あのデブは実年齢でわれに対しては別基準か」


 かすめる弾を必死に避ける。ヤバい、数を頼んで入ってきた。

 全員がいっせいに俺を狙う。

 あれを、使うしかない。


 銃身(バレル)の後方についた切り替えをひねると弾の出方が変わる。


「ぎゃっ!」

「うわわああっ!」

「弾がっ」

「魔法だ!」


 隙をついて隣室に逃げた。


 ハンドガン以外は禁じられた地獄都市では、実はそのハンドガンさえ規制されている。

 人々はもはやその存在さえ知らない機能がある。


 俺のグロックは17ではなく18Cだ。外観はよく似ているが大きな違いがある。

 18は通常の銃にはないフルオート機能が設けられている。

 連続で降り注ぐ銃弾は大きな脅威だ。


 この銃は地獄都市で得たものではない。過去に手に入れたものだ。


「ざけんな、この野郎っ」

 気の強そうなやつらが追ってくる。


「勝利を信じる人間の力が何よりも強いってことを教えてやらあっ」


 そんなカッコいいセリフはモノホンの人外に言ってくれよ。


 逃げながらなので相手の銃はよく判らない。トカレフやマカロフが多そうだ。

 一人がえらく大きなリボルバーを振り回している。これだけはわかる。S&WのM500だ。熊だって殺せる銃だ。一発でも当たったら死ぬと思う。


 結局人は自分の選んだ銃に似るそうだ。

だとしたら俺はベレッタの優雅さともデザートイーグルの迫力とも、シグザウエルの格とも無縁だ。


 マガジンキャッチを素早く抑え、空弾倉を排出する。弾詰めすればまた使えるのに拾う間もなく次の弾倉。フルオート機能を幸いに数撃ちゃあたると撃ちまくり、隙見て走って棚の陰。


「……われに任せれば殺しつくしてやるのに」

 背負った幼女のつぶやきが聞こえる。

「子供に殺しは不向きなの」

「三千年の刻を越えたわれを子供というか」

「見た目はそうだろ。あと、敬老の精神も持ち合わせている」


 敵がまわりこんでくる。軽口をたたき続ける暇はなさそうだ。


「死にやがれ! くそがっ!!」

 相手の男はあまり品がよろしくない。体格に恵まれた大男で、的としてはでかいが効果は薄そうだ。

 それでも、銃の軽さが幸いして相手に先んじて撃ち込めた。


 一瞬の怯みに付け込んで連射したのがうまくあたり、男はその場に倒れ伏した。


「逃げよう!」

 いちいち宣言しなくてもいいはずだが、やたら口が軽くなるのはたぶん恐怖のせいだ。

「そうじゃのう」

 それに気づいているらしい幼女ー(あやかし)は背中でうなずいた。


 部屋から飛び出て廊下を突っ切る。

 曲がり角を全力で曲がり、踏みとどまって振り返る。

 瞬速で一気にフルオート射撃。


「ぐわあっ」

「ぎゃあっ!」


 そのまま再び廊下を走り、また開いている部屋に飛び込む。

 すぐに二人ぐらいが追ってくる。

 一人はまた大型のリボルバーだ。ここで流行ってるのか。


 小刻みに移動しながら花瓶を投げクッションを投げ椅子を投げる。


 相手は素直な男だった。その全てを銃弾でなぎ払う。椅子には三発喰らわせる。

 そして俺に向けて一発。

 どうにか避ける。


 そいつは空薬きょうを取り出すためにスイングアウト。

 リロードする前にセミオートに変えて三発打ち込む。

 男が倒れこむのと同時に後ろの男にまとめて撃ち込む。


 動かない相手を見てとりあえず息を継ぐ。


 が、ふいにそいつが動いた。

 やべっ、完全に気を抜いていた!

 恐怖で早朝のミーアキャットのように固まってしまった。


 ひどく乾いた銃声が響く。

 思わず目を閉じた。



「おまえ、なぜここにいる?!」

 聞き覚えのある声に驚いて目蓋を開く。

 ジムだ。


「や、やあ」

 震え声で応えて両手を挙げる。


「気味の悪いやつだ。てっきり死んだと思ったのに」

 後ろからもう一人が覗く。

「ハードボイルドな殺し屋か? 邸と共に沈んだんじゃないのか」


 答えようもなくて口をただパクパクと開け閉めしていると、廊下から銃声が響いてきた。


 二手の男たちが戦っている。シェリー側とジョー側だろう。

 ジムともう一人も駆け戻った。


 このまま逃げようかとも考えたが、いや待て両方に狙われるのもイヤだ。

 ちゃっかりシェリー側に加わりセミオートで銃を撃つ。


「左、弾幕薄いっ!」

 指示に従い力を合わせる。

 目の前の敵の数は減り、人の動きは邸の奥へと移る。


「礼拝堂だ!」

 とにかくついていく。



 バン!と扉は開かれた。

「よく来たな、シェリー側の諸君」


 何人かに取り巻かれたジョーが、えらく気取ってキャラを立ててくる。


「殺し屋を奪還した程度でいい気になられても困るな。われわれも素人じゃない。そちら側の重要人物を手に入れた」

 余裕綽々なジョーに、こちらの人々の顔に焦りが生まれる。


――――シェリーか


 祭壇の前の巨大な双十字には、元はカーテンらしい布が掛けてある。


「見せてやろう! その男を!」


…………男?


 ジョーの部下がばっ、と布を剥いだ。

 双十字に縛り付けられた男の姿がさらけ出される。

 慌ててこちら側の組員を見たら、全員が超どうでもよさそうな顔をしている。


「………………ビル」


 クローゼットから這い出した時にでも見つかったんだろう。


「かまわん、撃て!」

 止める間もなく一斉射撃。ジョーはあっという間に蜂の巣になった。


 ビルは無事かと気がもめたが、頭上の双十字にいたのが幸いしてか特に弾が当たった様子はない。



「こちらも終わったあるか?」

 ガードを連れたシェリーが息も乱さずに現れた。

 だが、頬に血がついている。無表情だ。


「なぜ、シロウがここに?」

 目を細めて俺を見る。

 背負った妖が声を出した。


「決まっておろう」


 みなが彼女を見つめる。

 幼女が人々を見回す気配を感じる。


「答は一つ、ワビ・サビじゃ!」


 あたりの空気が脱力する。

 シェリーはしばらく黙っていた。が、ふいに微笑んだ。


「ワビ・サビなら仕方ないある」

「…………ですよね」


 HAHAHA、と人々は笑い俺の肩をバンと叩いた。

「おまえの子か。似てるな」

「違うけど」

「隠さなくっていいって。可愛いじゃないか」

「母親は美人だろ。紹介しろ」


 あいまいに笑いながら吊るされたビルに近づくと、グシャン、と音をたてて双十字がへし折れた。限界だったらしい。

 慌てて様子を見るともぞもぞと蠢いている。


 組員の一人がナイフを投げてくれた。

 縛られた部分と口のガムテープを切る。


「いてえ」


 ビルが忌々しげに声を上げた。

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