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1.12歳なら合法だ

 結局人は自分の選んだ銃に似るそうだ。だとしたら俺はベレッタの優雅さともデザートイーグルの迫力とも、シグザウエルの格とも無縁だ。


 マガジンキャッチを素早く抑え、空弾倉を排出する。弾詰めすればまた使えるのに拾う間もなく次の弾倉。 フルオート機能を幸いに数撃ちゃあたると撃ちまくり、隙見て走って棚の陰。


「……われに任せれば殺しつくしてやるのに」


 背負った幼女のつぶやきが聞こえる。


「子供に殺しは不向きなの」

「三千年の(とき)を越えたわれを子供というか」

「見た目はそうだろ。あと、敬老の精神も持ち合わせている」


 敵がまわりこんでくる。軽口をたたき続ける暇はなさそうだ。


「死にやがれ!くそがっ!!」


 相手の男はあまり品がよろしくない。体格に恵まれた大男で、的としてはでかいが効果は薄そうだ。

 それでも、銃の軽さが幸いして相手に先んじて撃ち込めた。


 一瞬の怯みに付け込んで連射したのがうまくあたり、男はその場に倒れ伏した。


「逃げよう!」


 いちいち宣言しなくてもいいはずだが、やたら口が軽くなるのはたぶん恐怖のせいだ。


「そうじゃのう」


 それに気づいているらしい幼女ー(あやかし)は背中でうなずいた。




 話は一週間前にさかのぼる。

 その時俺は十七地区の東区の酒場にいた。

 猥雑な熱気にあふれた場所で東側に大き目のステージがあり、上で十五くらいのお姉ちゃんが何人か半裸で踊っていた。

 舞台の周りではバンドが騒音に負けじとがなり立てていた。


 いくつかのテーブルではカード、いやホログラムカードじゃなくプラスティックに数字と絵が描かれただけの純然たるカードでゲームをしている。

 データのまったくいじれないこのカードは、この地区ではかえって人気だ。


 もちろん誰もが銃を抱えている。イカサマなんかやろうものならすぐにズドンだが、ホログラムの場合店側が関与してデータをいじり作り変えることがある。安っぽいカードはその心配だけはない。


 カウンターで合成酒を頼む。甘めでアルコールの低いのを注文したらバーテンに鼻先で笑われた。

 隣で合成スピリタスのボトルを置いて、あまり薄めずに飲んでいた男も嘲笑う。そんな強いのは飲めない。


「……お兄ちゃん」


 近寄ってきた少女は極端に短いショートパンツに黒いハイソックス、へそ出しランニング、派手な化粧と爪の色。典型的な娼婦だ。ただ、髪はふわふわとした天使みたいな形で栗色だ。


「一杯飲ませてよ」


 俺はうなずき、コラーゲン入り合成ジュースを頼んで彼女を憤慨させた。


「ちょ、ここは酒でしょう」

「こっちの方が肌にも肝臓にも優しい。おまけにまだ夕方だ」

「あたしがガキだからなめてんの?」

「あんたが二十歳越えであろうと同じだ。ジュースはまず、財布に優しい」


 少女は怒ろうかどうしようか一瞬迷い、それからふき出した。笑うと化粧は濃くてもまだあどけない。


 俺は視線を彼女の半分露出した胸に走らせた。

 いや、サイズじゃない。年齢のわりによく育った胸で若いだけに充分な張りがあるがそっちじゃない。年齢の証明シールを見ただけだ。ブルーの大きめのハートに小さなイエローのハートが二つ。十二歳。合法だ。


「お兄ちゃんいくつ?」

「二十三」

「いいなあ、サバイバーだね」


 この町の人間は二十歳越え、三十までのやつをサバイバーと呼ぶ。それ以上の年の人間に対しては言わない。余生だとでも思っているのかもしれない。


 そう呼ぶのはその年代まで生きられないものがあまりに多いからだ。



 この星には大陸は一つしかない。以前はもっとあったらしいが、文明がまともだった時期に滅ぼされた。

 だがその行為がさらに災害を呼び、計画外の場所も消えたそうだ。唯一残ったのはここだけだと言われている。


 そして大陸は十七地区に分けられる。

 おおざっぱにいえば天国都市三つ、普通都市が七つ、人外地域四つ、地獄都市が三つだ。


 この十七地区はもちろん地獄都市にあたる。

 最上の三つも近接しているわけではない。ばらばらに位置し、子飼いの普通都市を周りに置きいがみ合っている。



「ねえ」


 天使の髪型の娼婦は俺の太ももに右手をのせた。


「………あたしと遊ばない?」


 職業的な媚は十分に身についていた。


「いくらだ?」


 目を細めて尋ねると、一番高額なコイン五枚分だと告げた。俺の夕食五回分だ。


「お兄ちゃんならほんのちょっとまけてあげてもいいよ。宿も安いとこ知ってる。ショートなら三枚」


 そう言って指先を繊細に動かした。


「一枚」

「ええっ、そりゃいくらなんでもひどいよ!」


 少女は目を吊り上げて抗議する。俺は両手でそれをしずめた。


「いや、それで体売れって言ってんじゃない。少しおしゃべりしないか?」


 きょとん、とこちらを見つめる。


「なんならジュースのおかわりもおごる」

「………変な人」


 彼女は困ったような顔でこちらを見上げ、それからうなずいた。



 なんでもありの十七地区だが、女として認められる年齢は十二歳だ。それ以下に手を出したら殺されることになっている。もっともそんなイヤなこともたまにある。

 この年齢制限も女の子の人権に配慮したわけではない。ウナギと同じだ。シラスの密漁を禁じるのは決してウナギのためではない。


 過酷な生活環境のためか、地区が何かに汚染されているのか、女性が十八歳以下で無事出産することは稀だ。孕むことさえ少ない。

 そのため、十八~三十歳までの女性は確保されていることが多い。陰惨な場所でブロイラーのように扱われるか、個人で守られるかは別だが。


 もちろん、普通以上の他の都市ではちゃんと人権も守られ、男性と平等の権利を与えられている。

 だが、ここは地獄だ。弱者は獲物として扱われる。



「お兄ちゃんはここの人じゃないでしょ」


 少女がグラスを回しながら尋ねる。


「わかるのか?」

「うん。なんか育ちよさそう」

「そうでもないんだけどな。でも一応普通都市から来た」

「ここの人間からすれば天上人だよ」


 苦笑いした。


「……たまに流れてくるヤツいるだろ」

「うん。でもそんな人は荒んでいるか、一瞬で食い物にされるかどっちかだし」

「女が来ることはあるかな?」

「地区に一歩足踏み入れた時点でヒャッハーされるよ。おばさんだろうがなんだろうがよその地区の女は高く売れるし」

「最近、そんなことを聞かなかったか。若く綺麗な女が迷い込んだって話」

「ううん、全然………あ…」


 何か思い出したらしく少しの間宙を見上げて考えていたが、視線を下ろして真向かいに見つめた。


「この辺でねー、一番美人はシルクって子で、十六歳のダンサーなの。バックにこの東区のお偉いさんがついてる」

「ふうん」

「その子が五日ほど前になんだがすごく怒ってて、店を飛び出してったんだけど、そのまま行方不明」

「誰も探さないの?」

「よくあることだし。よほど仲のいい相手でもいなきゃほっとくよ」

「そのお偉いさんの名は?」

「えっと……」


 彼女が少し口ごもった。

 と、同時に人相の悪い中年二人が絡んできた。

 ちゃんと火のつく合成シガーを加えたヤツがせせら笑った。


「よそ者のくせに首突っ込もうってのか」

「いい度胸してるね、あんちゃん」


 にっこりと笑い返す。

 相手が気色ばんだ瞬間に、隣席の男のボトルを奪いぶっかける。


「うぎゃっ!」


 青白い炎が立ち上った途端、金をカウンターに放り込み、少女の手をつかんで走り出した。

 九十六度のアルコールはよく燃えた。


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