≪中≫
今日は、皆さん! 結局、短編のクセして上中下なんてやってしまいました。それではどうぞ、お楽しみください。
「それにしても、なんかすごいトコに泊まってるのな」
カズキは、ハルに聞いた宿泊先の名前を思い出しながら独りごちる。
「誰がすごいとこに泊まっているんですか?」
「あー、いや。ハルさんのお仲間が凄いところに泊まってるなと思って。……そのホテル、この都市じゃ一番有名なんだよ」
「えっ、高いんですか⁉」
驚くハルに、カズキは首を横に振り否定する。
「値段はそこまでなんだけどね。どっちかっていうと設備とかそう言ったのが凄いって話だね」
「へぇ~。そうなんですかー」
感嘆の声を漏らすハル。
「そんなので儲かってるのかって専らの噂だしね。――っと」
話していると、カズキは誰かにぶつかってしまう。
「あっ、すいません。よそ見してしまって」
「あー、いやいや。こっちもちゃんと前を見て歩かなかったからね、私の方こそごめんね」
ぶつかった相手の青年は、嫌な顔一つせずに笑顔でそう言った。
「おっ、彼女さんとのデートの途中だったのかな? それは悪いことしたな」
そう言って青年はそれじゃ、といってサクサクと歩いて行った。
「彼女さん? デート?」
訳が分からないと言ってカズキは首を傾げる。
「どうかしましたか?」
ハルが何事かと訊ねてくる。そんなハルを見て、カズキはもう一度先ほどの言葉を、今度は頭の中で反芻させる。
「…………イヤ、まさかな」
ナイナイ、そんなのない、あるはずがない、ある訳がない、絶対にない。と自分に言い聞かせる。
「……?」
そんなカズキを前に、終止疑問符が絶えないハルであった。
「あぁいや、こっちの話だから大丈夫、気にしなくていいよ」
「? そうですか……」
ハルは小首をかしげながらそう言う。
「それで、えっと。お仲間が泊まっているホテルの事なんだけど、」
「はい?」
「……ほら、そこ。もう着いたよ」
カズキはそう言って十メートルほど先に建っている大きめの建物を指さす。
「…………教会?」
ハルは、その建物を見て訝しげにつぶやく。ハルの言葉を聞き、カズキは苦笑する。
「まあ確かに教会っぽいけど、中身は宿屋と同じだよ」
「そう、なんですか」
腑に落ちないと言った風に呟く。
「まあ、疑問に思うならまず確かめるためにも中に入ってみるといいんじゃない? ほら、行こう行こう」
そういってカズキはハルの手を引く。
カランカラン、という音が、ドアを開けるとともに鳴った
外装と相反して、内装はホテルなどのロビーそのまんまだった。
「うわぁ、ホントにホテルだ……」
ハルは感嘆の声を漏らす。そんなハルを横目に「だから言ったでしょ……」とカズキが苦笑する。
カズキとハルは、早速受付の女性にキョースケ達の泊まっている部屋を聞いてみると、
「その方たちでしたら、早朝に外出なされましたよ。都市の散策と何か売り買いするとおっしゃっていましたけど……」
女性がそう言うと、ハルは「そんなぁ……」と呟き、ガクッとうなだれた。
「なんでしたら、伝言か何か承りますけど」
ハルのそんな様を、引き気味に見ながら女性はそう言った。
「本当ですか⁉」
そう言って背嚢の中から年季の入った、というかボロボロになった手帳を取り出すと、何かメモを書きとめる。そして、ビッ! とそのページだけを破ると二つ折りにして受付の女性に渡す。
「それでは、この手紙を司さんに渡してください! えっと、短髪の、女の子で……」
「はい、分りました。司様にお渡しするのですね。えっと、他の方たちでは?」
ハルが容姿を話そうとすると、受付の女性が遮りそう訊ねる。
「キョースケさんは響さんに基本逆らえないし、響さんは絶対に読まずに破り捨てますから、絶対に! 絶対に司さんに渡してください‼」
ハルの気迫に気おされ、受付の女性は引き気味に「わ、分りました」と頷く。
「じゃあ、お願いしますね」
そう言ってハルは踵を返し、宿を出る。
「ハルさん、わざわざメモ渡してまで宿を出なくても、中で待っていればすぐに会えるんじゃない?」
宿を出たハルを、カズキが小走りで追いかけて言うと、ハルは一瞬固まる。
「あっ」
「…………」
しまったという顔をするハル。確かに、ホテルからさっさと出るよりはロビーにでも居座って待っていた方が合理的だろうと、今更気づいた。
「そっそうだ! どうせメモを残しているのですから、私たちは私たちでキョースケさん達を探せばいいんですよ!」
いま思いついたかのような良い訳だな、オイ。
「ハァ、そんなもんで?」
カズキは、とことん投げやりに返す。
「それでは、気を取り直していきましょう! レッツゴー、オー!」
「お、おー……」
空元気というかただ暴走しているだけのハルのテンション高めの掛け声と共に拳を天高く掲げ、カズキは正反対に超ローテンションで疲れた感じによろよろと手を上げる。
(もう俺、帰っていいかな?)
カズキが胸中でそう呟くと、ハルが唐突に大声を上げる。
「あーっ!」
カズキは驚いてハルの方を見る。
「ん?」
「おっ!」
ハルの目の前に、二人の少年と少女が居た。少年の方は『なんだどうした?』といった顔でハルの方へ振り返る。少女の方はハルを見て驚いき喜んだような声を上げる。
「キョースケさん、司さん‼」
「ハルじゃねーか。なんだ、ようやく来たのか」
「もー、ハルどこ行ってたんだよ? もうずっと探してたんだよ」
キョースケと呼ばれた少年はそう呟いて、司と呼ばれた少女はハルを咎めるように語気を少し強めにそう言った。
「すみません。道に迷ってしまって」
ハルは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いやまあ俺は別に怒っちゃねーよ。むしろ響が消えたから今のうちにお前を探そうとしてたところだし、まぁさっさと見つかってよかったってところだな」
キョースケはそう言ってハルの頭をポンポンと撫でる。
「じゃ、ハルも見つかった事だし宿に帰るか。……ん?」
キョースケは、そこでようやくカズキに気付く。
「? 誰、アンタ?」
カズキにぶしつけな感じで質問を投げかける。そんなキョースケを見てハルはキョースケと司に和己の事を紹介する。
「あ、えっと。この方は、私が道に迷っていたところを助けてくれて、ここまで送って下さった方で、名前を……」
「カズキです」
ハルの言葉を遮り、カズキは自分の名前を名乗る。キョースケはそれを見て愉快気に口の端を歪める。
「へ~。案外、親切な奴もいるのな。んじゃあどうするよ? どーせ、このままサヨナラする気じゃないだろ?」
ハルにそう訊ねる。
「ええはい。助けてもらったお礼をしたいんですが……」
「礼をしようにも、唯一礼として出せそうな商売道具一式はオレたちが持ってるからまずオレらを探してたってか?」
「はいそうですけど。……相変わらず気持ち悪いほどの状況の理解力ですね」
キョースケの推察力にハルはそう言った。
「まあ、何でも良いけどやるならさっさとしろよ。響のヤロー、なーんか変な事考えてるからよー。さっさと済ませてこの都市を出てーんだわ」
だれたようにキョースケが言う。それを聞き、ハルまでもげんなりとする。
「……また何かやる気ですか、あの人?」
「さぁ? なんか企んでるだけだからなぁ。まあなんかやるとしたら、その前にオレたちが逃げちまえばイイだけの話しなんだがね」
そうは言うものの、キョースケは一抹の不安をぬぐえないようだ。キョースケ達と響、どちらが先に行動に出られるか全く分らないからだろう。
「あのバカが行動を起こしたら、御剣さんですら止められないからな」
そう言ってキョースケが宿へ行くのなら早くしろと促した。
「え、今から宿に行くんですか?」
ハルが少しいやそうにそう訊ねる。
「なんだ、嫌か? お前の商売道具は全部宿に置いてるだろう。どーせそれがないと礼もできんだろうが」
キョースケが呆れた風にそう言う。
(それはそうなんですが……)
あの受付の女性に渡したメモ、アレをこの状況で読まれるのは非常に恥ずかしい気がする。ハルはそう思った。
「まさかとは思うが一度宿に行って俺らがいなかったから書置きを宿主あたりに渡して出てきたところ俺とばったり出くわしたとかじゃねえだろうな?」
「うっ……」
ハルは図星を射てられて言葉を詰まらせる。その反応を見てキョースケは呆れて溜め息を吐く。
「ハァ……。本当にお前は分かりやすいな」
そう言ってハルの頭をコツンと叩く。
「あうぅ……すみません」
「俺は響じゃねえんだ。先に言ってくれりゃ、ネタにして笑ったりなんざしねえよ」
「……はい」
ハルはシュンとして下を向く。カズキはその一連を見て、
(何これ。何で男同士でラブコメ展開繰り広げてんの?)
と思い、一人引いていた。
「……」
キョースケの傍らで、司はどこかつまらなそうにそっぽを向いていた。
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――――この世界には『夢商人』と呼ばれる世界的な都市伝説が古くから存在していた。『夢商人』とは、名前の通り、夢を売買する商人である。世界中に知れ渡っている事から、この存在が行商人だということも、容易に予想はつけられた。そうして長きにわたって『夢商人』という都市伝説は、全世界に浸透していった。
「で、そこのハルさんがその世界的都市伝説とやらで、数日間の長期迷子を助けた俺へのお礼に夢を視せてくれる、と?」
カズキは露骨に疑ってかかる。
今ハルは数字膣刊風呂に入っていなかったということでキョースケに強制的にシャワー室へと放り投げられている。そしてキョースケ達はハルの事を話していた。
「なにより、世界的に有名な都市伝説っての事態が信用ならないんだが」
カズキはそこで一拍おくと、
「なんせ俺はこの都市で生まれ育ったが、そんな話し一度も聞いたことがないんだからな」
「だろうねー」
カズキの言葉に司は困ったような笑みを浮かべながら答える。
「? どういうことだ」
その問いにキョースケが答える。
「まあアレだ。何だ、アレだ。どんなものにも例外が存在するって事だ」
例外? とカズキがオウム返しをする。
「そう、例外だ。今回みたいに『夢商人』という都市伝説が存在しない一部都市や国があるということ。まあ、これはつい最近知った事だけどよ」
そう言ってキョースケはいつの間にか手にしていた缶コーヒーを飲む。
「ま、理由なんて簡単に予想はできるけどねー」
司が素っ気なくそう付け足す。
「ワケ……? 予想できるって、どんな?」
「んー、たとえばー『夢商人』がいままで一度もそこに来なかったとか」
カズキの問いに司はそう答える。
「いやでも、それだとこの都市にやって来る旅人や商人たちがその噂を話せばすぐに広まるでしょう。その仮説は無理がある」
「だろうね。でも、もしもこの都市が最近開拓されたばかり、もしくは外交し始めたんだったら、そうとも限らないよ。だってもうその頃には世界中に『夢商人』という都市伝説が認知されているんだから、それはつまりみんな知っていて当然。むしろ知らない人なんて居ないと思っているから、わざわざ話題に出さなかったんじゃないかな」
そう言われるとカズキは押し黙る。
確かに、この都市自体はできて千年以上は経っているが、その実外国と本格的に交流し始めたのは、それこそつい最近、百年ほど前の事だ。
その事を知っているカズキは言い返せないでいた。
「……」
「ま、結局は〝たられば〟の話になるんだけど」
そう言って司は『たはは……』と苦笑する。
「キョースケさん、この服すっごくスースーするんですが……」
ちょうどよく風呂から上がって来たハルが、風呂場に置いてあった服を着てやって来た。カズキはハルの姿を見て驚愕する。
「は、ハルさん⁉ その格好……」
「? どこか変ですか?」
ハルはそんなカズキの反応を不思議がる。
「イヤ、だってその格好は……」
そう言ってワナワナト肩を震わすカズキをキョースケと司は怪訝に思う。
「いきなりどうしたんだアンタ」
「そうだよ。ハルのカッコ、どっこも変じゃないだろ」
不思議そうに二人は言う。
「い、いや……その」
二人に対しカズキは言葉を濁す。その反応を見て何かわかったのかキョースケがポンと手を鳴らし、司に耳打ちをする。
「司、司。これはあれだ。この都市ではこーゆー格好が存在しないんだ。だから珍し格好だと驚いてるんだ」
「あ、そっか。そういうことなんだ!」
キョースケに言われて司は合点がいったというようにポンと手を鳴らす。
「おいちょっと待て、何がそういうことだ。この都市でもそーゆー服は存在するし別に珍しくもなんともないわ!」
「おーおー、血気盛んに吠えちゃってまあ。じゃあ何をハルの姿を見て驚いてんだ?」
カズキの反応を面白げに眺めながらそう訊ねる。
「それはだって、ハルさんが女物の服を着てるからだ!」
そう言って和己はハルの方を指さす。今ハルが来ている服は、胸の部分に赤いリボンが一房ついている可愛らしい感じのワンピースだった。さらにこういったモノを着慣れていないのか恥ずかしそうにモジモジとしている。
「……」
「……」
「……」
キョースケ、司がその言葉にポカンと呆けた顔をし、ハルは、またかと言いたげに嘆息する。
「え? 何この空気?」
この三人の反応を見て、頭の上に疑問符を浮かべる。すると見兼ねたように溜め息を吐くと司が言った。
「言っとくけど、ハルは女の子だからな。男じゃないんだぞ」
「は?」
一瞬、意味が理解できずに呆けた声を上げる。
「――――って、えぇええええええええええ!!?」
カズキは驚愕の声を上げる。
キョースケはそんなカズキの反応を見て昔の自分を懐かしむようにウンウンと一人満足げに頷いている。そのキョースケの頭を司はなぜか叩い(はたい)ている。
そして当のハルは、疲れたように溜め息を吐いていた。
「自分、そんなに女の子らしくないですかね……?」
「まず一人称をどうにかしねぇとな。体型はすぐにゃ変わらんだろ」
シレッと的確な(?)事を言うキョースケ。そして司は座っていたキョースケの背中をゲシゲシと蹴る、
「だーもうっ! 司、お前さっきから何なの? いちいち手ぇ出してくんな、鬱陶しい!」
そういって司を押さえつける。その間カズキは頭の整理がつかず鯉みたいに口をパクパクさせていた。
「まー、アレだ。何だ、アレだ。ハルの性別とかはこの際どうでも良いとして」
「良くないですよ」
ハルがキョースケに抗議の声を上げるが『うっせ』と一蹴される。
「ハルも風呂から上がった事だし本題に移ってちゃっちゃと終わらすぞ」
そう言ってハルを自分の横に座らせる。
「本当に急ぎますね。そんなにヒビキさんの企みって危ないモノなんですか?」
「危なくはないんだが。……最悪、ハルが死ぬ」
ハルの問いにキョースケは声を震わせながら言う。
「十分危ないじゃないですか! 私、死ぬんですよ⁉」
「あぁ、うん。でも俺は全然危なくないじゃん」
「そう言う問題ですか! 巫山戯ないでくださいよ‼」
声を荒げてハルがそう言うとキョースケは耳に指を突っ込んで面倒そうな顔をする。
「だーから、こうやってせかしてんだろうが。アイツの事だ、早くしねェと馬車馬みたくこき使ってボロ雑巾になったら捨てられて死ぬぞ」
全く冗談に聞こえない辺りが恐ろしい。キョースケの言葉にハルは顔を青くする。
「それがイヤならさっさとやる事やってアイツを置いて都市の外に出ようや」
「は、ハイ……」
ハルは項垂れながらそう言った。
日々桃とミカンとさやかちゃんを欲する感情が増しつつあって泣きたいです。寝る間も惜しんで寝た結果がこれですよ。
次話で今回は終わるはずなので、次話投稿をお楽しみください。