≪上≫
はじめましての方も前回から読んでいただいた方もこんにちは。サブタイに≪上≫とかありますけど今回は短編です。前回出した本編(と言っていいんですかね?)の続編ができるまでの間こういった短編を出していきます。っていうか基本こっちをメインで出させてもらいます。それではあとがきでまたお会いしましょう。
やりたい事もなく大学を絶賛留年中のカズキは、街をぶらついていたらおかしなモノを見つけた。
平日の昼間という事もありあまり雑多としていない街の中、一人異様な雰囲気を放つ人物が歩いていた。
歳は十代半ばほどだろう、あどけなさの残る幼い顔立ちに、もう夏だと言うのに冬の北国で使われるような耳を覆うたれの付いた帽子をかぶり、風よけ用の長い襟を折り曲げられた暑そうなベージュ色のコートを羽織っていた。更に背中に大きな背嚢を背負っている辺り、さながら旅人か浮浪者のようだった。
「ハァ……、ハァ……」
ふらふらと歩き、そのまま倒れて動かなくなる。
「だ、大丈夫ですか⁉」
それを見ていたカズキは、驚いて駆け寄り体を揺する。
「…………ぁ」
蚊の鳴くような声でその人は何かつぶやく。
「はい? なんて言いました、もう一回お願いします」
あまりに声が小さかったため聞き取れず、そう訊ねる。するともう一度『…………ぁ』と呟く。どうやら何とか呼吸をしているだけのようだ。
これはやばいなとカズキが思った直後、
――――ぐぅううううううぎゅるるるるるるるるるるるるる……
という音がその人の腹の辺りから聞こえた。
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カズキは何の因果か行き倒れていた浮浪者(?)をファミレスへと連れて行き、ご飯をおごっていた。
「いやー助かりましたよー。キョースケさん達とはぐれてからこっち、お金も渡されていないから、三日間ほど水道の水しか口にしていませんでしたから」
笑顔でそんな事を言う。
「……で、えーっと、ハルさん……だっけ? はぐれたって言うけど自分の家に帰ればよかっただけなんじゃないの?」
カズキがそう訊ねると、ハルと呼ばれた人物は少し困ったような笑みを浮かべながら答える。
「いやぁ自分、生まれた時からずっと父と行商のようなものをしていたので、家はないんですよ。あっ、あと父とは今、定期連絡のとき以外は一切連絡が取れない状況なんですよ」
そういってにへらぁと、照れたように笑う。
「……」
絶句するカズキ。このお子ちゃまはいろんな意味で凄い人生を送っているんだな。と思った。
「じゃ、じゃあ! さっき言ってた、キョースケって人に連絡を取るとかは……?」
それを聞き、ハルは笑ったまま固まる。
「あの……えっと、ハルさん?」
笑顔を張り付けたままハルは目を逸らす。
「……ハルさん?」
再三、カズキが訊ねるも、ハルは答えようとしない。
「…………。もしかして、そっちも連絡が付かないとか?」
カズキがそう言うと、ハルは申し訳なさそうに頷く。
「実は、そうなんです……。で、でも。最初の一回は繋がったんですよ! だけど……」
そう言って気まずそうな笑みを浮かべる。
ハルの話では、迷子になったと気付いた時にキョースケという人物に連絡を取った際は、普通に連絡が取れたのだが、そのとき迷子になった旨を伝えると、唐突にキョースケから別の人物に代わった。代わった相手はヒビキといい、彼がハルに対して、
『どうせこの〝都市〟には一週間ぐらい滞在するつもりだったから、地理を憶えるついでに俺たちが泊まる宿まで一人で来い』
と言ってそのまま電話を切った。その後、一切連絡がつかなくなってしまったのだ。
「「……」」
とりあえず話し終えると、二人の間に何とも言えない空気が漂った。
「えーっと……」
――ガタッ!
カズキが何かを言おうとするとハルは唐突に立ち上がった。
「は、ハルさん……?」
何かハルの癇に障るようなことをしたのだろうかビクつくカズキ。が、ハルは苦笑を浮かべながら、
「あの、えっと。お腹が一杯になったら、ちょっと催してしまいました。……お手洗いに行ってきます」
そう言ってそそくさと席を立つ。
カズキは「ハァ」と、疲れたようなため息を吐いた。
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(あ~~~~。面倒な事になってきたぞ)
カズキは、天を仰ぎながら心の中でそう呟く。
ハルがトイレから帰ってきてカズキはこれからどうするのかと訊ねると、ハルは何かお礼がしたいと言いだした。が、
「あぁでも、キョースケさん達に合流しないとまともなお礼なんてできないですし。あうえう~~~~~⁉」
と言って頭を抱えだす。そんなハルを見かねてカズキは、
「お礼とかはしてくれなくていいけど。なんなら、お仲間さん達が泊まっている所まで案内しようか? 住所か泊まっているトコの名前さえ教えてくれれば、まぁ大体は何とかなると思うし」
と言って、道案内を買って出てしまった。
(我ながら恨めしいほどにお人好しだ……)
と自己嫌悪に陥っている最中だった。
「~♪」
そんなカズキの心境を一切知らずにハルは鼻唄を歌っている。
それはそうと、未だに冬物のコートを着ているが暑くはないのだろうか? と、カズキはハルの後ろを歩きながら思う。
と言うことで、
「あのー、ハルさん」
聞いてみることにした。
「? なんです?」
「いや、そのコート、厚くないのかなと思って」
カズキがそう言うと、ハルはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに嬉しそうな笑みを浮かべる。
「これはですねー、とってもすごいモノなんですよ!」
オモチャ自慢をする子供の様に嬉々とした笑みを浮かべる。
「原理の方はよく分からないんですけど、このコートは着ている人への物理的、攻撃的干渉を全て遮断して、その上着ているだけで快適な温度にしてくれるんですよ~」
と、満面の笑みでそう言った。
カズキはハルの額に手を当て、もう片方の手を自分の額に当てた。
「? なんですか?」
「いや、熱で頭がイッちゃったのかな、と思って。……熱はないみたいだけど」
「何ですかそれ⁉ 酷いですよ!」
そう言ってハルはむくれる。
カズキは苦笑だけしてごまかす。するとハルは、たたっ、と小走りに車道へ出て行く。
「ちょっ! ハルさん、何やってんの⁉ 危ないって‼」
カズキは、ハルの奇行に驚く。
「大丈夫ですよ。このコートを着てればトラックに撥ねられたって怪我一つ――――」
言い切る前に、ハルは本当にトラックに撥ねられた。トラックは慌てたように一度急ブレーキをする。タイヤと道路のこすれる音がする。ハルの体は、慣性の法則に従い、何度もまるでサッカーボールのように跳ねながら、数メートルほど飛ばされた。
そしてトラックは、急発進して横たわるハルを避けながら逃げていった。
「なっ! おい、待て‼」
カズキはトラックの運転手に向かってそう言うが、聞こえるわけもなくトラックはそのまま姿を消していった。そして、数秒の空白の後、誰かの悲鳴が劈く。
その声にハッとし、カズキはポケットから携帯電話を取り出す。
「あっ。そ、そうだ、救急車! 救急車を呼ばないと!」
そう言って携帯電話のボタンを押そうとする。が、一つの異変に気付き、その手を止める。
ムクリ、と重傷であるはずのハルが、蠢く。
「うー、頭がくらくらする~~~」
そう言って平然とした顔で起き上った。
「おかしいなぁ、ヒビキさんがやった時はちっとも動かずにぶつかった車の方が壊れてたのに……」
ハルはそう不思議そうに呟く。
悲鳴はどよめきに変わっていく。トラックに撥ねられ、普通なら死んでもおかしくないというのに、ハルはすぐに起き上りケロッとしている。
周りの事など興味がないという風に、ハルはカズキの方へと小走りにやって来る。
「ホラ! 見てください。さっき言った通りでしょう!」
嬉しそうに弾んだ声でそう言う。カズキは、唖然としたまま固まっていた。
「って、イヤイヤイヤイヤ‼ え、何? 何でああなったの⁉」
「だから、言ったじゃないですか。このコートは、着ている人への物理的、攻撃的干渉を全て遮断してくれるって」
確かにそうはいったが、そんなもの単なる与太話かもしくは妄言としか誰も受け取らないだろう。現にカズキも先ほど目の前であんな事が起きた後だというのに、いまだに信じきれていないのだ。
ただ、信じきれなくとも、どうやっても先ほどの事を見れば信じざるを得ないというのも事実だ。カズキは、溜め息を吐き、これ以上深く考えるのは止めよう、と思った。
「……OK、わかった。そのコートが凄いことはよーくわかった」
そう言ってカズキは渋々ながらと言った風に信じる事にした。それを聞きハルは、満面の笑みを浮かべたのだった。
後々考えるとサブタイが前回とカブってねと思いましたが気にしません。それでは、次回をお楽しみください。
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