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9話 生徒会長

あれから3日が経った。

渡辺と都合の調整をして、生徒会長と会うことになってしまった放課後。私は生徒会室の前にいる。無駄に豪勢なドアを開ける勇気が出なくて10分くらい突っ立っている。意外と人気のない廊下のおかげで、人の視線を感じずに立っていられた。が、いつまでもここで立っていては話が進まない。…帰ってしまおう、かな。だめだろうな、渡辺にも申し訳ない。


「失礼します」


覚悟を決め、中へ入る。生徒会室は、広かった。物珍しくてつい、辺りを見まわしてしまう。豪華、だな。


「あ、ようこそ白野さん。そこでふんぞり返っている人が生徒会長ですよ」


渡辺に椅子をすすめられて、腰かける。フカフカだ…!

でなくて。そこ、と指し示されたところへ視線をやる。机に両足を乗せてふんぞり返っている男がいた。ネクタイの色は緑。同学年だ。…あれ、生徒会長は風堂貴人の兄なんじゃなかったのか?双子?


「お前が白璃だな?」

「……そうだが」

「弟から、よく話をきく。それで興味を持ってな」

「そうか」


風堂貴人とそっくりだ。目元とか、特に。

しかし、なんていうか…。


「あ、貴人と混ざって面倒だろうから俺のことは雅人まさとって呼べ」

「…」

「ほらぁ~」


…。

成程、風堂貴人が嫌がるわけだ。


「会長!?後ろ!!」

突如、渡辺から警告が発せられる。ハッと顔を上げると、会長の後ろにある開け放たれた窓の向こうから何かが飛んでくるのが見えた。何かと思って目を凝らしてみると、サッカーボールだった。見事、奴にヒット。方角的に校庭に面しているんだな、そこの窓。でも、なんでサッカーボールが…?


「…」

「フッ…貴人は一回死にたいみたいじゃねぇの。後で覚えとけよ」


会長の背後に黒い、炎が見えた…気がする。飛んできたボールを会長は窓から下へ落としたようだ。

そうか、風堂貴人がボールを蹴った、のか。え、でも2階の窓に直撃するものなのかな、すごいな。

いやいや、そうでなくて。一向に本題に入らない。帰れないじゃないか。帰りたい。早くこの部屋から帰りたい。


「…雅人、私と話がしたいのではなかったのか。用が無いようなら帰らせてもらうが」

「あ、あーあー…。気に入った。俺の女になれ」


 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。沈黙が広がる。カラーンと金属が床に落ちた音がした。はっ、お見合いをしている場合じゃなかった。

 足元に誰かが落としたお盆が転がってきた。おそらく渡辺が持っていたものだろう。咄嗟にそれを拾って雅人へ投げつける。


「これを食らって頭を取り換えてこい!」


どこぞの、食べられるアンパンのアニメのように。

結果、お盆は雅人の額にクリティカルヒットした。おお、当たった!一生分の運動神経を使い切った気分だ。


「い、痛っ!!」

「…当然の報いだろう」

「何を言う!」


 こっちの台詞だ、それは。

いきなり、なんなんだ。暴力は反対だが、今のは仕方がない、よな。


「いきなり俺の女にならないかだなんて、どんな神経しているんだ貴様は」

「だってー、皆俺が言ったら、喜んでって言うんだぜ?」

「貴様はバカだな。たかが顔が良いぐらいで女がすべて自らのものになると思いあがるなよ」

「会長!い、いきなり!」


渡辺が動揺している。珍しいこともあるものだ。

しかし、そんなにかっこいいか…?傲慢な奴は嫌いだ。


「ふぅん、お前もか。弟が珍しく女に興味を持ったから奪ってやろうと思ったが…面白い」

「どこが面白いのだか…。私は付き合う気など更々ないからな」


それでは失礼する。

そう述べて生徒会室を出ようとすると、手をつかまれ、後ろへ引っ張られた。抵抗もむなしく、雅人の腕の中に納まってしまう。この展開、どこかで…?


「硬派な子見るとオトしたくなるんだよねぇ」

「放せ」

「俺の女にしてやる」

「ふざけるな」


キッと睨み付けると怪しい笑みを浮かべる雅人。悪寒が走った。

会長だからって何でもしていいと思いあがるな。


「気の強い女は好きだ。俺色に染めてやろう」


…こいつ、本当に変態だな。


「会長!白野さんを放しましょう!」


渡辺…?どうしてそこまで必死になるんだ?


「フッ、離れたいのなら俺にキ…」

「…誰がするか」


雅人の手をひねり、バッと大きく間を開ける。

うまく抜け出せてよかった。


「私は帰る」


2度と来るものか、こんな変態が生息しているような場所に。固く誓った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 朝、家から出ると風堂貴人と雅人が通行人の注目を集めていた。な、なんなんだ。思わずドアを閉めた。スーハーと深呼吸をして、もう一度開く。…やっぱりいた。どうして、私の家の前にいるんだ。


「…うちの前で何をしている?」

「せっかくだから白璃と一緒に登校しようと思って」

「俺も~」


コイツら一辺殴ってしまおうか。いや、雅人はなぐ…うん、殴ったな。

そうではなくて!一緒に登校、だと?断るにきまってるだろう。


「ほら、行こうぜ」


風堂貴人に手をつかまれ、引っ張られる。クッ、私は唐突に腹が痛くなったんだ。学校に行きたくないっ。


「ちょ…放せ」

「兄貴になんか、渡さねぇからな」

「は?」


何の話だ?雅人に何を渡さないんだ?

それよりも、手を放してほしい。放せ。雅人も、横に並ぶな。私をはさむな。

…にしても、すごく暖かい体温、だな。違う違う、そうでない。


「俺だって…………だからな!」

「何を言って…?もう一回言え。聞こえなかった」


おそらく一番重要な部分が。


「う…」


苦虫を踏んだような顔で風堂貴人は黙る。


「ん?」


前方に万年2位…違った。灰崎が仁王立ちしている。

そこは校門の中央だから、いろんな意味で邪魔だと思うのだが。どいてくれないかな、邪魔だ。


「白野さんがどうして貴人様と一緒に登校しているの!?」

「…家の前に立っていた」

「しかも手をつないで仲良さげに!!」


…。知るか。私だって知りたいんだぞ。違う、放してくれなかっただけで。そう、意外と嫌じゃなかったししっくりきていたとか、そんなわけはない。


「白璃は俺の彼女だからな」

「俺のもんだ、貴人よ」

「は?」


…。


フリーズ。


「ま、待て。私が、いつ、貴様等の彼女になった」

「「今」」


…この兄弟めっ!こういうときだけ声をそろえるな。仲がいいのか悪いのか…どちらにしろ厄介だ。どこから彼女云々の話が出てきたんだろう。迷惑極まりない。


「私は了承していない。というかその話自体、初耳なのだが」

「言ってないからな」

「…貴様ら、一回地獄を見たいか?」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 昼、弁当を食べに屋上へ行こうとしたら教室の前に女子の山が出来上がっていた。な、何事だ?

素通りしようとしたら、女子の中心にいた奴に腕をつかまれ引っ張り込まれた。っ、最近この展開ばかりだ。そんなにつかみやすい腕をしているのだろうか。


「白璃見っけ」

「は、放せ!」


なぜか雅人に背後をとられ、抱きしめられ、頭に顎を乗せられる。クソ、放せ!話せばか。


「白璃のこと俺は諦めないから」


ボソリと耳元で囁かれる。


「な、何をだ?というか、やめろ」

「誰が止めるかってーの。じゃお姫様は俺がもらうから」


諦める諦めないって、何の話…フワッと体が宙に浮いた。お姫様抱っこ、という奴か!?違うそうじゃない放せ。


「おろせ」

「ヤダね」


あっという間に屋上へ連れて行かれた。重くないのか…じゃなくて。わざわざなんでこんな真似をされなくてはいけないんだ。降ろしてももらえないし。あ、でもお弁当は死守で来た。よかった…。


「…」

「ちょ、怒った?怒っちゃった感じ?」

「別に」


無言で弁当を食べていると、雅人が顔を覗き込んでくる。うん、今日もおいしくできた。


「怒ってないの?それが素なわけ?」

「さぁ」

「なぁなぁ、白璃食べていい?」

「…弁当なら」


い、いきなりコイツは何を言い出すのだ。食べていいって、私はお、おいしくない、ぞ。


「白璃を食べたいかなぁ」

「いいなどと、私が言うとでも?」

「思ってないけど、言わせるから」


雲いきが怪しくなってきたぞ。言わないからな、絶対。好きでもないのに。


「…やめろ」

「いーじゃんか」


押し倒された。

…貴様ら兄弟は、人を押し倒すのが、そんなに好きか。

何か問題を抱えていると、そっち方向に持っていこうとするのはやめろ。迷惑だ。


「…楽しいか?」

「当然に決まってる」

「なら、何故悲しそうな顔をしているのだ」

「そうか?そんな顔してるか?」


自覚なし…か。相当厄介な…渡辺、どうにかしろお前の会長じゃないか。こんなになるまで放っておくなよ。


「はぁ。貴様らは、そうやって厄介ごとを…私は相談所ではない。それに、そろそろ上からどけ。誰かに見られて勘違いされるのも困る」

「勘違いされてもよくね?誰かと付き合ってるわけじゃねぇんだろ?」


あのな…


「そういう問題ではないだろう」


スッと雅人は上から退いた。


「ほら、つかまれ」

「ありがとう」


手を伸ばしてくれたので、それにつかまり上体を起こす。


「で?」


「…白璃には関係ないさ。俺の問題だからな。俺が解決しないと」


「そうか。それなら良い」


なんだか、スッキリしない気がしなくもないが…まぁ良いか。良くない気もするが、私が知ったことではないのだろうな。


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