6話 試合の日
翌日。
今日は風堂貴人が言っていた試合の日。
迎えに来る、と言っていたが、本当に来るのだろうか。あんなにもひどいことを言ってしまったのに。この気持ちはきっと…不安、だ。らしくない。
部屋の窓から表通りを見ていると、風堂貴人が来た。本当に、来た。なぜ…ここまで私に関わろうとするのだろうか。自分で言うのもあれだが、相当面倒な性格をしているっていうのに。
「白璃ー!…いねぇの?」
「い、今行く!」
帰ってしまいそうな風堂貴人の様子にあわてて下へ降り、外へ出る。
「おはよ」
「おはよう」
…気まずい。私だけ、何だろうか。いや違う、風堂も気まずそうだ。
「…なぁ」
「なっ、なんだ?」
突然声をかけられて、驚いた。
昨日のことなら謝らないぞ。謝らないったら謝らないからな。
でも…風堂貴人が、謝ってきたら考えてやらなくもない。
「…やっぱいい、なんでもねぇ」
「そうか」
…そういわれると逆に気になるが。話す気はないのだろう風堂貴人から視線を逸らした。
「あ、あそこだ」
思っていたよりも大きかった。Uターンをして帰りたくなる。今更ながら、うかうかとついてきてしまったことに後悔している。
「…私は遠くから見ているから」
「え、ちょ、待て!そーやって遠慮しねぇで、ついて来いって」
「は?」
手をつかまれ、引っ張られベンチへ連れて行かれる。中も、広い。こんなところで、その…乗っ取りをかけた試合をするのか。それで、いいのか?
「ほら、例の図書委員長。俺が頼んだら、来てくれた」
「おお!うちの学校名物〝雪女″!」
…名物?
「風堂貴人、どういうつもりだ」
「みんなと仲良くなってもらいてぇーなって。な?」
「美人だなー」
「目の保養~」
なんだ…?サッカー部は。
やっぱり変人ばかりなのか?変人だからサッカー部なのか?
マネージャーの方を見ると、万年2位の奴を見つける。奴も顔を顰めている。私だって、顔をしかめたい。
よし、帰ろう。未練も何もない。もともと、うっかりほだされてしまったも同然で来たものだからな。帰ったところで何の役割もないし問題ない。
「…戻る」
「わぁ!?だ、ダメ!!ダメに決まってんだろ!?急に何を言い出すのさ!?」
「貴様の浅知恵に付き合うのはごめんだ。確かに、私が来ればやる気が出る云々は聞いていたが、なんというか、悪寒が走った」
「でも来てくれるっつったの白璃じゃん!」
「そうだが…」
「じゃ、そゆことで」
風堂貴人に押し切られ、マネージャーたちの方へ押される。…なんでだろう、押しに弱いわけではないのに、断れなかった。
「なんであんたが!」
「貴様に話す必要はなかろう」
というか私だって知りたい。むしろ貴様が聞いてこい。答えてもらえるならな。
ふっと鼻で笑ってしまった私は相当性格が悪いんだな。改めて自覚した。
「嫌よ!この私が知らないことがあるなんて…許せないの!」
…貴様は神か何かか。呆れた。前々から思っていたが、こいつと話しているとどうも疲れる。要因はもろもろあるんだろうが。
「黙ってないで何か言ったら?」
「…化けの皮がはがれてしまっているぞ」
「ひっ!?」
上面だけ見せているのならば皮をはがさなければ良いのに。
教室で風堂貴人が居るのにも拘らず私を怒鳴っていたからもう意味がないと思うが。
「…そういうわけなので一日よろしく」
「え、ええ」
試合は…どちらも頑張っていた、と言っておこう。
なんというか、2年のやる気が半端ではなかった。後もう少しで燃えそうなほど。比喩ではない。見ていて暑苦しかった。体育会系の思考を持ち合わせていないせいだろう。
風堂貴人がずば抜けてうまいこともわかった。ただのチャラ男ではなかったのか。部長になるだけはある、か。
「…楽しそうだ」
ポツリと、つぶやきが漏れた。遠目から見ても、楽しんでいるのがよくわかった。青春を満喫しているようで、うらやましくも思えた。らしくない。
「マネージャーはもう言わないわよ!?」
「勘違いをするな。試合が楽しそう、と言ったのだ。頼まれたってマネージャーなんてやらない」
「なんてって何よ!!」
「…特に深い意味はないが?そして試合が終わったみたいだぞ」
「あ、そうなの?」
…扱いやすいな。ちょろい。こんなやつではなかった、ような気がするが。
そして、意外だったのが、きちんとマネージャーの仕事をしていたことだ。その調子でいれば、落とせるかもしれないのに残念な奴。
「白璃!!どうだった?」
「……良かったのではないか?」
「その沈黙は何!?」
「別に…」
いちいちうるさい奴だ。後暑苦しいし汗臭いから、一歩以上離れてほしい。離れろ。近寄ってくるな。
「勝ったぜ!」
「知っている」
見ていたからな。
「…もうちょっとさぁ、なんか、ない?」
「おめでとう、よかったな」
「オゥ!!」
…面倒くさい奴。
部員とマネージャーに囲まれて幸せそうな風堂貴人。
場違いだな。帰ろう。静かに試合会場から抜け出す。




