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5話 風堂君、押し負けた。

「白野さん!あなたの居場所は図書室でしょう!」

「…」


教室についた途端、絡んできた女子たち。リーダーの女子は…当然のごとく万年2位の奴。私が、目障りなんだろうな。授業に出てすらいないのに1位をかっさらっていくから。


「目障りなのよ!あなたがいると、私が主席をとれないわ!」

「私は主席でないといけないから、譲ることはできない」


高校は、学費が必要だ。だが、私には学費など払う余裕がない。

だから、特待生制度のあるこの学校へ入った。つまり、妥協して2位でもいいなんて言っている場合ではないんだ。…譲ることができないわけではない。この女には譲りたくないだけだ。わがまま、何だろうな。


「白璃!」

「…風堂貴人」

「な、んだよ?」

「貴様は時と状況をよく見るべきだ。…女子が一段と騒がしくなる」

「…ワリィ」

「それから、馴れ馴れしくされるのはごめんだ」


風堂は少しムッとした表情で男子たちと話に行った。それで、いいんだ。もっと早くそうしてくれればよかったのに。


「貴人様に向かってあの言いようは何!?このっ!冷酷な雪女!」

「別に私が何を言おうと構わないだろう?用がないなら去ってほしい」

「この、クソ女!」


クソ女で結構だ。品が悪い女は嫌われるぞ。

久しぶりに受けた授業はやはりつまらなかった。

気づけば寝てしまっていたようで、放課後だった。


「…つまらん」


図書室へ向かう。

そして、誰もいないのを確かめ、噂の本を眺める。


本は白紙。

恋愛など、興味のない私だが、どこか寂しさを感じる。


「白紙…か」


もう、こんな本、手元にはいらない。


 適当な本棚へ戻そうと思って、ついでに返却された本を棚に戻す作業に取り掛かった。人があまり見なさそうな棚に本を押し入れようとした。別に、空間が足りないわけでもないのに嫌がるかのように反発して、本棚に収まらない。四苦八苦していると急に手から本がこぼれ落ちた。

 地面に落ちたソレは、風もないのにパラパラとページがめくれる。明らかな怪奇現象に自然と足が引けた。別に、怖がっているわけではない、と思う。中央付近のページを開きいたところでめくれるのは止まった。誰かが直接書いているかのように文字が浮かび上がっていく。えらく達筆だ。


映し出されたそれは。


「風堂貴人」


と一行だけ。その、黒々とした文字に動揺してか、手にかけた本がいくつか落下した。


「…どういう、ことだ」


呆然とつぶやく。風堂が、なんだっていう。どうたっていいじゃないか。別に、関係ない。私に、かかわりない。


「と、とにかく…本棚に戻してしまおう。この本も私なんかより、別の女子が持っていた方が幸せだろう」


もう一度本を適当に目のついた棚へしまおうとするが、隙間に入らない。だから、なんだっていうんだ。なんで、どうして?


「…何故だ、なぜ私なの。放っといてくれれば良いのに!」


私なんか、放っといてくれ…

本に恋愛のことを言われる筋合いはないんだ!恋をする気だってない。


「白璃?いんの?」


風堂の声が聞こえたので、とっさに本棚の蔭へ隠れる。

どうか…見つけないでくれ。固く手を握って祈る。息を殺して、気配を薄くする。


「いねぇんか?…ん?」


こ、こっちに来た!?どうして…。今は、なおさら会いたくないのに。

風堂の顔を、呆然と見上げる。見つからないような場所にいるのに、執念か何かなのか。なんで、見つけてしまったんだ。


「あ、発見~。どーした?この世の終わりみたいな顔して」

「別に。読みたい本がこの辺にあるはずだから」


下に散らばっていた本を拾い集める。落とし、てしまった。傷がついていないことを願おう。すました顔で、いられたと思う。間違っても、この世の終わりみたいな顔はしていないはずだ。


「カウンターに山ができてんのに?」

「私の自由だろう?貴様には関係ないのだ」

「はく…」

「大体、馴れ馴れしく白璃と呼ばれるのも嫌いだ。私は貴様に白璃と呼べなど、言っていない」


風堂が何か言おうとしているのも聞かず、図書室の奥へと逃げる。

1人でいい。独りきりっていいって言っている。放っておいてほしい。関わらないでほしい。知らない。知らないんだ。


「風堂貴人なんか、知らない。私は、独りで良いのだ」


腕に抱えていた本が急にズシリと重くなった気がする。

いや…本当に重くなっているな。っ、肩が痛む。そんなに軟じゃないと思っていたが、気のせいだったようだ。逃げてはいけない、と伝えてくるようで本を投げ飛ばしかけた。


「白璃!なんで壁、つくんだよ!自分から、離れるんじゃねぇ!」


ギュッと後ろから手首をつかまれて、たたらを踏んだ。なおも重くなっていく気がする本に舌を打った。捨ててしまおうか。いや、それは罪もない本に失礼だ。


「放せ!やめろ、私に近づくな!」

「どうして一人でいようとすんだよ」

「貴様には関係ない!」


やめてくれ、こっちに踏み込まないでくれ!泣きそうな、思いの中それだけを願う。来ないでくれればそれだけでいいんだ。もう、いっそのこといなくなってくれればいいのに。


「オイ!」

「知らない!やめろ、こっちに来るな!」


風堂貴人の手を無理やり振り払い、さらに奥へと逃げる。どんどん明かりが届かなくなってくる。この辺は、一つ一つの本棚の高いところまでみっちりと本が詰まっているから、明かりが届きにくいんだ。


「待てよ!」

「こっちに来るな!なぜ私と関わろうとする!」


ついに奥まで追い込まれた。両側は当然本棚だから、逃げ場はない。もし、運動神経が備わっていたら、風堂貴人の脇をすり抜けて逃げられたかもしれない。私には無理だ。

もう一歩下がろうとしたら、壁に踵が当たった。


「白璃、逃げてちゃ解決できねぇんだぞ」

「そんなこと、知っている」

「じゃあ!」


真正面にいる風堂貴人を睨み付ける。まっすぐに、おじけもしないで私を見ていた。射抜くような目に、奥歯をかみしめる。

そういう、のが嫌なんだ。ゆっくりと、言い聞かせるように述べる。


「だから、貴様には関係ない。中途半端な正義感を振りかざされても迷惑だ」


私は、人と、関わりたくない。


「白璃!」

「お願いだから…私と関わろうとしないでくれ」


少し、声が震えた。


「なん…」

「良いから、図書室から出ていけ。部活、あるのだろう」

「そうだけど…」

「出て行ってくれ!」

「…わかった」


風堂貴人も諦めたようで、図書室から出て行った。


 独りになるのがこんなにもつらいなんて、思いもしなかった。

自業自得だ。

でも、これで、いいんだ。


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