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13話 打ち上げ会

 翌日。文化祭の振り替えで、今日は学校がない。

そして今日は、文化祭の打ち上げをやるそうだ。…灰崎の家で。どうしてそんな話がまとまったんだ。聞くところによると、クラス全員が集まれそうな敷地だったから、という話だった。ならば仕方がない。仕方が、ないか。

正直行きたくないのだが、風堂貴人に誘われて、断ることができなかった。


「白璃ー!!迎えに気だぞー」

「ふ、風堂貴人?」


早くないか、来るのが。時間を決めていなかった私も悪いが…驚いた。

 とりあえず、動きやすそうな服に着替えて下へ降りたら、一昨日風堂貴人がくれたプレゼントボックスを兄さんが開けて顔を顰めていた。

居間に置いておいたのは失敗だったか。


「兄さん、どうかした?」

「いや。…後ろ向いて」

「は…?」


クルリと後ろを向かされると髪の毛をいじられて、首に何かかけられた。


「よし。これで良い。だって灰崎のクズの家なんだろ。馬鹿にされたら困るもんね。白璃の綺麗さをアピールしないと」


兄さんは、どうしてここまで灰崎家を嫌うのだろう。親戚なのだから、そう嫌わなくても…無理だな、私も嫌いだ。だけど、クズだなんて間で言わなくてもいい気がする。一体、兄さんとの間に何があるというんだ。


「…はぁ…?まぁ、いいです。ありがとう兄さん。いってきます」

「いってらっしゃい。また後で。それから男は獣なんだぞ」

「…?」


何のことだろうか?

怪訝な顔をすると兄さんは苦笑して私を玄関の外へ追い出す。待て、まだ心の準備というものが…無情にもドアは閉められてしまう。そんなに、私が嫌なのか兄さん。

というかまたあとで、だと?兄さんと会う予定なんてなかったが…まぁ、いいか。


「おはよ、白璃!!かわいいな!」

「…おはよう、風堂貴人」


ボーっと私を見つめる風堂貴人。だから、私はかわいくない。毎回、よく飽きないものだ。


「えっと…行こうか?」

「あ、ああ。って、それ俺があげた奴?」


箱の中身はペンダントだったようだ。

それで兄さんが顔を顰めていたのか…。

ここ2日接していて気が付いたが、あの人は若干シスコンが混ざっているからな。自分以外から贈り物を受け取っているのが気に食わなかったんだろう。独占欲が強い人、だ。


「そうだと思うが?いや、それでなかったら怖いのだが…」

「え、だって俺以外からも貰ってたら、してるの違っててもおかしくねぇけど」

「私は基本的に他人からモノを貰わない」


ニコリ、と笑うと風堂貴人は私から顔をそむける。失礼な奴。

他愛のない話を、喋っていたら灰崎の家へ着いた。

 相変わらず無駄なものがたくさんついた趣味の悪い豪邸だ。確かに、1クラスは余裕で入りる大きさだ。なるほど、会場としては悪くないのかもしれない。故人では来たくないが。


「入っていいのかな?ってか、うん。大きいな」

「そうだな」

「俺ん家よりは小さいけど」


貴様の家は、どんな大きさだ!?これより大きいって、よっぽど…もしかして、いいところのボンボンというやつだったのか?知らなかった。


「白璃ー?俺ん家の大きさなんてどうでもいいだろ?中入ろうぜ」

「あ、ああ」


なぜ私が考えていたことが分かったのだ?口にでも出してしまっていただろうか。そうだとしたら、少々恥ずかしい。

 中へ入ると、灰崎が玄関で張っていて私と風堂貴人を大広間へ案内していく。何も言ってこないのが、逆に怖かった。いつもならキャンキャン言ってくるというのに。心境でも変わったのか…あるいは、風堂貴人に幻滅したか、の2択だな。どちらでも私には関係ない。

どぎつい赤のワンピースが目にいたかった。もう少しやわらかい色の物にすればよかったのに、なぜそれを選んでしまったのか。


「あら、風堂君に白野さん。一緒に来たのかしら?」

「そうだけど?なんか悪い?」

「委員長。私が家から出たらこいつが居ただけだ。決して一緒に来たわけではない」


 キラと委員長の瞳が輝いた。なんだか嫌な予感がして、足を引く。

クルリと彼女は後ろを向き叫ぶ。そこには、どこから湧いたのはほぼ全員クラスメイトがそろっていた。さっきまで、離れたところで談笑していた、よな?


「皆さん、一緒に!!…せーのっ」

「「ツンツンデレツンデレツンツン♪」」


う、うるさいし私はツンデレではない。その察知能力は何なんだ。


「やっぱり8:2よね」


フゥと幸せそうなため息を吐きつつ委員長は額を拭う。


「…」

「目の毒」


風堂貴人が、灰崎が居なくなるとぼそりと呟く。そうだったかな、あれはあれで一種のファッションなんじゃないのか?


「はぁ、なんであんな奴に俺付きまとわれてんのかな」

「知らない」


知りたくもない。


「もう少しで時間ね、白野さん。いえ、白璃ちゃんと呼ばせて!私は利恵って呼んでいいから!」


委員長、もとい利恵が鼻息を荒くして私へ迫ってきた。これは了承しないと解放してもらえなさそうだ。


「わ、わかったから!近づかなくて良い!」


怖い。


「委員長だけずるーい!!」

「えへへ~」


文句を言った女子に勝ち誇った顔をする委員長…ではなくて利恵。

そんなに勝ち誇ることではない気がするのだが…。

そして、男子からもブーイングがでていることに疑問がわく。

…このクラスは変な奴が多いな。


『さて、みなさん、そろったようですね。ゲストで、白雅君に来てもらいました』


 叔父が司会役なのか、壇上に立つと話し出す。見たくもない姿を見てしまった。

クラスの打ち上げだというのに出張るのか…ほんと、目立つことが好きだな。視界に入れないように、目を伏せた。

 またあとで、ってこれのことだったのか。兄さん、忙しいのに暇だったのかな。

あいつが居なければ…。

 そんなことを考えてしまう自分の醜さが、嫌で。

だから、灰崎とはかかわりたくなかったのに。


 風堂貴人も、クラスメートも、私を勘違いしている。

私は、私の心は、醜い。

何度も自分だけが、苦労して、かわいそうなのだと、思ってしまいそうになる。

誰かのせいにして、自分の苦しさを消してしまいたくなってしまう。

今みたいに…叔父へ擦り付け、自分の責任を他人のせいにして、逃げたくなるのだ。

愚かで、醜い私だから、誰にも関わりたくないし、誰かと関わることで、気を許してしまうのが、嫌だ。


「白璃、どうかしたのか?気分でも、悪い?」

「いや、大丈夫だ。気にするな」


溜息をついたのが聞こえてしまったのか、心配そうな顔で覗きこまれた。

 風堂貴人は、どうして私のことを、こうやって心配するのだろう…。私は、何のお礼も、お返しも、することなどできないのに。


『白雅君は、私の今は亡き兄の子でして、小さいころから知っていますが、とてもカリスマ性に…』


うそつき。

貴様は、いつも、私と兄さんを見るのが嫌そうで、貶していて、そんなことを思っていたようには見えなかった。再度溜息を吐く。


「白璃?やっぱ、体調悪いんじゃないか?」

「だから…大丈夫だと、言っているだろう?わからないのか、風堂貴人」


兄さんが、叔父の隣に立った。

背丈の差が、凄いな。

女子からは黄色い悲鳴または歓声が上がり、男子からは諦めの混ざったため息が漏れる。中夜祭でも思ったが、有名になったんだな、兄さん。すごいな…。

兄さんは叔父からマイクをもらい話し始める。


『こんにちは。2-Aの喫茶店はすごかったよ。ほんの少ししかいられなかったけど、丹精込めて作られたのがわかる場所だった。そうだろ、華香』


一瞬、誰にもわからない程度に顔をゆがめると兄さんは灰崎の名前を呼ぶ。


「はいぃ!!白雅君!」


ああ…兄さん、絶対になれなれしく名前を呼ぶなとか、思っただろうな。


「なぁ、白璃。お前と白雅さん、似てないか?ってか、身内ってそういうこと?」

「さぁ?」


兄さんと似ている、か。それは嬉しい。なんとなく、是と答えるのが嫌ではぐらかした。何故かはわからない。

兄さんは壇上から降りるとまっすぐ私の方へ歩いてくる。


『ああ、それからね。僕は君が呼んだから来たんじゃないんだからね?』


「こっちに来てるぞ?」

「そうだな」


『僕が来たのは、大切で愛しい人のため…だからね、白璃?』


バッと視線が突き刺さる。


「…誤解を招くような言い方は、しないでもらいたいのだが」

『うん?そう、じゃあ、大切な妹』

「…そう、だな」


他の人の驚いた顔とどよめきが、波となって伝わってくる。


「白璃ってやっぱ、白雅さんの妹だったのか」

「そうだが」

「確かによく見れば、似てるわね。特にこうやって横に並んで立ってると」

『それはうれしいな』


にっこりと兄さんは利恵に笑いかけた。

利恵も笑顔を返す。

…なんだろう、悪寒が走った気がしたのだが。

気のせいだと、思いたい。後で利恵に何を考えていたのか聞くべきか否か…否、だな。


『あ、叔父さん。マイク返しますね。僕も遊びたいですし』


兄さんは叔父へマイクを返し、私の頭をなでると遠巻きに見ている女子たちの方へ歩いて行った。


「兄さん…」


何を考えているのだろう。理解できない。


「白璃、俺らも混ざろ」

「ああ…」


風堂貴人に手を引っ張られ、わいわい騒いでいるところへ合流する。


「ね、ねぇ白野さん!!白雅さんって、どんな人だったの?」


利恵の友人が興奮気味に聞きたそうにしている女子を代表して聞いてきた。そわそわと、している。かわいい、な。


「…兄さんはつかみどころのない人。後、猫みたいに自由な人」

「そうなんだ!じゃあ、白野さんとは仲良かったの?いつからアイドルをやろうと思ってたのか知ってる?」

「兄さんは、私には甘いよ。歳も離れていたし…。だから、たまに構ってくるのが迷惑になったけれど、それ以外は仲が良かったかな。アイドルになろうと思ったのは…?なぜだったのだろうか。…忘れてしまったみたいだ。すまないな」

「ううん!!いいの!白野さんとおはな」


その女子は周りの女子にバッと口をふさがれて、引きずられていった。

私と、なんだ?気になるが、様子からして聞いてはいけないことなのだろう。彼女も、周りに謝っているし…聞かなかったことに、しよう。


「なんだったのだろう?」


首をかしげていると風堂貴人が苦笑しながら話しかけてくる。


「さぁ?白璃は人気があるんだぞ。ファンクラブだってあるんだ、知ってたか?」

「知らないぞ、そんなこと!」

「おっと、じゃあ言わないほうが良かったか?」

「…微妙なところだな」


知っても困るし、知らなかったら知らなかったで、なんというか…気持ち悪いな。


「白璃はかわいいからさ。話したい奴はたくさんいるのに、その独特な話し方と冷たそうな雰囲気に話しかけんのためらう奴が多いんだ。ちょっと笑ってみ。そしたら話してくるやつ、増えるぞ」

「迷惑だな。大体なぜ貴様はそんなにも私のことに詳しいのだ?当事者よりも知っている…ストーカーか?」

「なっ!?え、ちが!お、俺はただ…!!」


面白いほど動揺する風堂貴人に思わず笑みが浮かぶ。してやったり、だな。


「笑った…」

「あの白野さんが…!?」

「え、嘘、見逃したっ!」


周囲から漏れる囁き。

…私に聞こえていたら意味がないと思うのだが。というかそんなに珍しいか?ああでも、笑わない、ものな。


「むぅ」

「どした?」


せっかく笑えたのに。


「なんだかなぁ…」


ふと視線を感じたので顔を上げた。叔父がバルコニーの方で顔を険しくして立っているのが目に入ってきた。あ。

私と目が合ったことに気付いた叔父は、私を手招きした。


「…風堂貴人、誕生日プレゼントをありがとう。君は、私にたくさんのモノをくれた。感謝する」


集まってきたクラスメートの輪から抜けつつ風堂貴人にそっとつぶやく。

叔父が私を呼ぶのは…期限が来てしまったのだろう。何も今でなくても、と思うが、今だからこそ、なのだろう。せっかくの楽しい気分に水がさされた。


「ちょ、白璃!?今のって…」


風堂貴人の驚いた声は無視をして、叔父とともに外へ出た。

太陽に雲がかかって、薄暗くなってきた。じめりと湿っている空気にげんなりとする。雨でも、降りそうだ。さっきまで快晴だったというのに。



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