12話 文化祭(後)
翌日。今日も文化祭だ。…憂鬱だな。昨日が濃すぎて、疲れてしまった。
「白野さん、今日は、メイドね!!」
「委員長…」
「白璃のメイド服姿かぁ~。昨日も見たけど、かわいいよな」
「風堂貴人!そういう余計なことは言わなくても良い」
全く。
委員長の目が輝いて怖くなるだろう、そういうことを言うと。それに、私はかわいくない。お世辞はうれしくない。
「まぁまぁまぁ!!フフフフフフフフフフフフフフフフ」
ぎらぎらと目を輝かせた委員長が…おそらく妄想の世界へと羽ばたいていった。
「い、委員長…こちらの世界へ戻ってきてくれるとありがたいのだが…」
「フフフフフフ…おっと。さて、もうちょっとで開店時間よ!みんな、がんばりましょう!!」
「「おおー!!」」
鼻血がタラリと垂れているので、締まりがない委員長の号令となったが、盛り上がるクラスメートたち。この一部に混ざっているのだともうと少しうれしくも思ったり…いや、そんなことはない。
…鼻血が垂れていることには誰も何も言わないのだな。あえて触れない、というべきか。
「白璃!一緒に店の前に立ってようぜ?」
「…客寄せに?」
「おう!」
「仕方ないな」
風堂貴人と2人で立っているのは正直気が進まないが…委員長の方が怖いからな。委員長が怖いから仕方ないんだ。決して進んでやっているわけじゃ…ツンデレでもない、からな。
「おや、白野さん。風堂君と客寄せですか?またまた…とても効果がありそうですね」
渡辺が通りかかって、話しかけてきた。暇人なんだろうかコイツは。よく、みつけてきたな…あと、メイド姿を見られたくはなかった。
「渡辺か。…生徒会のほうは良いのか?」
「ええ。会長になんか付き合ってられませんから。クラスの当番ですよ。白野さんも風堂君と一緒に来てくださいね」
「なぜ、風堂貴人と行かないといけないのだ」
「いーじゃん白璃。一緒行こうぜ」
「…何故?」
「昨日、結局遊んでねぇだろ?たまにはさぁ」
「嫌だ」
「なんで!?俺のこと、そんなに嫌い?」
「いや、別に貴様が嫌いなわけではなくて…じゃない!何を言わせているのだ!」
危ない。口が滑った。違う、私は認めていないから。いや、もうすでにアウトなのだが、気持ちの問題というか…。頭を振って、ゆるんだ気持ちを切り替える。このままじゃ、絆されてしまいそうで怖い。
「「デレたっ!!」」
教室から覗き見、盗み聞きしていたらしい奴等が叫んだ。聞かれてたのか。死にたい。
「誰がだ!というか今叫んだのは誰だ!絶対一人ではなかっただろう!?」
「「ツンツンデレツンデレツンツン!!」」
何の呪文だ、それは。やめろ気色悪い。
「僕はお邪魔なようなので、もう行きますね」
「あ、ああ…」
……って、しまった。渡辺に逃げられてしまった。
「あら、みんなは8:2の割合が好きなの?」
フフフと笑いながら、委員長が風堂貴人の周辺へ言う。8:2って、いったい何乃割いなのだろうか…想像はつくが、考えたくないな。委員長、おそるべし。
「い、委員長!?いいから、きちんと働け!」
「白璃がデレたぜ!!ヒャッフー!!」
「風堂貴人!!うるさいぞ!」
「一番うるさいのは白野さんよ」
「委員長…」
くそ、味方が居ない。
「まぁ、白野さんをからかうのはここまでにして、みんな、きちんと働きなさいよ。さぼった奴は…そうねぇ、どうしようかしらぁ」
怖い!その含み笑いが怖いぞ、委員長。
「人だかりができているでしょう。ちゃっちゃと働きなさい、野郎ども!」
「「イエス、マム!」」
ビシッと敬礼をした男子どもは、教室の前にできた人だかりを店へ案内していく。
なんだかんだで、ノリがい奴等だ。
現在の時刻は午後2時。
客の人数も減ったので、シフトを抜けて良い、と委員長に言われた。ほんとに、いいのだろうか、と確認したところくどい!と怒られてしまった。素直に甘えることにする。姐さん、と呼ばれているのが納得の漢気だった。
「白璃ー、一緒に遊ばねぇ?」
「…なにをしてだ」
「ん~?何がいい?」
「…貴様が誘ったのではないか」
「え、いいのか!?」
「…誘っていたのは貴様ではないか」
なんなのだ、コイツは。
貴様が持掛けてきたのに、驚くとは…失礼な奴だ。
「じゃあ、屋台行こうぜ!昼飯食ってねぇだろ?」
「ああ…だが、別に食べなくても」
「ダメ!成長しねぇぞ!」
これ以上成長しないだろうに。どこを成長させるっていうんだ。
「…」
「さ、行こうぜ!」
腕をつかまれ、風堂貴人に引きずられて校舎を出る。
「痛い」
「悪ぃ。何食う?」
「…クレープ」
「OK」
風堂貴人は、クレープ屋の行列に躊躇いもなく並ぶ。すごく、人だかりがあるのに。わざわざ私なんかのために、どうして。どうして、ここまでするんだ。仲良くなっても何も得しないだろう?
「風堂貴人。別にクレープでなくて良いから、適当に何か食べよう。時間がなくなるぞ」
「え?白璃食べたいんじゃねぇの?」
「…家で作った方が美味いのを作れるからな」
「えー!!あ、今度食いに行ってもいいか?」
「…気が向いたらな」
いきなりなんなのだ、コイツは。
遠慮というものを知らないのだろうか。
と…まぁ、昼飯を食べて、適当に風堂貴人と学園祭を回る。成り行きで、一緒なだけで…湧き上がってきた諸々を奥底へしまい込んだ。
「白璃、楽しいか?」
「ああ…」
なぜいきなりそんなことを聞いてくるのだろうか。
「良かった」
「何がだ?」
「ちょっと、無理やりやらせてる気がしてよぉ」
「私は…やりたくないことは、やらない、と断るから、貴様が気にすることではない」
「そっか」
ニコニコと笑いだす風堂貴人。
いきなりなんだ、気持ち悪い奴だな。
話のネタがなくて、会話が続かない。コミュ障極めり、といったところだ。仕方ない…私からも会話を振るか。
「貴様は、楽しんでいるか?」
「おうとも!今、白璃とこうして学園祭を回れてるだけで幸せだね!!」
「そうか…昨日の、プレゼントの礼もしないといけないな」
「良いよ、別に!!遅めの誕生日プレゼントだって!!」
「…そうなのか?」
「そうなの!」
「わかった…そういうことにしておこう」
「そうそう」
…誕生日のこと、よく覚えていたな、コイツは。
嬉しい、かもしれない。




