UFO
そのUFOは円盤と言うよりも形も大きさも冷蔵庫のようだった。地球近辺に突如現れると2週間ほど静止衛星軌道にとどまっていたのだが、すぅーっと北米大陸を狙って緩やかな降下を開始した。大気圏に突入すると高度1キロ近くで降下をやめ、人口密集地を次々と移動しはじめた。
しかし、目視どころか如何なるレーダーもUFOの存在を見つけることは出来なかった。
時を同じくして奇怪な事件が起こるようになった。似たような年格好の若者を中心として突如着ている衣服がぼろぼろに崩れてしまうと言うものだ。いきなり丸裸にされてしまうという当事者にとっては最悪の事件だ。自宅でならまだしも、街を歩いているときにも発生し警察も犯人はおろか手段すらわからないとお手上げだった。
しかし、アメリカ南部の田舎町でこの事件は終わりを告げることとなる。
丸裸にされた男性の前にUFOが姿を現したのだ。そして扉を開き、UFOの中から金色の金属板をふわりと空中に浮かべた。
最近流行っている全裸事件に巻き込まれたうえに、冷蔵庫がいきなり現れる。被害者の男性は意味がわからず、陰部を両手で隠すという反射的な反応しかできなかった。
彼には人に言えない悩みがあった。陰部に毛が生えていないのだ。カツラをつけることもできずどうしようもなかった。それがいきなりさらされたのだ。目の前でふわふわ浮いている金属板も何なのか、すべてが理解を超えていた。
もうこのままだと発狂しそうだと感じかけたとき、冷蔵庫が話しかけてきた。
「あのー、受け取って欲しいんですどー」
「しゃ、しゃべった… 冷蔵庫がしゃべった」男性は、発狂寸前から無理矢理引き戻されたようにつぶやく。
「あのー、これ、受け取って」冷蔵庫がまたしゃべるのを途中でさえぎって、男性はハテナマークをばらまきながら次々と話し始めた。
「なぜしゃべる、受けとれって、何を、何で俺なんだよ、て言うか服を返せよ」
「喋るのはそうしないとこっちが困るからですよ、電波解析とかちょっと苦労しましたけど音声交流するってわかれば後は十分にサンプルを集めれば会話するぐらいのことは出来ますからね」
「喋るのは、なんかわかんないけど、良いとしよう。なんで俺なワケ?」男性もちょっと落ち着きを取り戻してきたようだ。
「いやー探すのに苦労しました。たいがいの人が身体に布を付けているもんだから、こっちは確認のために取り除かないといけないし、手間でしたよー、取り除いたらなんかちょっと違うし、困ったんですよー」
「ちゅうと全裸事件の犯人はあんたか。何を確認したくて服を消したんだよ」
「だから、これですよ」間で浮かんでいた金属板が小刻みにふるえる。「ここにあなたが書いてあるでしょ」
「なにこれ、見たこと無いけど。確かにここに書いてある裸の男って俺に似てるけど」
「なんですか、自分で出しといて忘れちゃうなんて無責任ですよ。第一、こんなのを出すだなんてどうかしてます。宛先もなければ料金も払ってない。だからわざわざ返しに来たんです」
男性は金属板を手に取ると、じっくり眺めた。どこかで見たような気がしたがどうにも思い出せない。
「これを受け取ればいいわけ?それで終わり?」
「ええ、とりあえずお渡ししましたからね、あとこれにひっついていたがらくたは後日別のものがお返しに来ますから、それを受け取ってもらえば完了です。ああ疲れた」
冷蔵庫はふわりと浮かび上がると加速しながら空の彼方へ消えていった。
金属板を片手に帰宅して服を着ると金属板を片手に新聞社へ向かった。事の顛末を記者に話すと彼は金属板を手にとって深いため息をついた。
「これは20世紀の後半にアメリカが打上げた宇宙探査機パイオニアに取り付けてあった金属板です。これをご覧なさい」
当時の資料をどこからか持ってくると、そこには色あせてはいるもののそっくりの図案があった。
「地球外生命体へのメッセージです。まさか返しに来るとは。せっかくの交流のチャンスが失われてしまった」がっくりと記者は肩を落とした。
「いやいや、なんだか知らないけど後日のこりの荷物を持ってくるって言ってましたよ」男性が言うと
「それが最後のチャンスです。そのときに地球が文化交流を希望していると伝えることが出来れば、人類の飛躍的な進歩です」
果たして数日後、男性のまわりに様々なエージェントたちがひしめくようになった。彼らはもてる能力をすべて発揮して異星人との交流に備えるのだ。
それから数週間もしただろうか、男性の上空から風船のような大きな物体が舞い降りてきた。男性の目の前でふわりと弾むとぱちんと音を立てて探査機が姿を現した。そこには、送り状も説明をしてくれる何かも見あたらなかったという。
でも、まだあきらめるのは早い。パイオニア探査機は2機送られているのだ。次こそは…