王様! 出番がちょっとしか無いですよ! (三章 魔物編)
人間も人間同士で争うように、同族であっても共存出来ないことも有る。
それと同じように、魔物にも色々といるものである。
同胞たちのために戦い続けたゴブリンの王……。
その王の遺志を継がんとするも、仲間たちの死に……勝てないと分かっていても殉じる道を選んだゴブリン……。
同種が倒されると保身を第一に考え、逃走するリッパーコルト……。
同種であっても、自分以外を雑魚と……無能と蔑むウォルグ……。
魔物とて心が有るため、やはり考え方も生き方もそれぞれ違う。
だから、争うよりも……自分たちの勢力拡大よりも、のんびりと生活することを選ぶ魔物もいるのである。
「プイッ!(到着!)」
「プイー!(お腹空いた!)」
「プイッ(我慢しろ)」
「プイッ(広い山なう)」
「プイッ……プイッ?(この山……どう思う?)」
「プイィ……プイッ(とっても……大きいと思う)」
数体の子豚が、広大な山を見上げながら、プイプイと騒がしく鳴いている。
見た目は二足歩行が出来るだけの子豚である。
体長は八十セントを少し超えるぐらいだろうか? つぶらな瞳とピコピコと動く耳、豚鼻の下には鋭い牙が生えそろ……ってはおらず、辛うじて牙かな? と言えるかも知れない小さな歯が並んだ口が有る。
お腹はぽよぽよと柔らかそうに脂肪を蓄えており、ふっくらとしている。歩いても走っても、ぽてぽてと表現されそうなぐらいに短い四肢、お腹と同じように柔らかそうなお尻からは、くるりと円を作っている尻尾がちょこんと生え、その子豚の全体は桃色の和毛に包まれている……。
「プイ!(山登り!)」
「プイプイ?(そもそも何でこの山に?)」
「プイ? プイプイ(さあ? 何か惹かれる)」
「プイ(魅了なう)」
「プイプイプーイ(魔物としての本能が、何故か騒ぐ)」
「プイプイ?(迷宮でも有るんじゃない?)」
「プイ!(出発!)」
「プイ!(はーい!)」
「プイ(出発なう)」
プイプイプイプイと鳴きながら、子豚たちは山を登り始める。
……とても騒がしいが大丈夫だろうか?
他の魔物に襲われなければ良いのだが……子豚たちは気にせずに、プイプイプイプイ鳴きながら進んで行くのだった。
「プイィ……(お腹がぁ……)」
「プイ!(空いた!)」
「プイプイ(むしろ疲れた)」
山を登り始めて数十分……子豚たちの中に、空腹と疲労を訴える者が現れる。数十分も登り続けたと言うと中々だと思われるが、ぽてぽてと進む子豚たちの数十分では、残念ながら大して進んではいない……。
それでも、彼らにとっては頑張った方なのだろう……満身創痍と言わんばかりである。
「プイ!(頑張れ!)」
「プイ(ファイトなう)」
「プイー(無理ー)」
「プイィー(食べ物……)」
プイプイプイプイと鳴き合う子豚たち……。
ついには、ぽよぽよなお腹を重そうに震わせながら、へたり込む始末である。
「プイ(もう無理)」
「プイプーイ!(あと少し頑張ろう!)」
「プイプイ(頑張って進むなう)」
何体かは励ますも、何体かは疲れて動けない。
励ましている子豚たちも、どうしようかとプイプイプイプイ鳴き続ける。
「プイ……(とりあえず……)」
「プイプイ!(木の実がなってる!)」
「プイ!?(本当!?)」
「プーイ!(わーい!)」
疲れてへたり込んでいた子豚たちに激を飛ばそうとするが、それより早く木の実のことが伝えられる。
へたり込んでいた子豚たちは、木の実の報告を聞くや直ぐに立ち上がり、プイプイ鳴きながらぽてぽてと走って行く。
「……プイィ(……動けるのね)」
「プイプイッ(そういうものなう)」
励ましていた子豚も暫し呆然としていたが、直ぐに仲間たちの下にぽてぽてと向かって行った……。
プイプイもにゅもにゅ……。
プイプイちゃむちゃむ……。
鳴くのか食べるのか一つに絞って欲しいが、彼らには無理なのだろう……鳴きながら木の実を食べている。
「プイ!(美味しい!)」
「プイ!(甘い!)」
「プイィ!(幸せ!)」
余程木の実が美味しいのか、子豚たちは一段と騒がしくプイプイプイプイ鳴き続けている。他の魔物が呼び寄せられそうなほどに騒がしいが、子豚たちにとって運が良いことに、この山の魔物たちは数日前にかなりの数が討伐されており、子豚たちが鳴き続けていても安心なほどに魔物は少数しかいない。
それを知っているわけでは無いだろうが、子豚たちはプイプイもにゅもにゅと鳴きながら食べている。正直……危機感がかなり足りていない気がするが、この山まで無事にやって来れたぐらいだから、一応は何か出来るのだろう。
プイプイもにゅもにゅ……。
プイプイちゃむちゃむ……。
……出来る……はずである。
「プイプイ(お腹いっぱい)」
「プイプイ!(美味しかった!)」
「プイプイ!(じゃあ出発するよ!)」
「プーイ(行くなう)」
「プーイ!(はーい!)」
「プイプーイ(頑張るよー)」
たくさん食べて満腹になり、疲れもとれたのだろう……再びぽてぽてと歩き出す。
更に数十分歩き続けた……。
日は沈み始めており、鬱蒼と茂る深緑によって辺りは薄暗くなってきている。
「プイィ……(暗い……)」
「プイプイ(怖いよう)」
「プイ(夕暮れなう)」
いつの間にか、獣道のような入り組んだ道を進んでいた。ピコピコと動く耳には川の流れる音が届いている。
夕暮れ時の獣道を進む子豚たちは、怖がりながら歩いていた……。
だから……注意力が散漫になっていたのだろう。
向かって来る何かに……彼らは気付かなかった!
そう……『魔物』には確かに出会わないだろう……しかし、『魔物』以外にも出くわさないと言う保証はどこにも無い!
そのことに彼らが気付くのは……余りにも遅過ぎた時だった!
「……えっ?」
「子豚……であるか?」
「……プイ?(……えっ?)」
「…………」
「…………」
「シーナ殿?」
「きゃあぁーーー!!!」
「プイーーー!?(何ーーー!?)」
「プイ!!?(何々!!?)」
「プイ(パニックなう)」
子豚たちが出会ったのは小柄な少女と『鉄の鎧に身を固めた騎士』だった。お互いに見つめ合い……暫しの沈黙の後、突然少女が悲鳴を上げ……先頭の子豚を何故か捕まえた。
その悲鳴に子豚たちも驚き硬直していたが、捕まった子豚が鳴き叫ぶと同時に残りの子豚もプイプイプイプイと騒ぎ出す。
「シーナ! どうした? ……って、何だ?」
「…………?」
そのシーナと呼ばれた少女の悲鳴が聞こえたのか、男と石造りの人形が茂みから姿を見せる……が、プイプイと鳴く子豚たちを見て固まってしまう。
「お、お兄さん! お兄さん! 子豚さんです! 子豚さん捕まえました! 可愛いです!」
「プーイー! ププイー!(いーやー! 助けてー!)」
固まっている男に向かって、シーナと呼ばれた少女は捕まえた子豚を見せる……捕まった子豚は鳴き……いや、泣き叫んでいるばかりであった。
月明かりが照らす草原を、無数の何かが突き進んでいる。
その無数の何かは、月明かりを反射する淡い青色の甲殻に身を固め、両手には鋭く硬い鋏を……頭上に構えられた尾の先端には針を備えた蠍の姿をした魔物たちだった。
その魔物――リッパーコルトが無数に集まり、一つの塊となって動く……その動きは草原の緑色の中に青い波が生まれているかのように統制されている。
「ギギギ……」
その青い波の中に他の波よりも高く、色濃い部分が在った……。
他の波――リッパーコルトたちよりもやや大きく、甲殻の色も濃い……リッパーコルトの上位種、コルトガラフたちである。
そのコルトガラフたちに守られるように、更に大きいリッパーコルトが群れの中心に陣取っていた……青い波の中で唯一紫色に染まっており、群れの中心にいるにも関わらず、その巨躯を隠し切れていない。
両手の鋏は更に大きく鋭さを増している……が、何より他のリッパーコルトたちと違うのは尾と針だろう。
他のリッパーコルトたちのように鋭い尾針を持ってはいる……が、針の形状が違い過ぎる。
そのリッパーコルトの針は先端だけでは無く、全体が刃物のように鋭い。更にその鋭い刃物のような形状は、針だけに終わらず尾にまで続いている。
針から尾までが一本の刃のようである……その形状と見かけ通りの凶悪な切れ味から、その魔物は処刑の刃の名を持って呼ばれる……。
リッパーコルトの変異種――ギロチンコルトと。
ギロチンコルト率いる群れは、迷い無く目的地を目指し草原を突き進む。
敵対者の少なくなった……広大な山へと……その山を自分たちの物にせんと……。
迷宮情報
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