王様! リリィちゃんの出発ですよ!
〔王様ー! おはようございますですよー! 迷宮の『め』は、おはようございますの『め』ですよー!〕
「おはよう迷宮……だが、全く関係無いな……と言うよりも、『め』は無いじゃないか……」
〔有りますよー!〕
「どこに?」
〔皆の……心の中にですよ!〕
「……有ると良いな」
迷宮のいつも通りの挨拶を聞いてから、ふと考える……動けない……と。
両腕をシーナとリリィによって無力化され、シーナ側の足はマオにしがみつかれている。リリィ側の足は、リリィが足を絡ませている……完全に押さえ込まれたようだ。
三対一では勝ち目が無い……寝起きの頭で考えるも、やはり頭が働かず、結局三人が起きてくれるのを待つしか無かった。
ベッドを早く増やさねば……切実に。
〔ざっつあぷりちーふらわー♪〕
……朝から楽しそうな迷宮が、少しだけ羨ましかった。
「リリィはいつ頃に出発するんだ?」
朝食も食べ終わり、一息入れてから予定を聞く。
直ぐに出るならば見送りをするが、そうでないならば昨日の気になる言葉……進撃と言う冒険者について聞きたい。
シーナの気にしていること――貴族のことだが、これはリリィが出発してからで良いだろう。リリィがいると言い難いことかも知れないため、そう配慮する。
「昼過ぎに……出発する」
「そうか……なら、昼食までは一緒に食べられるな」
「うん……一緒」
一緒が余程嬉しいのか、一緒と言う時のリリィはふわふわと顔を綻ばせている。一緒か……うん、僕も嬉しいと思ってしまう……幸せになる魔術のようだな、一緒と言うのは。
「じゃあ……出発までの間に、昨日言っていた進撃について、もう少し教えて欲しいんだが……」
「うん……分かった」
それから進撃の異名を持つ冒険者のことを聞いた……が、かなり強力な冒険者らしい。
ギルドに有る、ランクと言うギルドの人物評価は、最高ランクのSらしい。ギルドを余り知らない僕にはどう凄いのかが分からないが……。
大抵の魔物の攻撃を受けても怯まず、むしろ殴り殺す。正直……進撃の方が魔物みたいだと思ってしまった。
自身の背丈と同じぐらいの大剣を振り回し、リッパーコルト種すらも真っ二つにする。鉄の剣も弾いたリッパーコルト種を両断って……。
『チャリオットマーチ』と呼ばれるギフトを所持しているらしく、戦術評価の成長率と戦術評価自体を上昇させる効果が有るとされ、その効果からか……今現在生きている人間の中で、唯一戦術評価が200を超えているらしい。……何、その化け物。
聞かされるほどに規格外だと理解させられる。
そんな冒険者が山道を数人の冒険者と歩いていたらしいが……フルトホルンの街に続く方に向かっていたようで、正直……助かったと思う。
僕たち全員で戦っても勝てないリリィが、勝てないと言う進撃に出会ってしまったら……。
……早く迷宮評価を高めよう。
迷宮評価が5で出来ることが一気に増えたのだから、10でも何かが増えるだろう……数日の内に、せめて10まではいきたいものだ。
「リリィ? この山のどこかで、鉱脈を見たことは無いか?」
「鉱脈……? ……ごめん……分からない」
「いや、良いんだよ。ありがとう」
リリィなら見たことが有るかな? と思って聞いてみたが……当然か。
リリィは魔物討伐に来たんだから……。
鉱脈は欲しいんだがなぁ……ブロンズ以上の防人たちを作成したい……と言うよりも、作成しなければまずい。
ウッドやストーンが主力では正直厳しい。マイムマイムの効果が有っても、強力な侵入者には対応出来ないだろう。
何より、マイムマイムの効果による評価の底上げを前提にすると、僕が必ず前線にいなければならない。
迷宮の急所である僕が、のこのこと侵入者の前に出るなど、殺してくれと言っているようなものだ。
それに前線にいないからこそ出来る、全体を見ながらの命令を出すことも難しくなってしまい、戦略の劣化に繋がり、結局全体的な戦力の低下を招く。
やはり切実に迷宮評価は高めたい……そのため、3階層を迷宮変化しようとも思うが……今はまだ止めておきたい。
3階層の変化方針が定まっていないのも有るが、3階層もしっかり変化させて道が入り組んでしまうと、流石に入り口までが遠い……。
少なくとも迷宮変化は、迷宮の出入りが何らかの方法で容易になってからになるだろう。
「となると……魔物討伐が必要だな」
「討伐……?」
「迷宮と僕たちの未来のために、迷宮評価を高めないといけないんだ」
「……私が……倒してくる?」
「それは嬉しいけど……」
リリィを利用しているようで心苦しい。
「私も……皆のために……何かしたい」
「……そう……だな。
じゃあ、『皆』で行こう」
「と言っていた時期が、僕にも有りました」
「お兄さぁん……」
リリィとの話し合いが終わってから、皆――僕とマオとシーナとリリィ、更にストーンマリオン5体とウッドマリオン5体で散策に出た……が、僕とシーナがいらない子になっていた。
「……!!」
「うん……いるね」
散策の最中にマオが指差し、それにリリィが同意すると、直ぐにリリィが消え、数秒も経たない内に再び姿を見せる。
「あっち……ウォルグ」
そんな言葉を伝えながら……。
行ってみると、首無しのウォルグの死体が倒れていた。
直ぐにストーンマリオンとウッドマリオンに頼んで運んでもらう。
数体で、よいしょ……よいしょ……と迷宮の入り口まで運んで行く。
その後も、マオが指差し、リリィが消え……再び現れると魔物が倒れている……の繰り返しで、ウォルグを4体、リッパーコルトを3体、ランバウトを2体、迷宮へと運び込んだ。
「……僕たちはいらないな」
「そうですね……あっ! お兄さん、ワタタン草を発見しましたよ。
採取しましょう!」
「……迷宮の主、迷宮の外に出たら駄目男である……。
何だろう……目から汁が止まらない」
その後、迷宮に帰り運び込まれた死体から、迷宮パワーを手に入れる。迷宮パワーが62増えた。
「どうだ迷宮? 迷宮評価は上がったか?」
〔うぅ~……まだみたいです〕
「そうか……なら、魔物をまだ倒さないといけないが……しかし」
「魔物……もう……見つからない……」
迷宮評価がまだ上がらないため、魔物を倒したい……が、リリィの言った通り、魔物が見つからない。
リリィが近辺の魔物を殲滅したこともだが、進撃たちも山にいたことから、魔物討伐をしていたと思われる。
強力な二組の討伐者が、同時に魔物討伐に当たっていたのだから、当然魔物の数は少なくなっているはずだ。
ゴブリンたちも一切見掛けないことから、ゴブリンたちも討伐されたと考えるべきだろう。
「迷宮、魔物はまた増えるのか?」
〔そう……ですね。魔物が少ないと言うことは、敵対勢力が少なく自分たちの領域拡大が容易と言うことですから……暫く経ちますと、再びこの山に魔物が住み着くと思いますよ。
その上、王様もいらっしゃられますから、かなり早い内に魔物たちが増えると思いますよ?〕
「そうか……なら、暫くは散策しながら魔物を探すか」
……侵入者が来ないからって、侵入者を探す迷宮の主……微妙に可笑しい気がするが……仕方ない。
暫くの間、朝から昼前までは散策に励むか……。
「じゃあ……依頼完了……報告しに行く」
今後の方針を決めてから、昼食を食べ終わった昼過ぎにリリィが出発する旨を伝えてくる。
依頼内容は、フルトホルンの街とラントペットの町を結ぶ山道付近の、魔物の殲滅であり、魔物が極端に姿を見せない以上、依頼内容を完遂したと判断しても良いらしい。
……そうリリィに聞いたが、嘘か本当かを証明することが出来ない依頼なため、信用出来る人物にしかこのような形での依頼はしないだろう。
その依頼を頼まれるほど、リリィは信用を得ているのだろう。
尤も、リリィと少しでも接したら、誰だって彼女が信用出来る人物だと気付くだろうが……。
「リリィ、気をつけてな?」
「リリィさん、頑張って下さい!」
「……!」
〔リリィちゃんの出発ですよー!〕
「うん……頑張る!」
むんっ! と拳を握って意気込むリリィを皆で見送る。胸の前で拳を握っているため、二つの果実が形を変えている。
シーナ……リリィの顔を見ようよ。
そのまま、名残惜しそうに歩き出したリリィに言葉を掛ける。
「リリィ、いってらっしゃい!」
「リリィさーん! いってらっしゃい!」
「……!!」
〔いってらっしゃいですよー!〕
「あっ……!」
一瞬、何を言われたか分からないと言うように、顔をきょとんとしていたが、直ぐに理解して……。
「いって……きます!」
見てるこっちが幸せになるような、幸せだと伝わってくる笑顔と共に、そう言ってくれたのだった。
迷宮情報 22日目
迷宮評価 9
迷宮パワー 678 毎日+14
迷宮コスト 39+2
迷宮階層 全3階
迷宮部屋数 全10部屋
住人一覧
シーナ シビリアン
リリィ アル・ワルキューレ (不在)
防人一覧
マオ ストーンマリオン
ウッドマリオン 20体
ストーンマリオン 5体
ブロンズマリオン 5体
ストーンゴーレム 2体
ストーンガーゴイル 2体
ブロンズガーゴイル 1体
罠一覧
簡易射槍壁 12個
施設一覧
畑 規模(小) 2反
人物一覧
無し




