王様! 家族への憧れですよ!
覚えている最も古い記憶の中では、私は既にオルガーンのスラム街にいた。
ある程度は一人でも動けるぐらいには成長していたこと……それと魔術評価が高かったこと……最後にギフトを持っていたことの三つが、幼い頃の私を生かしてくれた。
尤も、『ある程度は成長』していたと言うことは、生まれてから暫くは親……か、もしくは親に近い存在がいたのだろう……今となってはどうでも良いことだが……。
赤子の時に捨てられなかったことを喜ぶべきか……それとも、捨てられたことを恨むべきか……だがこれも、今となってはどうでも良いことだと思っている。
ギフトについてだが、生まれ持っての魔術評価が高く、更にギフト――グリムオペラが魔術評価に依存する力だったことから、私は大人たちに混じって魔物を討伐して、素材などを売って日々を生きていけたのだった。
私のギフト――グリムオペラとは、魔術評価と技術評価の成長率を上昇させると共に、ギフト所持者自身を幻影で包み隠し、相手に認識出来ないようにするギフトだ。
魔術評価に依存するため、ある程度魔術評価が高かったり、その幻影ですら誤魔化し切れないほどの経験を積んでいる戦闘の熟練者相手には効果が薄くなっていき、幻影は私を隠し切れなかったりするけど、少なくともオルガーンには、幼い頃の私でも誤魔化すことが出来る人しかいなかった。
スラム街の荒くれ者な男たちと魔物を倒して生きる日々を繰り返し、気付けば数年が経っていた。
その数年の間もギフトの恩恵と、強力過ぎる魔物と戦っていない―――強力な魔物は被害も甚大なため、赤字になりやすいから魔物討伐を一緒にする人たちが避けている―――ため、私は何度も戦いに参加しても怪我一つ無く、魔物討伐を無事に終えることが出来ていた。
無傷で討伐を達成する私の実力は、徐々に……でも確実に多くの人たちに知れ渡っていき、オルガーン以外の町からも依頼が来るようになっていき……そして、オルガーン以外の町で……私は『人の絆』と言うものを知った。
オルガーンの町は、良くも悪くも実力主義の町であり、治安も悪く、多くの人は他の町に住めなくなった賊崩れのような者たちばかりで……当然、殺人や強盗、奴隷売買が当たり前であり、疑心と怨嗟が蔓延る世界だった。
だから……それが『当たり前』だと思っていた。
誰もが自分が一番大事で……他者は利用し使い捨てる物だと……。
でも……別の町で依頼を受けた時、人の絆……繋がりを、私は知った……知ってしまった。
魔物に女の子が襲われそうな時……我が身を盾にして庇う男性の姿を……。
街中でお婆さんが強盗に遭った時……町の青年たちが、全力で追い掛けて強盗を捕まえる姿を……。
お金が足りずに困っていた男の子に、おまけだよ? と品物を渡してあげていた女性の姿を……。
他者への思いやり……絆はとても温かく幸せなことに思えた。
利用して自分だけが幸せになるのでは無く、協力して……助け合って共に幸せになること。
私には……とても素晴らしいものだと感じた。
だから……私もその幸せを……絆が欲しくて仲良くなりたくて、歩み寄ろうとした。
でも……歩み寄ることは出来なかった。
いつから……なのかは分からないけれど、私の異名……純潔と共に、広まってしまっていた噂によって。
曰く、純潔のリリィは魔物はもちろん、味方であるはずの同業者まで殺すほど、血に飢えた狂戦士だと……。
曰く、純潔のリリィが返り血を浴びないのは、ギフトの効果ではなく、味方を犠牲に……囮にして戦うからだと……。
曰く、純潔のリリィは報酬を独り占めにしたいから、仲間を殺して手柄を奪っていると……。
曰く、仲間が死んでも無表情である冷徹な人間だと……。
全くの出鱈目だったけど、その風評を消し去ることは出来なかった。
元々、私は口下手であり、感情を表に出すことも下手だったため、相手に伝えることが出来ず、誤解を与えてしまう人間だった。
更に、『何故か同行する同業者たちから、気が付いたらはぐれてしまっていて』、合流した時には同業者たちが殺されていて、一人で戻ることも多かったため、噂に信憑性が増してしまっていた。
結果……私は絆を得られず……温かみを感じられず、更に月日が過ぎていった。
やがては、純潔のリリィは一人で魔物討伐に向かわせるのが一番だと、言われるようになった。
結局……絆の存在を知る前と何も変わってはいなかった……いや、一つだけ変わってしまったことが有った。
……私の心だ。
知る前には気付かなかった。でも、知ってからは心に孕んでしまった……。
孤独と言う……猛毒を。
欲しても……望んでも……求めても孤独と言う猛毒を消すことは出来ず……更に魔物討伐に励んだ……少しでも、その猛毒を忘れられるように。
そして……リチャード――貴族からの山道沿いの魔物殲滅依頼を受けた時、進撃に出会い……進撃の傍にいた冒険者たちに狂戦士と呼ばれ……否定しようと、「何より……『人間を殺したことは一度も無い……』」と言えずに誤魔化してしまった。
そのことに自己嫌悪しつつ、その後も二日間、魔物殲滅に励み……水浴びのために川に向かった時、出会ってしまった……私よりも年上だと思う男性が、身体は小さいけれど私と同じぐらいの年齢に見える少女を背負い、川を渡るところに……。
それだけなら、いつも通り……私には手に入らない光景なのだろう……。
でも、彼らの傍にガーゴイルが見え、川岸にマリオンが見えた時、私は目を疑ってしまった。
更に……男性と少女が何かを話し合う横で、膝を抱えて大人しくしている姿を見た時は……驚きの余り、開いた口が塞がらなかった。
男性が笑う……少女が笑う……石造りのマリオンがちょこちょこと走り回り……それに他のマリオンとガーゴイルが続く。
彼らは……種族の別を気にせずに、ずっと楽しそうだった。
やけに鋭く察知する石造りのマリオンの視線を躱しながら、彼らが木製の扉が付けられた大きな横穴に入って行くまで、私は依頼も忘れて眺め続けてしまった。
彼らがいなくなってから、再び猛毒が心を蝕む。いつもよりも強く深く。
私が……行っても……彼らは笑って接してくれるだろうか?
そう……有り得ないことを思ってしまうほど、彼らは温かく幸せそうだった。種族の別を超えて存在する『絆』は……私すらも受け入れてくれそうに見えた。
だから、あの扉の近くの木の上で眠り、彼らが出て来てくれるのを待った。
もう一度……眺めたくて。
願いが通じたのか、翌日も彼らは姿を見せてくれた。
昨日と同様に眺めようとしたけど、鋭い察知能力を持つ石造りのマリオンに直ぐに気付かれ……それに気付いて見上げた男性に……一瞬だけ姿を見られてしまった。
でも、何も無かったかのように、男性は皆を連れて進んで行った。
……バレてない?
もしも私に気付いていたら、進撃の時のように純潔のリリィだと言われ、怯えられるはずだから、バレていなかったようだ。
良かった……。
……でも、仲良くなるためには必ず顔を合わせなければいけない。
……難しい。
魔物討伐の何倍も難しい……。
どうしようかと考えている間に、魔物が接近していたことに気付いた。
でも、少し気付くのが遅くて戦闘が始まってしまっていた。
魔物――ウォルグガラフの速さに翻弄され、私が気付いた時には、男性の剣が弾かれ……少女を庇っていた。
直ぐにギフトを使い、男性とウォルグガラフの間に入り、首を刎ねる。
彼らの前に出てしまったことよりも、彼らが心配だったため、頑張って話したが……結果は驚きの連続だった!
私を見ても驚かない。
逆に私のことが分からずに、困っていたから名前を教えたけれど、それでも驚かない……怖がらない。
そればかりか当たり前のことをしただけなのに、ありがとうと言われた。
初めてされた感謝は……少し恥ずかしかった。
何かお礼を……と言われた時、一緒にいさせて欲しい……と言おうとした瞬間! お腹が鳴いてしまった……。
恥ずかしかったけど、一緒に食べないかと誘われて……嬉しい誤算と言うやつになった。
その後も賑やかで楽しかった。少女――シーナは何か思うところが有ったようで、泣いていた。
……慰められない自分に嫌悪するもどうしようも出来ず、結局男性――お兄さんと言う、迷宮の主さんがシーナを慰めてくれた。
食事は楽しく、途中から口下手な私にも話し合いが出来るように、お兄さんが話題を出してくれて……おかげで凄く話せた。
純潔のリリィと知っても……味方も殺す狂戦士と呼ばれていると知っても、お兄さんたちは態度を変えず、むしろ私の言葉を信じてくれた。
私は……孤独と言う猛毒を消し去ってくれる人たちに出会えたんだ!
だから……別れたくなくて……一緒にいたくて……私は、お兄さんたちにお願いしてしまった。
「私も……ここに……住まわせて欲しい……」
迷宮情報 21日目
全く変化無し




