王様! 考察と果実ですよ!
〔ですが王様? 確かにリリィちゃんと戦っても、絶対に勝てないでしょう……ですが、大丈夫なのではないでしょうか?
ちょっとしか見てませんけど、リリィちゃんからは殺意などは一切感じられませんでしたよ? むしろ友好的な感じがしていたんですけど……?〕
寝室に向かう途中……2階層への降り階段に続く通路で、迷宮が聞いてくる。確かに友好的で害は無さそうだが……。
「『だからこそ』だ」
〔だからこそ……ですか?〕
「彼女は昨日、僕たちを見ていたらしい……迷宮に帰るところをな。
だが、言い換えれば昨日初めて僕たちを見たとも言える。何度も見ているのなら、昨日ではなく、いつもや毎日と言うはずだ。
もちろん、単なる言葉遊び……いや、言葉の揚げ足取りでしかないだろう。僕の推測に過ぎず、本当は昨日以前から僕たちを知っていたかも知れない」
〔なるほど……? ですが、仮に王様の言葉通りに、昨日初めて王様たちを見つけたとしましても、迷宮には何も問題は無いように思えますが……? リリィちゃんは凄く友好的な良い子のようですし……〕
「迷宮……『初対面』で、あれだけ友好的なのは……普通か?」
〔!!!
……確かに普通では無いですね。初対面……更に王様たちは迷宮で暮らしていますからね。普通なら警戒しますね〕
「あぁ……だからこそ分からない。何故、いきなりあれだけ友好的なのか……」
〔…………〕
「考えても答えは出そうに無いな……本人にそれとなく聞いてみよう」
〔……正直に言ってくれるでしょうか?〕
「何とか聞き出してみよう……彼女は表情からは読み難いが、雰囲気は読み易いからな……そっちで攻めるしかない。
最悪、彼女が敵か味方かだけでも分かれば上出来だろう」
〔はい……頑張って下さい〕
「助けてくれた恩人で、理由はまだ分からないが友好的な彼女を、こんな風に考えたくはないんだが……迷宮の主として迷宮を守るためにも、家族の長として家族を守るためにも、疑って掛からないとな」
〔……はい〕
2階層の迷路に入り、更に進む。僕に分からないことは少しでも迷宮に聞かなければならないため、自然とゆっくり歩いてしまう。
「寝室に着く前に、もう少し聞いておきたいんだが……彼女――リリィさんの情報に表示されていた『アル・ワルキューレ』と『純潔』と言うのは何だ?」
〔アル・ワルキューレですか……ワルキューレ自体は『聖戦に赴く戦乙女』を意味します。アルは『無垢』……だったと思いますよ。
純潔とは異名のことですね。異名は他者によって呼ばれ決定されます。
純潔と呼ばれる所以は……アル・ワルキューレだからでしょうかね?〕
「純潔の異名と無垢な戦乙女と言う職業……か。彼女の友好的な感じと合わせると、誰が見ても誰が聞いても、良い娘さんにしか思えないなぁ」
〔……本当にそうですねぇ〕
良い子と思いたいが……やはり彼女に聞いて、しっかりと判断しなければな。
「遅くなってごめんな……って、シ、シーナ!? ど、どうしたんだ?」
3階層に在る、寝室部屋に戻って来た僕の目に映ったのは、涙を流しながら鍋箱を掻き混ぜているシーナの姿だった。
「…………」
マオは、そんなシーナを元気づけようと……でも、どうすれば良いのか分からずに、結局オロオロと寝室をふらついていたが、僕が戻って来たのに気付き……てててっ! と走りよって来て、僕の太股に抱き着いた。
リリィさんはやはり無表情だが、雰囲気はマオと同じく困っているようで、所在無さげに隅でじっとしていた。僕に気付いたようで、こちらを見つめながら、困った……と言う雰囲気をぶつけてくる。
正直に言おう……意味が分からない。
僕も状況が分からず困っていると、漸くシーナが僕に気付いたようだ。ゆっくりと僕に近づいて来るが……正直怖い。
料理をしている間は、いつもニコニコしていたシーナが、今は涙を流しながら幽鬼の如くゆらゆらとこちらに近づいて来る……どう考えてもホラーにしか見えず、自然と後退りをしてしまう。
「め、迷宮!? 何が起きた? ……迷宮!?」
〔…………〕
視線を合わせないように……むしろ視界に入らないように天井を見ながら、必死に迷宮に呼び掛ける……が、迷宮からの返答が無い。
「お、おい迷宮!?」
〔すぅ……すぅ……〕
見・捨・て・ら・れ・た!!!
お前ついさっきまで起きてたじゃないか! とか、僕を見捨てるとか無いだろう!? とか色々と頭の中で考えるが……言葉として紡ぐ前に……腕を掴まれた。
恐る恐る視線を下げる……腕を掴んでいたのは、やはりシーナだった。
涙で濡れた虚ろな瞳が……僕を捉らえて離さない。
「シ、シ、シーナ?」
「ねぇ、お兄さん……リリィさん……私と二歳しか違わないらしいんです」
「そ、そうなのか?」
な、何が言いたいんだ?
「……二歳しか違わないのに……どうしてこんなにも実り方に差が出るのでしょう?」
「み、実り方?」
何だ? 実り方って? 何に対して言っているんだ?
じょ、情報が少な過ぎる……。
マオは僕の太股にしがみつきながら、ぶるぶると震えている。
いつも通りに僕を守ってくれぇ……僕の小さな勇者ぁ。
無理! 無理! って首を振らないでくれ……。
「きっと……ギフトですよね……だから……探しに行きましょう!」
「な、何を?」
「バストリベリオンと言うようなギフトを! ……です!」
……どんなギフトだ? と言うよりも、シーナの雰囲気が戻ってる気がする。
「……シーナ? 正気に戻ったのか?」
「???
正気……って、何のことですか?」
気のせいか?
僕の腕を掴むシーナは何を言ってるんです? と首を傾げている。
……恐らく、普段と違う雰囲気だったため、変に怖く見えただけのようだ。
「それよりもお兄さん! ギフトを! バストリベリオンが欲しいんです!
果実は平等に実るべきだと思います! そう思いません?」
「……すまないが良く分からないから、もう少し詳しく説明して欲しい」
順序良く聞いたところ、リリィさんに呼び捨てにして欲しいと言われたが、年上だから呼び難いですとシーナが断ろうとした。
だが、リリィさんが教えてくれた年齢はシーナと二歳しか違わなかった。
しかし、胸の果実は二歳しか差が無いにも関わらず、リリィさんはたわわに実っている……何だこの実りっぷりは? 収穫無双でもするつもりか? と嫉妬仮面が降臨しそうになるも、もしかしたらギフトかも? と思いギフトなら仕方ないと納得する。
だけど……あれ? 涙が出ちゃう……可笑しいな……と思っていたところに僕が戻って来た。
お兄さんならと、最後の頼みの綱と言わんばかりにギフト探しに行きたいと言ってみた……と言うことだった。
…………無駄に長いし無理だろう……特に最後、僕に何を求めているんだ。
しかし……無理だとはっきり言うのは簡単だが、多感な年頃のシーナを傷付けたくは無い……どうすれば良いのだろうか。
「胸に……関するギフトは……持って無い……」
「ちょっ! リリィさん!?」
今、一番言ってはいけない言葉を……。
「…………神様は……いらっしゃられないのですね……」
掴まれた腕が放され、シーナがフラリと倒れ伏した。
「シーナ!?」
「……!」
「えっ? ……ご、ごめん……なさい?」
〔くぅ……くぅ……敵果実……むしり取ったり~……です……むにゃ〕
慌てて僕とマオが介抱し、リリィさんは何となく止めを刺したと理解し謝ってくれる。
……迷宮は……本気で寝てやがるな……ちくしょう!
リリィさんに詳しく聞くのは、シーナが起きて昼食を食べてからだな。
「……まずい! マオ! 鍋箱を掻き混ぜてくれ! 吹き零れている!」
「……!!!」
迷宮情報 21日目
全く変化無し




