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王様! 山が騒がしいですよ!

「…………」


「…………」


「……!」


僕の隣で釣竿を握っていたマオの釣竿が上下に揺れる……!

びっくりして慌てるマオを『また』手伝おうと、マオの釣竿を僕も掴もうと手を伸ばす……が。


「またか……」


「マオちゃーん!」


『また』引きずり込まれた……これで三度目だ……。

マオは器用にもバシャバシャと一人で岸辺に泳いで戻って来る……しかも、しっかりと釣竿も持って。


「……どうしてマオには大物が掛かるんだ?」


「わっ? わっ?

お、お兄さん!」


「シーナ……小魚だろう? そうだと言ってくれ。

……小魚でも釣れるなら良いけどな。

……僕? 僕の竿はピクッとも動かないよ……ハハハッ!」


「お兄さーん! 重いですよぅ……助けて下さーい!」


「…………ハハハッ」


「うぅ~……」


……現実逃避している場合では無いらしい。

釣竿は掴むと僕もシーナも引き難くなるから、シーナを抱きしめて引っ張る。


「ふぁっ……お、お兄さん! そこは……だ、駄目です! もう少し……あんっ……下の方を掴んで……あっ」


「えっ?」


何故か、なまめかしげな声を上げるシーナに驚いてしまう。……下の方? 僕の今掴んでいる部分は…………胸だった。


「お兄……あっ……駄目! ……くぅん! もう……無理ですぅ……あんっ」


「あっ……!」


顔を真っ赤にしたシーナの手から釣竿が零れ落ち、川に流されていった……。


…………その後、シーナに謝るも、シーナは真っ赤な顔でうーうーと唸りながらぽこぽこと胸を叩いて来るだけで、迷宮内に帰って夕食が終わるぐらいまで、口を聞いてもらえなかった……。

ぽこぽこと叩くシーナを真似て、マオもむいむいと太股の辺りを押してきた……。

最近良く押すけど気に入っているのだろうか?




昨日に続き、今日も平和に過ごせたようだ!


…………たぶん。









……自分たちは弱いことは、分かりきった事実だ。

それでも、亡き英雄の願いである生き残るために、新天地を目指さんとウォルグたちとの決戦に臨んだ……。

そう、我々ゴブリンたちとウォルグたちとの決戦……のはずだった。


「依頼されたこと……魔物の殲滅…………開始する」


決戦の最前線は……ウォルグたちと同胞であるゴブリン、ゴブリンウォリアーたちにより、激しい攻防が繰り広げられている。

ウォルグが同胞を食い殺せば同胞がウォルグを殴り殺し、ウォルグが同胞を切り裂けば同胞の魔術で焼き殺す。魔術により僅かに優勢だと……勝てると思ったその時……微かな人間の声と共に、最前線のウォルグたちと同胞たちの首が一斉に転げ落ちた……。


首を失い、崩れ落ちる同胞とウォルグの屍の中に、いつの間にか人間がいた。流れ続ける赤い世界の中心にいるにも関わらず、その人間が纏う真っ白な服は一滴の赤にも染められていない……。


「残らず……殲滅する」


そう呟いた人間の両手には、銀色の剣が握られていた……先ほどまでは、何も持っていなかったはずなのに……。


「グル――ッ!?」


突如現れ、同胞とウォルグを殺した人間にウォルグが唸り声を上げながら飛び掛か……ることも出来ずに首が跳ね飛んだ……!

あの人間は動いていないはず……何が有った? いや……あの人間は何をした?


「……往く」


人間が頭上で銀色の剣を交差させ……一言呟いた瞬間!


世界は赤く彩られた……。


圧倒的な速さを誇るウォルグが……何が起こっているのか把握出来ず、棒立ちのまま首を跳ねられた。

それを認識出来た時には、同胞たちが数体崩れ落ち……直ぐさま別のウォルグが首無しの姿を晒す。


何も出来ない……。


最早、ウォルグたちとの決戦などと言っている場合では無い……。

いや、もう……無理なのだろう。

死を覚悟するしか……。


――生キロ! 我ガ望ムハ、同胞タチガ平和ニ暮ラセルコトダ――


死を覚悟……するわけにはいかない!

自分たちの今が在るのは誰が頑張ってくれたからだ!? 英雄……ゴブリンキングのおかげだろう!

ゴブリンキングが望んだのは何だ!? 我々が……生きることだ!


ならば……今! 自分がするべきことは何だ!?


……逃げて……あの人間から逃げ延びて、住み処で帰りを待つ同胞たちに知らせることだ!


死んで堪るものか!!

必ず……同胞たちの下へ……帰るんだ!!







「……倒した?

……まだ?」


…………。


「ブフゥ!」


「ブーフゥッフゥ!」


「……!

まだ……?」


…………。


「……行く」


…………。


…………。


……微かに聞こえていた足音が聞こえなくなった……。

同胞たちの屍の山から這って出る。

赤い世界にウォルグたちと同胞たちだった物が無数に横たわっている……。逃げ延びるためにどうしようかと考え、あの人間の見えない動きからは逃げても無駄だと判断して、一番助かる可能性の有るだろう同胞たちの屍の下に潜り込んでやり過ごすことにした……。

潜り込む瞬間を見られていたら終わりだったが、何とか生き残ることが出来た。

物言わぬ同胞たちに別れを告げ……住み処に急ぐ。


ゴブリンキング……そして同胞たちよ……必ず、生きてみせる!


決意を抱き、同胞たちの血に塗れた身体を引きずりながら、住み処に向かい……歩みを進める。

……今日の夕暮れまでには辿り着けるだろうと考えながら……。







「思ったよりかは早く辿り着けそうだなぁ……?

おい! ひよっこ共……大丈夫かよ?」


「無理っす……無理っす……」


「ははっ……足が震えてますよ」


「ひぃ……ひぃ……」


「も……駄目……でしゅ」


「もう……動けません」


「川の向こう岸で……死んだはずの……母さんが見える……」


「休……ませ……て下さ……い」


山の中の狭い山道を、大剣を背中に担いだ隻眼の大男を先頭に、数人の少年少女たちが続く。

少年少女たちは皆若く、年齢は十代半ばから後半ぐらいだろうか?

先頭を進む大男以外の――少年少女たちは、皆一様に息を乱し足を震わせている。


「……ちょっとばかし、急ぎ過ぎたかぁ?」


「ちょ……っと?」




「……フルトホルンの街から、半日でここに来るぐらいの速さで……?」


「ふ……普通は一日……半は掛か……ると思う」


「は……ははっ」


「…………キュゥ~」


「母さん……」


「フィガロさ……ん。休ま……せて下……さい」


「……はぁ。

もう少ししたら平地に出る! それまで辛抱しろ!」


「は~い……」


「お~……」


ゴブリンの住み処の調査の監督として同行しているフィガロとしては、とっとと終わらせたいところだが……冒険者になって初めて魔物討伐に出た少年少女たちにとっては、かなりの強行軍らしかった……。


「……日が暮れる前にはゴブリンの住み処に着きてぇもんだがなぁ……」

そう呟きながら、隻眼の大男――進撃のフィガロは『歩く速度を変えず』に山道を進むのだった。


「フィ……ガロ……さん」


「ひ、酷……い」


「うにゃぁ……」










…………何だ……これは?


住み処に帰る道で……少しずつ違和感が強くなっていく……。

何故、同胞たちの声が聞こえない?

何故、同胞たちの気配を感じられない?

何故……血の臭いが再び濃くなっていく……!?


あの赤い場所から随分と離れたはず! 自身を染める血も乾いているはず……。ならば……どうして……?


自然に速まる歩みにも気付かず、住み処へと急ぐ……そこに在ったのは……人間たちの姿と……赤く染まった同胞たち……。



……ゴブリンキング……申し訳無い。自分は貴方の願いを叶えられそうにない……。


同胞たちよ……今……そちらに往くぞ!!!


『最期』の力を振り絞り、人間に突撃する!


「ゴブリンジェネラルだ! まだ残っていたのか!?」


「倒せー!」


人間たちが気付き……得物を構える。

……せめて一矢……報いさせてもらう!!




「……お前らは手を出すな!

俺が相手をする」


「フィ、フィガロさん!?」


「どうして……」


一番大きい人間が、自分の前に立ち塞がった。


「キィ!」


全力でその大きい人間に殴り掛かる…………腹を殴った自分の右手の骨が砕けた。


それでも……もう片方の手で殴り掛かる! ……やはり、手の骨が砕けた。


「キィ!!!」


それでも……!! それでも……!!!


「闘争心を未だ失わず……か。

ここはお前の住み処で……出て来たのは、仲間の仇討ち……だよな?

……こっちも守る者たちのために、お前らを倒さなけりゃいけなかった。

……すまねぇな」

……一矢……報い……。


……自分の最期に見えたのは、大きい人間の右拳だった……。


「良い目だったぜ……。

死を覚悟しても仲間のために立ち向かったお前さんは……立派な英雄だ」


そんな言葉が……聞こえた気がした……。







迷宮情報 17日目

迷宮評価 9

迷宮パワー 691 毎日+14

迷宮コスト 39+2

迷宮階層 全3階

迷宮部屋数 全10部屋


住人一覧

シーナ シビリアン


防人一覧

マオ ストーンマリオン

ウッドマリオン 20体

ストーンマリオン 5体

ブロンズマリオン 5体

ストーンゴーレム 2体

ストーンガーゴイル 2体

ブロンズガーゴイル 1体


罠一覧

簡易射槍壁 12個


施設一覧

畑 規模(小) 2反


人物一覧

無し

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