王様! 出番が無いですよ! (二章)
住民はもちろん、多くの商人と旅人も加わり活気に溢れる、フルトホルンと名付けられたこの街の大通りの一角に在る大きな建物――ギルド。
毎日たくさんの依頼が、文字通り飛び交う施設である。
魔物討伐や商隊護衛などはもちろん、犯罪者捕縛や遺跡調査、物資輸送と言った物から家庭教師や配達、果ては庭掃除など様々な依頼が掲示板に載せられ、ギルド所属の冒険者たちが自分に合った依頼を受け、依頼を完遂して、報酬を貰う。
今日もまた、歴戦の冒険者は魔物討伐など危険な依頼を受け、中堅の冒険者もそれに続き、駆け出しの冒険者は先達に師事してもらったり、ゴブリンなど手頃な討伐依頼で経験を積んでいく。駆け出しですらない初心の冒険者は、庭掃除や町内配達などで師事してもらったりするための人脈と、武具や薬を調えるための支度金を手に入れる。
そんなギルドの一室で、初老の男性と鎧に身を固めた三十代後半ぐらいの隻眼の大男が話し合っている。
隻眼の大男は座っているが、立てば二メルトに届きそうなほどの背丈で、腕は幼子の胴よりも太そうだ。全体の身体付きもがっしりと筋肉で覆われており、人間と言うよりもゴーレムと言った方がしっくりと来そうである。初老の男性も年齢からは信じられないような身体付きであるが、隻眼の大男と比べると細く見えてしまう……。
「つまりだ……ゴブリンの住み処を、ひよっこ共が調査するからお守りをしろってことで良いんだな?」
「そうじゃな。その認識で問題は無い」
「……面倒臭えなぁ。
ひよっこ共は何か有ると直ぐにピヨピヨとうるせえんだよな……」
「基本的にはお主は何もしなくて良い……じゃが……」
「ゴブリンキングを倒した奴がいる……だろ?」
「うむ……あの山のゴブリンキングは中々に強力じゃったからな。
そんな魔物を倒す何かが、あの山にはおる……と言うことになるのじゃ」
「ギルドの連中や騎士団はどうなんだ?
たまたま遭遇して倒しましたーってな」
「ギルド所属ならば、ランクと報酬のために報告するじゃろう? 黙っていても益は無いからのう。
騎士団も同様に隠す意味が無い……近隣の住民を安心させるために必ず知らせるはずじゃ」
「そりゃあそうだなぁ……」
「じゃからこそ、お主に駆け出しの冒険者たちの監督をしてもらいたい。
もちろん監督と言っても同行するだけで構わぬし、報酬もしっかりと渡そう。駆け出したちにはあくまでも、調査――ゴブリンの住み処の破壊と残党討伐をさせ、経験を積ませるのが目的じゃ」
「……万が一、ゴブリンキングが実は生きてるとか、ゴブリンキングを討伐した正体不明がいたら……俺ってか」
「うむ……」
「……分かった。
まっ、ギルドマスターの頼みは断れねえよなぁ」
「ふぉっふぉ! 良く言うわい!」
「よっしゃ! そうと決まれば、ひよっこ共の面倒見る前に腹拵えでもさせてもらうかね?」
「……わしも行くのか……と言うよりも奢らせられるのかのう?」
「もちろんだ! ……安心してくれ! 行かないって言っても引きずって行くからよ!」
「老人は労るものじゃぞ?」
「大丈夫だ!
ギルドマスター以外にゃ俺は優しいぜ?」
「フィガロ……お主酷いのう……」
夜遅く……全体的に傷みが酷く朽ち果てそうな酒場の中で、ガラの悪い荒くれ者たちが安酒で酔いしれる……酒場の奥のテーブルでも二人の男が酒を飲んでいる……。
「あぁ!? ゴブリンだぁ?」
「へい! 馬車とその周辺に奴隷とウォルグ共の食い散らかされた死体、土饅頭の簡単な墓が幾つか有りやして、一つ二つと掘り返したところ、ゴブリンが埋められてたんでさぁ!」
「埋められたゴブリン……ってこたぁ、ゴブリンキングが来やがった……ってか?」
「そうらしいでさぁ!
それで、どうしやす?
調査に向かった時は、馬車の積み荷を全部は取れなかったんで、今度は隊を編成して馬車の中に残ってる物を取りに行きやすか?」
「…………ゴブリンキングはやられたらしいがなぁ……今は止めておくべきだろうな」
「ゴブリンキングがやられたって……マジですかい!?
あの山のゴブリンキングは相当強いって話でしたぜ!」
「あぁ……だが、あの辺一帯のゴブリン共……群れていたはずだが、今は散り散りになってるらしいぞ?
統制していたゴブリンキングがいなくなったとしか思えねぇ……。
大方、ギルドの冒険者が討伐したんじゃねえかぁ?」
「冒険者の奴らですかい?」
「あぁ……噂じゃあ、最近になって『進撃のフィガロ』を、ここいら辺りで見たって奴もいるらしいからなぁ……」
「…………進撃のフィガロって、ギルドランクSのあの化け物ですかい?」
「化け物ねぇ……確かに化け物と言えば化け物だな……ありゃ、人間じゃねえだろうよ」
「……ってもしかして、進撃のフィガロがあの山辺りをうろついているってことですかい?」
「馬鹿野郎! どれだけゴブリンキングが強かろうと、ギルドのSランク様が、たかがゴブリンなんぞのために動くわけねぇだろうが!」
「じゃ、じゃあどうして積み荷を回収に行かないんですかい?」
「ここからオルガーンの町まで行くのに、街道を通るよりあの山を通ると、かなりの時間短縮が可能なのは分かるよな?」
「へい! ここラントペットからフルトホルンまでを、街道で進むと最低でも五日は掛かりやす!
フルトホルンから、オルガーンまでが街道で五日でさぁ!
ですが、あの山を通ると、オルガーンからフルトホルンへの日数は、ゆっくりと進んでも、三日ぐらいで到着出来やす!」
「そうだ、更に街道と違って騎士団の連中も通らねぇからな、奴隷や麻薬も容易に運べる……」
「ですが、それが積み荷とどう関係が有るんですかい?」
「俺たちは何でヤバい物を苦労してまで運ぶんだ? 買う連中は誰だ?」
「えっ? ……そりゃあ馬鹿貴族たちでさぁ……!?
もしかして……馬鹿貴族が……?」
「あぁ……噂っつうよりも確実性の有る情報だが……貴族からの依頼で、あの山に『純潔のリリィ』が向かったらしい。
魔物の大規模殲滅ってことでなぁ」
「…………純潔のリリィって……」
「あぁ……『自身の血も流させず、返り血も浴びない』って言うあのリリィだなぁ……。
更に敵味方関係無く殲滅するって言うらしいからな……山ん中で会っちまえば、下手したら邪魔者と思われて気付かねぇ内に……首がコロリッ! ……てなぁ」
「ひぃっ!?
……ヤラレーの頭ぁ……」
「あん?」
「行くの止めますぜ……」
「当たり前だろうが……俺たちじゃ、死にに行くようなもんだろうよ……」
「一番強いヤラレーの頭でも、戦術評価30ですからねぇ……」
「この前調べたら31になってたんだよ!」
「…………へい」
「…………ちくしょう」
深い山の中、昼間のはずだが木々の枝葉に空を覆われ、薄暗いその場所……ゴブリンとウォルグの死体により、地面が隠されてしまっている……。
ゴブリンにはゴブリンウォリアーはもちろん、ゴブリンジェネラルやゴブリンマージまで大地に敷かれた絨毯の役を担っていた。
ゴブリンとウォルグは双方50以上はいるだろうか?
大規模な戦いでも有ったようにしか思えない……。
「……倒した? ……まだ?」
その赤い肉で出来た絨毯の中心に一つの人影が見える。
その人影は赤い世界には場違いな『真っ白い』ドレスを纏っている。
年齢は十代後半か二十代前半か、いずれにしても美しい女性だ。だが、その美しさは彫像のようで、表情はピクリとも動かない。
「……!
まだ……?」
何かを見付けたのだろうか? 虚空を眺めていた視線を一点に向ける。
「……行く」
その瞳が見つめる先に何かを見付けたのか、相変わらず表情を一切変えず、女性が走り出した!
彼女のいなくなった後には……肉の絨毯だけが大地に敷かれていた……。
迷宮情報
???




