王様! 出番が無いですよ! (一章)
……私を乗せた馬車が、ガタガタと揺れながら山の中を進む。
馬車の中には私の他にも数人の女性が乗っているけれど、皆一様に俯いて肩を震わせている。未だに涙を零し続けている女性もいる。
……馬車の外からは男たちの笑い声が聞こえてくる。
男たちは自分の自慢話や、大金が手に入った後のやりたいことなどの話で盛り上がっている。
……街に着いたら、馬車にいる私たちが大金に変わる。
男たちは盗賊で、私たちは彼らの売り物――奴隷だ。
私は小さな町の孤児院で育てられた。
物心がつく前から、自分には両親がいないんだと、何となく理解していたけれど、優しい院長と孤児院で一緒に育てられた仲間たちがいたから、寂しくは無かった。
決して裕福では無かったけれど、いつまでも続いて欲しいと思える暖かい生活だった。
でも……その生活は突然終わってしまった。
町のある領地を所有する領主様が交代してしまわれた。
交代する前の領主様は、領民のことを大切にして下さる優しいお方で、税も少なく、孤児院にも寄付金を送って下さっていた。
……交代で領主となった貴族が最初に行ったことは、税を重くすることだった。更に、孤児院への寄付金も送られなくなった。
院長が必死に金策に励み、私財を投じて下さっていたけれど、無理のし過ぎで院長は病を患ってしまい……亡くなられた。
院長がいなくなってしまい、当然孤児院は立ち回らなくなり、潰れてしまった。
帰る家の失くなった私たちは生きていくために、バラバラに別れることになった。
孤児の中でも最年長の者―――それでも十代半ば過ぎだが―――の何人かは、幼い子たちを連れて別の町の孤児院を目指して。
他の年長者の何人かは日雇いでも何でも良いから働きに、大きな町を目指して行った。
私も年長者の一人だったから、別の町を目指すために皆と別れた。
本当は、一緒に孤児院を目指そうとも考えたけれど、共に行く年長者が多過ぎると、旅の途中の食料が心配になるし、最悪は辿り着けた孤児院を圧迫させかねない。幼い子たちだけでも随分いる。
孤児院を目指す年長者たちも、孤児院までは送るがその後は働きに出ると言っていた。
だから、旅の間の食料などのことも考えて、孤児院へ同行する年長者はむやみに増やすわけにはいかなかった。
こうして私は一人で旅に出たのだけれど、街道で盗賊に捕まってしまい……今に至る。
当たり前のこと……だよね。
孤児院で育った世間知らずの小娘が一人で歩いているなんて、捕まえてくれと言っているようなものだ。
……奴隷として売られて……私はどうなるんだろうか?
良くても慰み者か、それに近い扱い。最悪は壊されるか殺されるか……。
……誰か……助けて……。
「なっ!? くそっ! 馬車を守れ!」
男の慌てているような声がした。
何かがこちらに向かっているようだ。
願いが通じたのかな……?
少しだけ希望が見えた。頭の中で絵本のお伽話が思い出される。
悪い奴らから、少女を救ってくれる勇者の物語。今の自分にぴったりと当て嵌まるのではないだろうか?
助かるのかなぁ?
まだ分からないのに、それでも無知な私は、勇者が助けに来てくれたと信じてしまっている。
だから……、男たちの次の言葉が何と言っているのか、直ぐには理解出来なかった。
「『ウォルグ』が襲って来たぞ! 馬車を中心に、円陣を組め!」
………………。
…………エッ?
……ウォルグ? ま……もの?
……勇者様は?
「かっ! 数がやべぇぞ!」
「ひいっ! 軽く10体はいる……ガハッ!?」
ぶちゅっ!! と言う音と共に、馬車の幌に赤い模様が現れた……。
「カーマ!? ち、ちきしょう!
ぶち殺してやブベッ!」
「か、頭! セイヌまでやられちまった!!
こりゃ無理だぜ!? ずらかりましょう!」
「ぐっ……! ちくしょうが!!
奴隷を餌にして逃げるぞ!」
外から咆哮と怒号と悲鳴が聞こえて、その直後には、複数の足音が聞こえて、その音は徐々に小さくなっていった。
私も含めて、中にいる女性たちは何がどうなったのかも分からずに膝を抱えて啜り泣く……。
「ヒグッ!?」
一人の女性が突然奇声を発した。
反射的に私は奇声のした女性を見てしまった!
……首から鋭い爪が生えていた!
女性はパクパクと口を動かしているが、聞こえてくるのはヒューッ! ヒューッ! という音と、ゴポゴポという音だけだ。
「イヤー!!」「ヒィー!!」
僅かな静寂の後、馬車の中で悲鳴が上がった!
私は初めて見る光景に、口からは何も出せなかった。
幌が切り裂かれる!
悲鳴を上げる女性たちが、次々と赤く染め上げられていく……。
無意識に身体が動いた。逃げなければ、私も赤くなって動かなくなる!
馬車から降りて、震える足で逃げようとする私の背中に、スッと何かが振り下ろされたような気がした。
……痛イ?
背中ガ痛イ!?
背中が痛みを訴えてきた。ドクドクと何かが溢れ、流れ落ちる感覚がする!
震えていた足が痛みによって更に震える。
走れない! 意識が朦朧とする!
それでも逃げる!
動かなくなれば、確実にやられてしまう!
そんな少女の頑張りなど知ったことかと、無慈悲な鋭爪は振り下ろされ……
なかった。
突然、ウォルグたちは少女を狙うのを止め、一点を見つめ出す。
そんなことも知らずに……気付かずに、少女は逃げる!
そして少女が木々で見えなくなるほどに離れた時、ウォルグたちの目の前に緑色の身体の魔物たちが現れた。
「血ノ臭イニ釣ラレ、ヤッテ来テ見レバ……吠エルダケノ獣ガ在ルカ……」
その魔物たちの中の1体が低い声でウォルグに話し掛ける。
その魔物は他の同種の魔物たちよりも、かなり大きい。
背丈は1メルトと40セントは有るだろう。身体には錆びてはいるが、鉄の鎧に包まれている。
背には同じく錆びてはいるが、鉄の剣を背負っている。
更にボロボロだが赤色のマントまで羽織っている。
「グルルルッ!」
「フム……気ガ高ブッテイルヨウダナ?
ダガナ……我ラモ気ガ高ブッテイルノダヨ。
最近現レタ迷宮ガ、我ラノ同胞ヲ尽ク喰ラッテイテナ?
同胞タチノ仇ヲ討タント、コウシテ我ガ自ラ出陣シテオル。
悪イガ我ラニ出会ッテシマッタ、オ主ラノ不運ヲ呪ッテクレ!
同胞タチヨ!! 戦ノ前ノ腹拵エゾ!
吠エルダケシカ出来ヌ雑魚ドモヲ喰ラッテヤレ!!」
「キィー!!」「キィキィ!!」
「グルル!!」「ガァ!!」
……それから暫く。
日が沈む少し前。
赤い大地と赤い馬車の在るその場所には、肉を喰らうゴブリンの群れと、『焼け焦げた』ウォルグたちの死体が在った。
「ハァ……ハァ……」
少女は足を前に出す。
もう走ることは疎か、歩くことも出来ない……それでも足を動かす。
やがて、ぽっかりと開いた一つの横穴を見つける。
朦朧とする意識の中、少女はその横穴に……迷宮の入り口に足を踏み入れて……意識を失った。
〔王様? 迷宮の入り口に……〕
迷宮情報
???
(いらない)補足
盗賊頭 ヤラレー
盗賊 ヤーク
盗賊 カーマ
盗賊 セイヌ
盗賊 イラネー
盗賊 イヤッツ
盗賊 デヴァナシン




